『ようやく、2日目ですわ!な第三、四限 自由時間』
ークロノスの異世界に送られて、2日目ー
大河でズボンを膝元まで捲り上げ、魚を取ろうと悪戦苦闘する男子2人を横に見ながら、
河原にて、アイシアとセレスは今後の予定を立てている。
「まず、あと4日をこの世界で過ごす為に、必要となるであろう事を、まとめましょう。
まず、『洗濯』。こればかりはセント達に任せられないので、自分達で洗いましょう。
次に、食料ですが、『計画通り』アレス達が獲ってくれる事になりましたし、問題ないですわね。」
「ん、アイシア、鬼。」
「失礼な!
わたしはただ、釣り糸を垂らしただけですわ。勝手に引っかかったのは、あの2人ですわ。」
「ん、訂正。悪魔。」
「ふふ、貴女も共犯でしょう。
まぁ、それはともかく、衣、食、
そして、粗野な洞窟ではありますが、住。
とりあえず、3つとも揃った訳ですから、
残りの四日間は『能力』の強化に使えますわね。
他の生徒は、わたし達と違って、制限時間が短いらしいですから、今のうちに差を広げてましょう!」
「ん、たしかに。
能力をつかった、チーム試合も、あるから、
今のうちに、4人で、練習しとけば、有利。」
そんな風に、女子達が智略を巡らせている一方で、川の中でひたすらミナモフナを獲り続けるアレスとセント。
昨日に比べて明らかにミナモフナの数が少なく、ただでさえ捕まえにくい事と重なって、
現時点で収穫はたったの2匹。
「なぁ、アレス?この2匹って誰の物なのかなッ!?」
「そりゃあ、、、なッ!?」
最早言うまでも無いだろ?と言わんばかりである。
正直、普段通り冗談を言い合える状態にはなかったが、
気を紛らわせる為に、
そして川の流れる音に掻き消されないように大声で話す事で、気を奮い立たせる為に、
2人は会話を続ける。
水流は昨日と比べて、かなり強まっており、
立っているだけでもかなりの体力を持っていかれる。
その上、ミナモフナを捕まえる為には、屈まなければならないので、腰にもだいぶ響く。
「2匹を4人で仲良く分ける、ってのが文明社会の在り方だと思うんだけど、
どう思うッ!?
良いじゃ無いかッ!?1:1:1:1で!
ッ!また逃げられたッ!!」
「向こうは、2:2:0:0、或いは3:1:0:0を主張してくると思うぜッ?
ッ!こんちくしょう!速すぎだろッ!?」
2つの0が、アレスとセントの取り分を指している事は、
火を見るよりも、太陽を見るよりも、明らかだった。
「因みにどっちが3?」
「そりゃ、アイシアだろ!?」
川の流れる音に掻き消されないよう、大声で話していた事が災いして、河原から絶対零度の殺気が漏れてくる。
「彼は一体何を言っているのでしょう?
一度凍らせましょうか。練習がてらにでも。」
絶対零度の微笑みを浮かべながら、冗談めかして、アイシアは言う。
そんな中、どこか抜けたところのある幼馴染、セレスが、
「ん、アイシア。大食い。」
と、爆弾を投下した。
アイシアは、幼馴染が無邪気に放った一言に大ダメージをうけ、
自分より少食なのに、『どこが』とは言わないが、発育の良い身体をみて、追加ダメージをくらった。
「やはり、練習あるのみですわ!
セレス、わたしが気絶したら、介抱よろしくお願いしますわね。」
「ん?頑張って?」
自分がトリガーを引いた事を自覚せず、セレスは首を傾げながら答える。
「アレス達から聞いた話ですと、前回の能力発動時には、『全方向に満遍なく』冷気を飛ばしたそうですね。
これをある方向、一直線のみに集めるように!」
能力発動のイメージを、
『四方八方に冷気を撒き散らす爆発』ではなく、
『前方に直進する、冷気の風』をイメージしながら、右手をアレスに向けて、
「 『霜嵐の世界』!! 」
前回の能力発動と異なり、
直径30センチメートルほどの大槍の様に、
霜嵐が真っ直ぐに飛んでいき、
アレスに直撃する。
霜嵐の大槍がアレスに衝突するのと同時に、アレスを中心として冷気が飛び散り、周りの半径1メートル程の円内の水ごと凍る。
アレスは凍った身体を凍った川に囚われながら、白い息を吐いて、歯をガチガチと鳴らしながら、
「や、やり過ぎだろぉ、、、、」
そう言ってガクッとうなだれた。
「いや、うん。今のはアレスが悪い。」
セントは弁護することができなかった。
凍ったアレスを横目に見ながら、アイシアの方を向くと、アイシアも河原で気を失っているようだった。
アイシアを抱き抱えたセレスと目が合う。
(そっちも大変だね)
(ん、そっちも)
そんな風に目配せをして互いに肩をすくめると、後ろの方から親友の嘆く声が聞こえてくる。
「な、なぁ?セント?わりぃけど、ちょっと助けてくんない?寒くて、死にそうなんだけど、、、」
「君能力で逃げられるだろ?」
「あ?バレた?」
そんな風に冗談を言って笑うと、アレスの体が赤い光になって、空中に向かって凄まじい速さで直進したかと思うと、
次の瞬間には、凍った川から抜け出し、凍りついた川面の上に立っていた。
「普通に強すぎない?君の能力。」
アレスは赤い光から元の人の姿に戻ると、
歯をガチガチ言わせながら、
「凍った川から出ても寒いのは変わらねぇな、、、燃やせるモンもねぇし、、、
悪りぃ、セント。一旦河原戻って焚き火で暖まってくるわ。」
「おいおい!戻るなら僕も連れて行ってくれよ!この辺りの水温も下がってきた!」
「いやー、『他人』を『幻想化』するのは流石の俺も無理だぜ?
頑張ってくれ!」
そうにこやかに笑うと、親友は赤い光の粒になって河原へ直進する。
「ずるいぞ!!アレス!!」
そうやるせなく叫んで、渋々河原へ歩いて行く。
ーーーーーーーーーー
河原に着くと、アレスが焚き火の前で暖まっていた。
「元はと言えば、君がアイシアを挑発するから、こんな事になったのに、なんか僕の方が酷い目に遭ってないか?」
「気のせいだろ、 多分。
ところでアイシアはどうなったんだ?
2回目にしちゃ能力の使い方が上手かったが。
『爆発』から『直進』にイメージを変えるなんて、しかも2回目で、なんてなかなかの天才だぜ?」
「そう言えば1回目と違って、かなり離れた所にいたアレスにまで届いていたね。
何が起こったんだ?」
「うーんとな、アイシアが能力を発動した時に、多分『直進』するようなイメージで能力を発動したんだよ。
本来、能力のイメージを変化させるっていうのは並大抵の事では無いんだが、多分アイシアは能力との相性が良いんだろうな。」
「ふーん、
じゃあ、アイシアは『小威力の冷気を連発』することも、できたりするのか?」
「いや、多分それはできない。
アイシアの能力は『世界』系統だろ?
なら『高威力を一発』って言う原則から逃れる事は出来ないはずだ。
まぁ、稀に能力名が変わることもあるけどな。」
「能力名が変わることなんてあるのか!?」
「ああ、例えば『門番』が死んだ後に落ちる『木の実』を食べれば、その世界の門番になれるし、あとは、何かしらの刺激によって変化する事はある。大抵ロクなことにならねぇけどな。
ちなみに、色彩の系統が変わる事はないが、
色彩の明度が変わる事はあるんだぜ?
といっても『無彩色』どもは明度も変わらねぇけどな。」
「『無彩色』?」
「例えばクロノスの『灰色』とかがそうだ。」
「へぇ〜。
て事は、アレスは青系になる事は一生無いんだ?」
「まぁ、そう言うことになるわな。」
「・・・ちなみに僕は?」
「無色透明だった奴は知ってるけど、色彩が変化したかと言われると、確かに変化はしてたけど・・・
ぶっちゃけセントに同じ事が出来るとは思えないし、出来ればそんな状況にならない事を祈りてぇよ。」
「ん?ドユコト?」
「まぁ、詳しくは後々わかるさ。
そんな事よりアイシアはどうなったか聞いたか?」
「確かセレスが洞窟に連れて行ったはずだよ?」
「成る程なぁ、なら一旦服が乾き次第、洞窟に戻るとするか。」
「賛成だね。」
ーーーーーーーーーーー
しばらくして完全に服が乾き切ったので、洞窟へと向かう。
セントがふと、切り出す
「いや〜、しかし最初はどうなるかと思ったけど、思ったよりもなんとかなるもんだね。」
「確かにな。女子2人が来た時はどうなる事やら、と思ったけど、仕事が2倍になっただけだったな。」
「ああ、『2倍』になっただけで済んでよかったな。ホントに。」
2人は重々しくため息をつき、そんな事をしている内に洞窟に着く。
「セレス〜?アイシア〜?ただいま〜?」
帰りの返事をしながら洞窟に入る。
アイシアはベッド(石)で横になっていて、
セレスはキッチン(石)に魚を並べていた。
「ん、おかえり。
今日の、夕飯は、焼き魚。
準備、よろしく。
ところで、アレス、料理終わったら、付き合って。」
突拍子もない告白に男子2人が石になる。
最初に石化の呪いから解かれたのはアレスだった。
「い、いや!え!マジ!?
・・・・・え? マジ?」
セレスはポカンとして、数秒考えて、何かに気付いたような顔をして(と言っても眠たげな表情はいつも通りだったが)冷静に訂正した。
「ん、言葉、足りなかった。『能力の練習』付き合って。」
親友が再び石になるのと同時にセントの石化が解ける。
「だ、だよね〜!ビックリした!」
「ん、セント、なんか、嬉しそう。」
「だってねぇ?僕もアレスも勘違いしちゃったよ!
セレス『も』意地が悪いなぁ!」
ベッドで寝ているアイシアの方を見ながらそういうと、視線の先では既に起きたらしきアイシアが、ニッコリと微笑みながら、、、ポツリと呟いた。
「 『も』 ?」
いやだって、アイシア性格悪いじゃん、と思いながらも、そんな事を口に出すほど命知らずでは無い。
脳をフル回転させて言い訳を考えーーー
「セントはアイシアの性格も悪いって言いたいんだろ?」
石化から復活した親友が現代文の講釈を始めた。
「ぼ、僕は魚を釣ってくるよ!!」
そう言って洞窟の入り口へとものすごい早歩きで向かう。
きっとこのまま残ってたら凍らされるんだろうなぁ
そんな事を考えながら、洞窟の外に出ると、
雨が降っていた。
「・・・ツイてないな。あれ?雨が凍った?
あれれ〜?」
凍ったのは雨だけではなかった。
「あれ、下半身の感覚がないぞ?
いや、首から下も?
あれ?下を見れないぞ?
・・・成る程、逃げられなかったって訳か。
・・・ツイてないなホントに。」
ーーーーーーーーー
僕が凍らされて、5分後くらいから、雨は止んだ。
「なぁ、アレス。僕、不幸すぎないか?」
「おいおい、俺もだろ。」
「そりゃそうだ、、、いや、君自分で逃げれるじゃん。」
「『赤系』だからなぁ。
お前も使えれば良いのにな。」
「コピー出来ればな〜。なんで出来ないんだろ?」
「メモリ不足じゃね?かなり弱体化しているとはいえ、アイシアの能力に俺の能力まで使えたら、チートだろ。」
「君の能力の方がチートな気がするけどね。」
「ん、外、雨、止んで、よかった。
どうせなら、外で、食べよ?」
雨が降った事で、河原での能力練習が出来なくなったと、しょんぼりしていたセレスは、心なしかウキウキしているようだった。
「かわいいな。」
心の声が漏れる。
「アイシアもだけどなぁ。」
アレスも心の声が漏れたようだ。
「「はぁ。」」
(まぁ、一生懸命取ったミナモフナを、食べるのがこの2人でよかった。まだ、やる気がでる。)
「褒めたって何も出ないですわ。アレスったら。」
そういうアイシアはどこか恥ずかしげだった。
(2人はお似合いだよなぁ。
アレスなら凍らされても自力で逃げられるし。
あ、でも凍らされる時点でダメか・・・)
もはや、頭がうまく働いていなかった。
「ごめん、ちょっと疲れが溜まりすぎたみたい。少し寝させてくれ。」
「えっ!もしかしなくても、夕飯当番俺1人!?
・・・って、ふざけてる場合じゃねぇな。
本当に顔色悪いぜ?マジで辛いんなら、寝とけ。夕飯は俺が作っとくから。
つっても焼くだけだけどな。」
最後におどけて見せたのは、親友なりの優しさだろう。
「本当に悪いね。寝てくる。よろしくな。」
「おう。」
そう言って、僕は石のベッドへ向かい、寝っ転がった。
あれ、ここアイシアが使っていたベッドじゃーーー
ほのかなアイシアの残り香に気づいた時には、僕の意識は夢に落ちていた。
ーーーーーーーーーー
目を開いて、真っ先に目に入ってきた色は『白』だった。
地面は白く、空は白く。木々は白く。
そんな懐かしさを感じさせる白の中、
氷の様な水色の花が幾つか咲いていた。
茎は真っ白だった。水色なのは、花の部分だけで、しかも、花柱などは、真っ白だった。
さながら、世界を白と水色のみで塗った、といった感じの景色だった。
僕の体を見てみると、無色透明だった。
「ああ、アイシアの時と同じ感じだ。
これは、、、夢かな。」
夢を夢だと自覚できたのは初めてだった。
『ーー夢じゃ無いよ。』
突然の声に驚くーーーことはなかった。
何故驚かなかったのかはわからない。
ずっと前から、共に人生を歩んできた、そんな懐かしさを感じたからだ。
「やあ。君は、僕の夢の登場人物?」
そう言いながら、声のした後方を振り向くと、そこには、棘まみれの茎と、薔薇のような花弁が、ガラスで出来た無色透明の、植物が咲いていた。
『ーー夢じゃないって。』
花の方から声が聞こえてくる。
「夢じゃない?じゃあ何なのさ?」
花から声がする。
『ーー君と僕の心の中。』
どうやら、先ほどから喋っているのは、花のようだった。
「心の中って夢じゃ無いの?
・・・ん?『君と僕』?」
『ーーそうだよ。ここは、君と僕の『心象世界』。』
「僕、宗教は『聖神教』に入ってるんで、、、」
『ーー宗教勧誘じゃあ無いよ。というか君、教会育ちだろう?』
「じゃあ君は何なんだい?
僕はイマジナリーフレンドを作った記憶は無いよ?」
『ーー僕は君の、、、能力さ。』
花の言った内容が理解できない。
いや、耳の中に入ってきてはいるが、頭では全く理解出来ない。
「能力?」
『ーー『科学者』と呼んだ方がわかりやすいかな?』
「君が?
・・・全く意味がわからない。」
『ーーそのうち分かるよ。
さて、もう少しで一旦お別れみたいだし、次にいつ会えるか分からないから、手短に言うね。
君の能力、つまり僕『科学者』は、
『自分の器を超えない能力をコピー出来る能力。』
『威力はその時の自分の能力の成長度に応じた威力になる。』
『コピーする方法は、相手の能力の『根本原理』を理解する事。』
『コピーをする際、コピー元の能力者の記憶を『追憶の間』で追憶することができるが、『追憶の間』で知識を得た事を、他者に伝える事はできない。』
今のところ教えられるのはこの辺りかな。』
スラスラと喋る花に対し、僕は、
「それ、大体僕の予想していた通りなんだけど、やっぱり君は、僕の知ってる事しか知らないみたいだね。」
と皮肉を言う。
『ーーそんな事は無いよ。
それじゃあ君が知らないであろう事をいくつか。
君がアレスの能力をコピー出来ないのは、単に君が、彼の能力と、経験に耐えられる器じゃ無いからだよ。
もしも、彼の能力をコピーしたいなら、もっと丈夫な精神を持つ事だね。
君が彼の能力をコピーしようとした際、彼から読み取りかけた記憶の負荷の大きさに、僕は自分の活動、つまり能力の発動をキャンセルした。
これから、コピー出来ないことがあったなら、僕が拒否していると思ってくれ。
あと、もしも記憶を追憶したい人が居たら、或いは、能力をコピーしたい人がいたら、
そいつの前で、僕の名前を呼んでくれ。
『科学者』と。
そうすれば、負荷に耐えられる限り、追憶させてあげよう。
最後に、これは、ひとつ前の助言に矛盾するかもしれないけど、
『あんまり能力を多用するな。』
君は他者の人生を追憶する危険性を理解していない。
君がもしもアイシアの記憶を追憶し続けたら、君はそのうち、自分とアイシアの境界が分からなくなっていくだろう。
ある種の『自己崩壊』が起こる可能性は重々承知しておいてくれ。』
思っていたよりもペラペラと喋ってくれた。
一体どこが『手短に』なんだろうか。
話の長い男はモテない、という格言の意図がわかった気がする。
「取り敢えず、君が僕じゃないって言う事は信じるよ。
よろしく、『科学者』。
また会えると良いね。」
『ーー・・・そうだね。
あと、この世界での出来事も、外界では話せないよ。
『神との約束に反するからね。』 』
最後の最後に意味深なこと言わないでよ、、、と思っていると、世界がひび割れ始め、僕の意識はまた暗闇へと落ちていくのだった。
ーーーーーーーーーーー
目が覚めると、そこは洞窟だった。
「・・・そりゃそうか。」
そう呟いて、起き上がると、丁度セレスが洞窟に入ってくる。
「ん、セント、起きてる。」
キョトンとした様子のセレスに、
「今起きたところだよ。」と言うと、セレスは、
「ん、アレスが、呼んでた。
焼き魚、出来たって。」
どうやら、わざわざ呼びに来てくれたようだ。
「ありがと、じゃあ行こうか。」
「ん。」
ベッドから起き上がって、洞窟の入り口へと向かう。
薄暗くなってきた河原の方には、焚き火を囲むアレスとアイシアが居た。
アレスがこっちに気づいた様子で手を振ってきたので振り返す。
僕はさっきの『心象世界』とやらでの出来事を、アレス達に話したら、本当に『禁忌』に触れることになるのかを試したくなったが、多分ろくなことにならないので、やっぱりやめた。
ーーーーーーーーーーーーー
時は流れ日はとっくに沈み、河原で焚き火を囲みながら、木の枝に刺した焼き魚を4人で食べる。
黙々と焼き魚を食べている中、最初に口を開いたのはアレスだった。
「いや〜減塩料理はもう飽きたな。
この世界に海は無いのか?」
親友のとんでもない要求に、溜息をつきながら答える。
「海まであったらクロノス教授の能力、汎用性高すぎない?」
するとセレスは、
「ん、『コスモス』の『教授』ならありえる。」と言った。
なんと、『コスモス』の教授の能力はやはり強力らしい。
(クロノス教授か、ウリエラのお祖父さんだって知った時は驚いたな。
あんまり似てないんだよな、あの2人。
お祖母さん似なのかな、ウリエラ。)
ウリエラの事を考えていると、クロノス教授の言った自慢?が頭に浮かぶ。
「というかアレス、昨日クロノス教授がウリエラのグループの自慢してこなかった?
彼女らビーチで楽しんでいるんじゃなかったっけ?」
「そういや、言ってたな。
ってことは海はあるんだろうな。
ウリエラの送られた世界には。」
(ウリエラの送られた世界?
そういえば、こっちの世界に送られた時に、河原で聞いたな。確か、クロノス教授は複数個の『私有世界』を持っているんだっけ。)
「クロノス教授の能力強すぎない?」
「クロノスの野郎は現時点で『天使化』に最も近い人間の1人だからなぁ。」
『天使化』
『能力が極限に至っている』という意味の単語を聞いて、僕だけでなく、アイシアもセレスまでも、驚いたようだった。
「クロノス教授って、そんなに強いんですの?」
「ん、意外。」
アレスは少し笑いながら言った。
「意外ってなんだ。意外って。
ある種、『時間』と『空間』を操っているようなもんだから、そりゃあ、強いだろ。」
アイシアは顔を曇らせると、やれやれといったように溜息をついて、言った。
「確かに、嫌というほど『時間』の方の強さは実感していますわね。今。」
僕は頭に浮かんだ疑問をアレスに投げかける。
「やっぱり、『私有世界の時間を操る能力』って、珍しいのか?」
「珍しいも何も、クロノスくらいじゃねぇの?
少なくとも、俺は見た事ねぇな。」
すると、前々から気になっていた事も思い出す。
「あと、思ったんだけどさ、
クロノス教授の色彩って、何色だっけ?」
アレスは焼き魚を咀嚼してから、暫くして、答える。
「ん?。
かなり白寄りの灰色だな。
ライトグレーってとこかな?
どうしたんだ?そんなこと聞いて?」
僕は『幻想世界』に来る時にアレスから聞いた事を思い出しながら、言う。
「確か、色彩って親族間で似る事が多いんだよね?」
「・・・まぁ、確かにな。」
「じゃあなんでクロノス教授の色彩は『柘榴色』じゃないの?」
アレスは、焼き魚を一口食べてから答える。
「それは単に、『柘榴色』がクロノス由来じゃないってだけだろ。アイツの嫁さんが『柘榴色』の色彩を持っていただけだ。
『色彩』は、
①片方の色に似た色、または完全に同じ色が受け継がれる。
②二つが混ざった色が受け継がれる。
③上記の二つに当てはまらない、突然変異による色を持って生まれる。
の3パターンに分けられる。
ちなみに、今の王族の長男と次男は『柘榴色』、三男と四男は『黒柘榴色』だそうだぜ?」
「明度は変わりうるってことか。
ってことは、ザクロ王家に『ライトグレー』の色彩を持った人が生まれることは無いわけじゃないのか。」
「ちなみに、こういうのは、生物学で少し前に発見された、『遺伝子』っていうのに関係している可能性があるらしいぜ?
つーか、そういうのは、俺よりもセレスの方が詳しいと思うぜ?」
そうなの?とセレスに聞くと、
セレスは、胸を張って、、、アイシアの視線が怖いので訂正、、、誇らしげに、言った。
「ん、ヴィロメント家、当主は、代々、
『コスモス』の、『生物学』の、『教授』。」
「そうなの!?」
今日は驚く事が多すぎる。
いや、『コスモス』に入学したからには、驚くことばかりの日常を送ることになるのだろう。
「あら?セントには話してなかったかしら?」とアイシア。
「いや初耳だよ!アレスは知ってたのか!?」と僕。
「知ってたぜ?
てか、何なら、『遺伝子』の話を聞いたのはリーフレイ=ド=ヴィロメント教授からだぜ?」
「マジか、、、
、、、、というか,これセレスの前で言うことじゃないと思うんだけど,『教授』って世襲制で良いの?」
「ん、問題、無い。
ヴィロメント家の、出身者は、大体、『生物学』が、得意。
学年、1位は、当たり前。
『幻想世界』の、中でも、大体、同学年で、1位。」
さらりと、とんでもない事を言うセレスに驚愕しながら、
「それは凄いね、、、やっぱり親が得意な学問って、それこそ『遺伝』するのかな。」
「どちらかというと、『環境』によるものが大きい気がしますわ。
親が『コスモス』の『生物学』の『教授』なら、必然、家には『生物学』の本が溢れているでしょうし。」
「おっと、シャルル先生並みに話が逸れたな、、、何の話だったっけ?」
「ん、『遺伝子』」
「そうそう!『遺伝子』は親子で受け継がれる『生命の設計図』で、主に、4種類の化合物の配置によって、情報を子孫に伝えているらしいぜ。
今んとこ、どの部分がどういった役割を果たしているのかはわからねぇけど、
『自分の思い通りに生物を作る』
なんていう『世界の絶対法則』にゴリゴリ触れそうな事も出来る様に成るかもしれねぇんだから、科学ってすげぇよな。」
僕ははしゃいで言う。
「それはロマンがあるね!」
アレスは呆れたように言う。
「おっと、セントは『そっち側』だったな・・・」
「ん、セント?さすがに、『世界の絶対法則』は、知ってる?」
セレスは、半ば不安そうに聞いてくる。
僕は苦笑いしながら,
「流石に知っているよ。
なんなら、言葉を習ったすぐ後に習ったよ。」
『世界の絶対法則』
それは、人々が真っ先に理解すべき、最優先事項だ。
『何処からが禁忌で、逆に何処までならば、違反にならないのかが不明』
『簡単に破ってしまいうる可能性がある』
そして何より、『破った場合、甚大な被害がもたらされる』
この3点が、所属する国家に関わらず全ての人間の脳に、『世界の絶対法則』の存在を刻み込む必要性の由来である。
「事例も嫌というほど聞かされたけど、内容を知らない法に縛られるっていうのは、辛いね。
しかも、破ったらほとんど死刑みたいなものだからね。」
「死刑どころじゃ済みませんわ。」
アイシアの言う通りだった。
『世界の絶対法則』を破ったという事例のうち、記録に残っている中で、『被害の大きさ』という観点から比較するのであれば、間違いなく『花皇国の悲劇』だろう。
なんせ、『世界が滅んだのだ』
これは、比喩表現では無い。
当時の『花皇国』は『世界』を統一していた。
しかし、繁栄を謳歌した国王と国民は傲慢になり、『不老不死』を求め、『世界の絶対法則』を破ってしまったらしい。
記録に残っている限り、『数時間で世界が融けた』らしい。
じゃあその記録はどうやって取ったの?と聞いたところ、
間一髪で『世界の絶対法則』の罰則、『世界免疫』の暴威から逃れ、『幻想世界』に避難した人々からの証言と、数時間後にその世界へ向かった天使の証言に基づいているらしい。
「セント?どうしたんですの?ずっと黙って・・・」
アイシアが心配した様子で僕に声をかけてきた。
「ん?ああ!ごめんごめん。『花皇国の悲劇』を思い出してて。」
「・・・成る程、確か、後の『極彩色の森林世界』でしたわね。」
そう、『世界免疫』によって一度滅んだ『世界』は、
現在では『危険世界 極彩色の森林世界』と呼ばれている。
「ん、当時は、『放射能』とか、『放射線』とか、知られて、なかった。」
「ええ、それが、4000000人の死者を出した根本的な理由ですわね。」
「・・・いいや。」
アレスはどこか悲しそうな表情で否定した。
「・・・1番の理由は、人間の傲慢さだよ。」
机の上で揺れる、小さな松明の炎に照らされた親友の顔は、今までで見てきた中で、最も悲哀に満ちていた。
「幸せだったはずなんだ・・・なのに何で・・・」
「なぁ、アレス。何か知っているのか?
差し支えなければ、話してくれないか?」
永遠に続くかと思えた沈黙の後に、アレスは語り始める。
「これは、『第5位』から聞いた話だ。」
『第5位』。
これが徒競走の順位などでは無く、
『序列第5位の天使』の事を指していることは
この場の全員が理解していた。
「俺は一時期、パラドクスに育てられていたんだ。」
衝撃の告白だった。
(通りで『コスモス』の事に詳しい訳だ)
アレスは続ける。
「その時に、『第5位』がパラドクスに会いにきてな、話して貰ったんだ。
『第5位』、『緑系統最強』の能力者で、、、
・・・花皇国の皇女だった女だ。」
アレスがそう呟くのと、
空に月が浮かび始めるのは、同時だった。
《幻想世界雑学》
この世界の科学技術は、我々の世界ほど進んでいません。
というのも、我々とは異なり、能力者は『能力』で様々な化学変化を起こせるため、産業革命や、兵器開発が起こりにくい環境だからです。
もしも、自分の半径1メートル内で、自在に着火することができるならば、
どうして、『マッチを作ろう』と思いつくでしょうか。
布を織るのに、専用の訓練をした『緑系』能力者が、5分しか掛からないというのに、
どうしてその何倍も費用が掛かり、効率の悪い工業化を進める必要があるのでしょうか。
空気中に『魔素』というエネルギー源があるというのに、どうして石油からエネルギーを取り出そうと思えるのでしょうか。
こういった背景から、この世界での『科学』は、『能力』と密接に関わるものとなっています。
参考までに。
パラドクス校長は、自身の能力で、声量を上げることができますが、普通の人々はマイクとスピーカーを使います。
これらは、我々のよく知る、電子機器ではなく、
『石壁の迷宮世界』で採れる『結晶』を加工したものです。
『異世界』の中には、『幻想世界』とは異なった『元素』から成る世界もあります。
『雷鳴轟く金属世界』が原産地の『レアメタル』の中には、
『爆発などの撃力に対して、一切の衝撃を吸収し、変形をしない代わりに、熱としてエネルギーを発散する』、『耐爆鉄』といったものがあります。
『耐爆鉄』の加工方法は、『塩酸』(塩化水素の水溶液)に溶ける性質を利用して、
『耐爆鉄』入りの『塩酸』を、『塩酸』によって解けない金属(通常は『銅』を用いる)によってできた『金型』に入れ、
その後、高温によって『塩酸』を揮発させれば、加工完了です。
『金型』を高温で一度に加熱してしまうと、『気泡の混ざった』製品となってしまうため、『塩化水素』や『水蒸気』による気泡が生まれないように加熱する技術を持った職人達は、その技術だけで一生食いっぱぐれないでしょう。
ザクロ王国の近衛騎士長の武器と防具はこの『耐爆鉄』からできています。
摩耗にはそこまで強くは無いので、数年に一回のペースで新調しているそうで、その度に近衛騎士長が職人さん達に叱られるのは、近衛騎士団名物の一つになりつつあります。
では、今回はこんなところで。
読んでいただきありがとうございました。
引き続き、お楽しみに。
 




