第四話 仕事を出しても、責任は出ていかなかった
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
そのトラブルは、社内ではなく、社外で起きた。
「外注先がミスしたって言ってるんだけどさ。ウチの責任になるのかな?」
上司が、困った顔で言った。
問題は、納品物の不具合だった。
実務はすべて外注先が担当している。
社内ではチェックだけを行った、はずだった。
「相手はウチに責任があるって言ってます」
営業の言葉に、男は胸がざわついた。
**下請。外注。委託。**
言葉は違っても、共通する問いがある。
――仕事を外に出したら、責任も外に出るのか。
答えは、**出ない場合がある**。
ビジネス実務法務3級で学んだ項目が、頭の中で組み上がる。
まず確認すべきは、**契約関係**だ。
誰と誰が契約しているのか。
外注先は、取引先と直接契約しているわけではない。
**契約の当事者は、自社と取引先。**
外注先は、自社との契約関係にあるだけだ。
つまり取引先から見れば、
**責任を負うのは常に自社**になる。
「外注がやったんで」
その一言で逃げられない理由を、男は理解した。
次に問題になるのが、**使用者責任**だ。
使用者責任とは、
**事業のために他人を使用する者が、その行為について責任を負う**という考え方。
社員だけではない。
業務の一部を任せ、指揮監督していれば、
外注でも責任が問われる可能性がある。
ポイントはここだ。
・誰のための業務か
・誰が指示しているか
・管理・監督の実態はどうか
形式ではなく、**実態**で判断される。
書類上は「外注」。
だが実際には、
作業指示、期日管理、修正指示をすべて自社が行っていた。
それはもう、
「任せた」のではなく、「使っていた」に近い。
男は、外注契約書を開いた。
そこには、責任分担の条文があった。
だが相手方との契約書には、外注の存在は書かれていない。
**内部の取り決めは、外部には原則関係ない。**
この一文を、男はノートに書き写した。
上司が言った。
「じゃあ、全部ウチが悪いってこと?」
男は首を横に振った。
「責任を負う可能性がある、というだけです。
どこまで負うかは、切り分けが必要です」
切り分け。
それが、この章の核心だった。
・どこまでが自社の管理範囲か
・防げたミスだったか
・注意義務を尽くしていたか
もしチェック体制があり、
それを外注先がすり抜けたなら、
過失の割合は変わる。
**責任はゼロか百かではない。**
割合で決まることもある。
会社は、取引先にこう説明した。
・外注していた事実
・確認体制
・再発防止策
責任を全面否定せず、
だが安易にすべてを引き受けもしない。
結果として、補修対応のみを行い、
損害の一部は外注先に求償する形になった。
その求償もまた、
**外注契約があるから成立**する。
帰り道、男は考えていた。
仕事を外に出すということは、
楽をすることではない。
**責任の境界を、より明確にする作業**なのだ。
外注は免罪符ではない。
丸投げではなく、役割分担。
きちんと線を引かなければ、
トラブルの矢印は、必ず元請に戻ってくる。
翌日、男は提案した。
「外注管理のチェックリスト、作りませんか」
完璧でなくていい。
だが、境界が見えるだけで、責任の切れ目は変わる。
拾われた男は、ようやく分かってきた。
会社を守るとは、
自分でやることを増やすことではない。
**誰が、どこまでやるかを、言葉にすること**だ。
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