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資格を学んで人生やり直し  作者: 仕事が生きがい~結婚諦めた~
第三章 資格を取った後

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第三十六話 戻した線の、その先で

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

それは、意図的な違反ではなかった。


男がそう判断したのは、

報告書に並んだ言葉の選び方を見たときだった。


――知らなかった。

――急いでいた。

――悪気はなかった。


どれも、嘘ではない。

だが、どれも**線を越えた理由にはならない**。


「……確認、入りました?」


男がそう聞くと、担当者は少し目を泳がせた。


「いえ……前例があったので、大丈夫だと思って」


前例。

便利で、危うい言葉だ。


「その前例、

 “誰が責任を持ったか”まで分かる?」


担当者は答えられなかった。


男は席を立ち、

資料を持って会議室に向かう。


叱るためではない。

正すためでもない。


**戻すため**だ。


---


会議室には、関係者が揃っていた。

空気は張りつめているが、敵意はない。


「先に言っておきます」


男は静かに口を開いた。


「今回の件、

 悪意がないことは分かっています」


肩の力が少し抜ける。


「でも、だからこそ整理が必要です」


資料を机に置き、

男は線を引くように指でなぞった。


「ここまでは、想定内。

 ここから先は、明確に越えています」


「でも……結果的に、問題は起きていません」


誰かが、そう言った。


男は否定しない。


「今回は、です」


その一言で、空気が変わる。


「問題が起きなかったことと、

 問題がなかったことは、違います」


責める口調ではない。

ただ、淡々と。


「もし同じことが、

 別の案件で、別の相手に起きたら。

 誰が、説明しますか」


沈黙。


男は続ける。


「線を踏み越えたこと自体が問題なんじゃない。

 **踏み越えたあとに、戻れなかったこと**が問題です」


返す言葉は、すぐには出てこなかった。


---


会議が終わり、人が散っていく。

最後に残った担当者が、男に頭を下げた。


「……戻せて、よかったです」


その言葉に、男は頷いた。


「戻せたのは、

 隠さなかったからです」


正直だったこと。

報告したこと。

それだけで、致命傷は避けられた。


廊下を歩きながら、男は思う。


資格があるから、

線を引けるわけじゃない。


**線を越えたときに、

ちゃんと戻れる道を残しているか。**


それこそが、

今、自分に求められている役割なのだと。


夕方の窓に映る自分は、

少し疲れて見えた。


それでも、

投げ出す理由にはならなかった。


間違えなかった話ではなく、

**間違えたあとに戻れた話**を、

ひとつずつ積み重ねていく。

お読み頂き、ありがとうございます。

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