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舞風学園演劇部3 舞台の継承  作者: 舞風堂
第三章 夏休みの思い出
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11/11

第十一幕 演劇部、撮影所へ

 夏休み。

 送迎バスがゆっくりと撮影所の正門前へ停車すると扉が開いた。


「着いたー!」


 真っ先に降り立ったのは、もちろんひのりだった。

 大きく背伸びをしながら、目の前の景色を見上げる。


「うわぁ……!」


 広大な撮影所。


 巨大なスタジオ棟がいくつも並び、その間をスタッフらしき人たちが忙しく行き交っている。


 大道具を運ぶトラックに撮影機材を積んだ台車。

 遠くには街並みを再現したオープンセットも見えた。


「思ったより広い……」


 綾音が思わず声を漏らす。


「一つの町みたい」


 風花も辺りを見回した。


「これ全部、撮影で使うんだ」


 りんかはきょろきょろしながら歩き始める。


「もうテンション上がる!」


「まだ入口よ」

 紗里が笑う。


「中入ったらどうなるの」


「もっと上がる!」


「予想どおり」


 七海は建物を見上げながら静かに呟く。


「映像作品って、こんな大勢で作るんだね」


 美春は搬入口の方へ視線を向ける。


「大道具だけでも相当な規模ですね」


 まひるも頷く。


「衣装部とか小道具部もあるんですよね」


 アリスは大きなスタジオ棟を見上げ、目を輝かせた。


「日本の撮影所を見るのは初めてだけど、想像していたより、ずっと大きいわ。」


「あと特殊メイクとかも」

 音羽が付け加えた。


「撮影現場って」


 みこは周囲を見渡しながら微笑む。


「演劇とはまた違う空気だね」


 唯香も懐かしそうに景色を眺める。


「久しぶりに来たけど、やっぱり変わらないわね」


 その言葉に、ひのりが振り返る。


「唯香ちゃん、やっぱりここ来ると落ち着く?」


「少しね」


 唯香は小さく笑った。


「小さい頃から何度も来てた場所だから」


 綾音が感心したように言う。


「なんだか、今日だけは唯香先輩がガイドさんみたいです」


「案内役なんだから間違ってないわね」


 唯香がそう答えた、その時。


「唯香。」


 落ち着いた男性の声が聞こえた。


 十二人が一斉に振り向く。


 スタッフTシャツ姿の唯香の父である宝秋哉が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 唯香は軽く会釈した。


 いよいよ、演劇部の撮影所見学が始まろうとしていた。


 正門を抜けた一行が最初に案内されたのは、撮影所のエントランスホールだった。

 壁一面には、この撮影所で制作された映画やドラマのポスターが並び、展示ケースには実際の撮影で使われた小道具や台本が飾られている。


「これ全部ここで撮ったの!?」


 ひのりが目を輝かせる。


「そうよ。映画だけじゃなくて、ドラマやCMも撮影してるの。」


 唯香が微笑んだ。


 七海は展示されているメイキング写真へ目を向ける。


「映画のメイキングを見るのは好きだけど……」


「こうして撮影所に来ると、一本の作品がどう作られていくのか、もっと知りたくなるね。」


 宝秋哉は展示を見渡しながら静かに口を開いた。


「映画は企画から始まる。」


「脚本ができると、美術や衣装が準備を始める。」


「撮影が始まれば、照明、録音、カメラ、助監督が現場を支え、役者が芝居をする。」


「そして撮り終えた映像は編集され、音楽や効果音が加わって一本の映画になる。」


 綾音が感心したように頷く。


「一本できるまで、本当にたくさんの工程があるんですね。」


 秋哉は静かに頷いた。


「今日は、その流れに沿って案内する。」


「まずは美術部。」


「映画の世界を作る場所からだ。」


「よーし! 映画の裏側、全部見てやる!」


 ひのりが元気よく拳を握る。


 唯香は苦笑した。


「全部は一日じゃ回りきれないわよ。」


 一同は期待に胸を膨らませながら、映画の世界を支えるスタッフたちのもとへ向かう。

 大きな倉庫のような建物の前で足を止めた。


「まずは大道具部だ。」


「うわぁ……!」


 中へ入ったひのりが思わず声を上げる。

 広い工房には木材が積まれ、大きな作業台では職人たちが電動工具を使って何かを組み立てていた。


 トントンと金槌や電動ノコギリの音。

 木の香りが辺りに漂っている。


「ここでセットを作るの?」


 綾音が尋ねると唯香は頷いた。


「映画やドラマで見る学校、病院、家、店……その多くは、ここで作られる。」


「えっ、本当に一から?」


 りんかが目を丸くする。


「一からだ。」


 秋哉は壁際に立て掛けられた木のパネルを指差した。


「これは壁に見えるが、実際は合板と角材でできている。」


 まひるがそっと触れる。


「軽い……。」


「撮影では、本物より扱いやすさが重要になる。」


 美春は作業中の職人たちを見つめた。


「美術スタッフだけで、一つの世界を作っているんですね。」


「そうだ。」


 秋哉は静かに答える。


「役者が芝居をする前に、この人たちが舞台を完成させる。」


 唯香も続ける。


「私は小さい頃、ここで遊ばせてもらったこともあるの。」


「完成したセットしか見ていなかったけど、大人になってから見ると、ここが映画の始まりなんだって分かるわ。」


 七海は組み立て途中の木造セットを見上げる。


「演劇部が舞台を組むのと似てる。」


 みこも頷いた。


「規模は違うけど、考え方は同じだね。」


 秋哉は少しだけ笑った。


「その通りだ。」


「映画も演劇も、まずは『世界を作る』ところから始まる。」


 大道具部を後にした一行は、隣の建物へと移動した。

 案内された先は、衣装・小道具・メイク部門。


 扉が開いた瞬間、部屋いっぱいに並ぶ衣装ラックが目に飛び込んでくる。


 学生服、スーツ、ドレス、白衣、警察官の制服、消防隊員の防火服、時代劇の着物や甲冑まで、用途ごとに整然と並べられていた。


 りんかは甲冑を見つけるなり駆け寄った。


「すっげー!本物みたい!」


 その横で、まひるだけは吸い寄せられるように衣装ラックへ歩いていく。


 ハンガーの間隔に管理札の付け方。

 布地の質感から裾の仕立て。

 縫い目の細かさ。


 次々と目に入り、その瞳がみるみる輝いていく。


「こ、この管理方法……すごいです……!」


 普段より少し早口だった。


「素材ごとに分けてあって、湿気対策もされてる……。同じ衣装でもサイズ違いがちゃんと並んでるし……管理札も撮影ですぐ分かるようになってる……!」


 夢中になって衣装を見つめるまひるに、ひのりが思わず笑う。


「まひるちゃん、なんか急に元気になった!」


「さっきまで静かだったのに!」


 りんかも思わず吹き出す。


 まひるははっと我に返ると、顔を真っ赤にした。


「ご、ごめんなさい……。その、実家が衣装店なので……こういうのを見ると、つい……」


 そう言いながらも、その視線はまた衣装ラックへ戻っていた。


 圧縮するなら、このくらいが読みやすいです。


---


 続いて案内されたのは、小道具部だった。


 棚には新聞や雑誌、本、食器、電話機など、撮影で使われる小道具が用途ごとに並べられている。


「すごい……!」


 ひのりは一冊の新聞を手に取った。


「あれ? 本物じゃない!」


 綾音も覗き込む。


「広告までちゃんと作ってあるんですね。」


 七海は紙面を見つめた。


「会社名も記事も架空なのに、全然違和感がない。」


 秋哉は静かに頷く。


「作品ごとにデザイナーが制作している。世界観や時代設定に合わせて、一から作ることも多い。」


「新聞まで作るんですか?」


 りんかが驚く。


「本物をそのまま使えない場合もある。だから必要なものは制作する。」


 美春は棚を見渡した。


「小道具一つにも、作品を支える仕事が詰まっているんですね。」


 部員たちは改めて、小道具一つひとつを見つめた。

 やがて一行は小道具部を後にし、次の見学場所へ向かう。


 目の前には、天井まで届くほどの高さを持つ巨大な建物が姿を現した。

 何枚もの大型シャッターが並び、外壁には『第3ステージ』と書かれている。


 ひのりが思わず見上げる。


「でっか……。」


 唯香が微笑んだ。


「ここからが、実際に撮影が行われる場所よ。」


 映画の世界が生まれる、その舞台がすぐ目の前にあることに全員の表情は引き締まる。

 秋哉は巨大な建物の前で足を止めた。


「ここが撮影ステージだ。」


 扉が、ゆっくりと開いていく。

 その瞬間、部員たちから一斉に感嘆の声が漏れた。


「わぁ……!」


 目の前に広がっていたのは、警察署のセットだった。

 受付カウンターに刑事課の執務室、取調室、留置場まで、本物の警察署と見間違えるほど精巧に作り込まれていた。


「今日は撮影が入っていないから、中まで見学できる。」


 秋哉の言葉に、ひのりの目がさらに輝いた。


「やったー!」


 部員たちはゆっくりとセットの中へ足を踏み入れる。


「すごい……。」


 綾音は辺りを見回しながら、小さく息をのんだ。


「本当に警察署に来たみたいです。」


 風花は受付カウンターを眺めて微笑む。


「テレビの世界に入っちゃったみたい。」


 りんかは刑事課の机を覗き込みながら声を弾ませた。


「これ、ドラマでよく見るやつだ!」


 七海は壁や天井へ視線を向ける。


「テレビで見るのと実際に立つと全然違うね。」


「思ったより広い……。」


 美春はゆっくりと周囲を見渡す。


「セットというより、一つの建物みたいです。」


 まひるは机の上の警察手帳や制服、掲示物へ自然と目を向ける。


「制服も、小物も……全部、このセットに合わせて作られてる……。」


 唯香は懐かしそうに微笑む。


「このセットは、刑事ドラマ『特別捜査班ゼロ』で使われてるの。」


 部員たちは改めて警察署のセットを見回した。


 撮影がない静かなセットには、今にも「本番!」の声が響きそうな緊張感が漂っていた。

 部員たちが思い思いにセットを見学していると、秋哉が静かに口を開いた。


「せっかくだ。少しだけ、セットの中で芝居をしてみるか。」


 その一言で、ひのりの目がぱっと輝く。


「いいの!?」


「撮影日ではない。小道具も動かさなければ問題ない。」


 秋哉がそう答えると、ひのりは迷わず刑事課の机の前へ駆けていった。

 椅子に勢いよく腰を下ろし、机を軽く叩く。

 

「よーし! 事件発生!」


 勢いよく立ち上がると、刑事になりきって部室のみんなを見回した。


「犯人は必ず捕まえる!舞風署捜査一課、出動だー!」


 そう言って取調室の方へ走り出す。


「ひのりちゃん、事件まだ起きてないから!」


 紗里が思わず笑いながらツッコミを入れる。


「えっ、そうなの!?」


「まず事件が起きてからよ。」


 七海も苦笑する。


「先走りすぎ。」


「えへへ……。」


 頭をかきながら照れ笑いするひのりに、綾音はくすりと笑った。


「ひのり先輩、本当に楽しそうですね。」


「なりきり遊び、大好きだからね。」


 唯香も優しく微笑んだ。

 みんな笑い声が、静かな警察署のセットに心地よく響いた。


 セットを後にした一行は、撮影ステージを出て屋外へ向かった。

 少し歩くと、大きな木戸が見えてくる。


「ここからは時代劇用のオープンセットだ。」


 秋哉が木戸を開ける。


「わぁ……!」


 一歩足を踏み入れた瞬間、部員たちから歓声が上がった。


 そこには江戸の町並みが広がっていた。


 瓦屋根の商家に長屋、茶屋に呉服屋。

 石畳の通りには井戸や木橋まで再現され、現代の景色はどこにも見当たらない。


「本当に江戸時代みたい……。」


 綾音が思わず息をのむ。


「時代劇の世界、そのままだ。」


 七海も町並みを見回しながら静かに頷いた。


「こういう場所だったんだ。」


 その時だった。


 ひのりが道の真ん中へ飛び出す。


「待て待てーっ!」


 腰に見えない刀を差し、勢いよく構える。


「悪代官! このひのり侍が成敗してくれる!」


 見えない刀を振るいながら石畳を駆け回る姿に、部員たちから笑いが起こる。


「また始まった。」


 紗里が肩をすくめる。


「ひのり先輩、似合ってます。」


 風花がくすりと笑う。

 その様子を見ていた秋哉が、小さく笑みを浮かべた。


「……ちょうど良かった。」


 部員たちが振り向く。


「このあと、このセットでは時代劇の撮影が予定されている。」


「えっ?」


「町人役のエキストラが何人か必要なんだ。」


 秋哉は腕時計に目をやった。


「まだ衣装合わせには間に合う。希望するなら、現場に話をしてみよう。」


 一瞬、静まり返る。


 そして真っ先に反応したのは、やはりひのりだった。


「やります!」


 その一言をきっかけに、部員たちの表情にも期待が広がっていった。

 衣装部の案内を受け、部員たちは更衣室へと向かった。


 しばらくして――。


「お待たせー!」


 真っ先に姿を現したのは、町娘姿のひのりだった。


 淡い桃色の着物に紺色の帯。


 髪も時代劇風にまとめられ、すっかり江戸の町娘になっている。


「どう!? 似合う?」


「うん、ひのり先輩らしいです。」


 綾音が笑顔で頷く。


「元気な町娘って感じ。」


 風花も微笑んだ。


 続いて、落ち着いた藍色の着物姿の七海、若草色の着物を着たみこ、深紅の着物に身を包んだ紗里が現れる。


「なんか修学旅行みたい!」


 りんかが笑うと、紗里はくるりと一回転した。


「こういう衣装、初めて着た!」


 まひるは袖口や帯の結び方を確かめながら歩いてくる。


「仕立ても丁寧……。着崩れしにくいよう工夫されてる……。」


 その様子に、唯香が苦笑する。


「まひるさんは最後まで職人目線ね。」


「あっ……。」


 まひるは照れくさそうに頬を赤らめた。


 アリスは淡い水色の着物姿で、鏡を見ながら感心している。


「日本の着物をちゃんと着るのは初めてです。」


「とても似合ってますよ。」


 美春が微笑むと、アリスも嬉しそうに頭を下げた。


 やがて全員の着付けが終わる。


 そこへ助監督がやって来た。


「皆さん、お待たせしました。本番の説明をします。」


 部員たちは自然と表情を引き締める。


「今回の場面は、江戸の町の日常風景です。皆さんには町人として自然に歩いたり、お店を見たり、会話をしているように動いていただきます。」


「台詞はありません。」


「主役の芝居を邪魔せず、町で生活している人になりきってください。」


 その時、オープンセットの入口が少し騒がしくなった。


「主演の皆さん、入りまーす!」


 スタッフの声とともに、時代劇の主演俳優たちが現場へ姿を現す。


 テレビや映画で何度も見た顔ぶれに、部員たちは思わず目を見開いた。


「本物だ……。」


 綾音が小さく呟く。


 ひのりも思わず息をのむが、すぐに気持ちを切り替えた。


「よし……今日は私たちも、この時代の住人!」


 助監督が全体へ声を掛ける。


「それでは配置につきましょう!」


 部員たちはそれぞれ指定された位置へ散っていく。

 茶屋の前を歩く者。

 店先で立ち話をする者。

 買い物帰りを演じる者。

 井戸の近くで水を汲む者。


 江戸の町は、撮影開始の合図を静かに待っていた。


「本番!」


 張り詰めた空気の中、カチンコの乾いた音がオープンセットに響き渡った。


 それまで静かだった江戸の町が、一斉に息を吹き返した。


 主演俳優がゆっくりと通りを歩き始める。

 町人たちは何事もない日常を過ごしている。

 それが、この場面に求められる演技だった。


 ひのりは手ぬぐいを肩に掛けた町娘として、八百屋の前を歩く。


 興味深そうに野菜を眺め、店主に笑顔を向ける。


 普段の明るさをそのまま町娘へ溶け込ませ、自然な足取りで主演俳優の後方を横切っていった。


 綾音は風呂敷を抱え、買い物帰りの娘を演じる。


 急ぐでもなく、立ち止まるでもなく、静かに通りを歩く。


 主演俳優とすれ違う瞬間だけ軽く会釈し、そのまま視線を前へ戻した。


 風花は茶屋の前で店先を眺める町娘役。


 軒先に並ぶ団子へ目を向け、店主と穏やかに言葉を交わしているような表情を浮かべる。


 りんかは魚屋の前で元気いっぱいの町娘。


 品物を見比べながら身振りを交え、活気ある町の雰囲気を自然に作っていた。


 紗里は知人と立ち話をしている女性役。


 笑顔を見せながら相づちを打ち、ときおり通りを歩く人へ目を向ける。


 演技というより、その町で暮らしている住人そのものだった。


 七海は本を抱えた寺子屋帰りの娘役。


 通りを落ち着いて歩き、ときどき町並みへ視線を移す。


 目立たず、それでいて確かな存在感を残していた。


 みこは井戸のそばで桶を抱えた町娘。


 水を汲み終えると静かに歩き出し、主演俳優が通る頃には自然と背景へ溶け込んでいく。


 美春は呉服屋の店先で反物を眺める客役。


 布を手に取り、店員と相談しているような柔らかな表情を見せる。


 まひるは反物店で店番を手伝う娘役。


 棚へ布を並べ直し、反物を丁寧に畳む手つきは、普段から衣装に触れている彼女らしく無駄がない。


 所作一つひとつが自然で、まるで本当にその店で働いているようだった。


 音羽は薬屋の前を静かに歩く女性役。


 余計な動きをせず、一定の歩幅で通りを進む。


 落ち着いた雰囲気が町全体の空気になじんでいた。


 アリスは外国人エキストラ達と共に異国の商人一行の若い女性役。

 辺りを見回しながらゆっくり町を歩き、日本の町並みに興味を示す旅人を自然に演じる。


 外国から訪れた旅人という設定が、役柄にもよく合っていた。


 唯香は野菜籠を抱えた女性役。

 歩幅や視線、籠を持つ手の位置まで計算された所作で歩き、主演俳優の後方を違和感なく通り過ぎる。

 子役時代から培ってきた経験が、一つひとつの動きに表れていた。


 そして通りの中央では、主演俳優が事件の手掛かりを追う重要な場面を演じている。


 町人たちは誰一人として主役より目立とうとはしない。


 しかし、誰か一人でも止まったり、不自然な動きをすれば、その瞬間に「江戸の町の日常」は崩れてしまう。


 主演を支える背景もまた、一つの芝居。


 演劇部の十二人は、その意味を肌で感じながら、それぞれの役割を最後まで演じ切った。


 「──カット!」


 秋哉監督の声が響くと、張り詰めていた空気が一気にほどけた。


「──お疲れさまでした!」


 スタッフたちの声が響き、今日の撮影は無事に終了した。


 着物から私服へ着替えた演劇部の十二人が外へ出ると、いつの間にか空は茜色に染まっていた。


 朝から賑やかだった撮影所も、少しずつ静けさを取り戻し始めている。


「もう夕方かぁ……。」


 ひのりは夕焼け空を見上げながら、大きく伸びをした。


「映画やドラマって見てるだけでも楽しいけど、作る側はもっと楽しいんだね!」


「大道具に衣装、小道具、メイク、それに撮影まで……。」


 綾音は今日一日を思い返すように微笑む。


「一つの作品に、本当にたくさんの人が関わっているんですね。」


 七海も静かに頷いた。


「普通に生活していたら、撮影所の中に入る機会なんてまずないものね。」


「今日は本当に貴重な経験だった。」


 まひるは小さく息をついた。


「衣装の管理方法も勉強になりました……。」


 美春も穏やかに微笑む。


「完成した作品だけでは分からない努力を、たくさん見ることができました。」


「また時代劇やりたいな!」


 りんかが笑うと、周りからも笑い声が広がる。


 唯香はそんな部員たちを見渡し、嬉しそうに目を細めた。


「みんなが楽しんでくれて良かった。」


 ひのりは部員たちを代表するように一歩前へ出る。


「唯香ちゃん、それに秋哉さん!」


 勢いよく頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございました!」


 その声に続くように、部員全員が深く一礼する。


「ありがとうございました!」


 秋哉は穏やかな表情で頷いた。


「今日見たものを、これからの演劇に生かしてくれれば、それが一番嬉しい。」


「はい!」


 十二人の返事が夕暮れの撮影所に響く。


 映画と演劇。

 表現の形は違っても、人の心を動かすために、多くの人が力を合わせて一つの世界を作る――。

 そのことを胸に刻みながら、演劇部の一日は静かに幕を閉じた。


 続く。

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