第五十九話 正しい仕組みは、現場にとって“邪魔”になる
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
導入初日だった。
男が作った仕組みは、もう動いている。
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■ 40時間アラート
■ 新規アサイン制御
■ 承認フロー必須
■ 人単位の負荷チェック
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すべてが、予定通り起動していた。
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そして――
**予定通り、止まった。**
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午前11時。
チャットが鳴る。
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「アサインできませんって出るんだけど」
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短い一文。
男は、目を閉じる。
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「来たな」
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該当スタッフの画面を開く。
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残業:41時間。
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制御条件に引っかかっている。
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正しい。
完全に正しい。
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だから、止まる。
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だが現場は、そう見ない。
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「これ、今日入れないと案件止まるよ?」
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リーダーが席に来る。
いつもより強めの声だった。
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男は画面を指す。
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「40時間超えているので、今のルールだと止まります」
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言いながら、自分でも分かっていた。
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これは正論だ。
だが現場にとっては、**障害物だ。**
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「いや、でもさ」
リーダーはすぐ返す。
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「昨日まで普通に回ってたよね?」
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男は少し間を置く。
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「はい」
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「じゃあなんで今止めるの?」
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男は答えない。
その問いは、正しいからだ。
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今まで回っていた。
問題も表面化していなかった。
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だから現場はこう感じる。
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**「悪くなった」**
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「今までが“見えてなかっただけ”です」
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男は静かに言う。
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「数字的には、前から危ない状態でした」
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リーダーは首を振る。
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「でも回ってたよ」
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その言葉に、男は一瞬だけ言葉を失う。
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ああ、そうだ。
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**回っていた。**
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だがそれは、
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“壊れながら回っていた”だけだ。
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「止めるか、配置変えるかです」
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男の声は変わらない。
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「それだと今日間に合わない」
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「じゃあ別の人を入れるしかないです」
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「その人じゃ無理だろ」
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会話が噛み合わなくなる。
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制度は“制御”の話をしている。
現場は“成果”の話をしている。
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交わらない。
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その日の午後。
別の部署でも同じことが起きる。
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「申請しないと残業できないの、効率悪くない?」
「毎回承認とか無理でしょ」
「緊急対応できなくなるよ」
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静かに広がる違和感。
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誰も怒っていない。
だが、全員が引っかかっている。
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男はそれを見て、はっきり理解する。
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**仕組みは、現場の“自由”を奪っている。**
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夕方、先輩が声をかける。
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「どう?」
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男は短く答える。
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「想定通りです」
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先輩は少し笑う。
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「嫌われた?」
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男は答えず、画面を見る。
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止まっている案件一覧。
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「……はい」
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小さく言う。
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その夜、男は一人で考えていた。
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何が間違っているのか。
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仕組みは、間違っていない。
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・事前に止まる
・違反しない
・数字で制御する
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すべて正しい。
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だが動かない。
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男は、ふと気づく。
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「……順番か」
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今までの導入は、こうだった。
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① 仕組みを入れる
② 現場が従う
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だが実際は、逆だ。
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現場はこう動く。
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① 仕事がある
② 回す必要がある
③ 方法を選ぶ
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つまり今の仕組みは、
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**“仕事を止める理由”にはなるが、
“回す方法”を提供していない。**
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男は、新しくメモを書く。
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■ 改善課題(現場反発対応)
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・止めるだけの仕組みになっている
・代替手段が用意されていない
・現場の意思決定が詰まる
```
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そして続ける。
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■ 修正方針
```
・制御と同時に代替を提示
・アラート=止めるではなく「行動指示」
```
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具体例を書き始める。
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■ NG(現状)
```
40時間超 → アサイン不可
```
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■ 改善
```
40時間超 → アサイン不可
かつ
・代替候補を自動表示
・負荷低いメンバー提示
・工程再配分案表示
```
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男は手を止める。
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「……これだな」
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仕組みは、“制御”だけでは足りない。
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**“選択肢”を出さなければ、現場は動けない。**
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翌日。
男は小さな説明をする。
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「ルールは変えません」
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最初に言い切る。
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ざわつきが止まる。
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「でも、やり方は変えます」
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画面を切り替える。
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そこには、新しい表示。
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■ 超過者 → 赤
■ 代替候補 → 横に表示
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「止まるだけじゃなくて、“次に何をするか”を出します」
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リーダーが画面を覗き込む。
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「……ああ、これなら動けるな」
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その言葉で、空気が変わる。
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仕組みは、まだ完全ではない。
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だが一つ、明確なラインを越えた。
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男は静かに思う。
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**正しい仕組みは、必ず反発される。**
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なぜならそれは、
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**楽に回っていた構造を壊すから。**
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だから必要なのは、正しさではない。
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**“現場が使える形”に変換すること。**
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帰り際。
男は小さく呟く。
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「止めるだけじゃ足りない」
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そして続ける。
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「動かせないと意味がない」
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次の問題は、
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**この仕組みを“現場が使い続ける形”にできるか。**
お読み頂き、ありがとうございます。




