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資格を学んで人生やり直し  作者: 仕事が生きがい~結婚諦めた~
第二章 ビジネス実務法務3級とは

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幕間 煙の中の確認、道標は引き出しに

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

喫煙は演出としての一つであり、本作は喫煙を推奨するものではございません。

喫煙室の換気扇は、相変わらず甲高い音を立てていた。

白い壁に貼られた注意書きも、灰皿の置き方も、何一つ変わっていない。変わったのは、ここへ入ってくる俺の呼吸だけだった。


社長は窓際に立って、いつもの銘柄に火をつけた。

俺も一本出して、遅れて火を点ける。煙が天井へ吸い込まれていくのを見て、ようやく言葉が喉まで上がってきた。


「……合格しました」


それだけ言うと、思ったよりも早く口が軽くなるのが分かった。淡々としているつもりなのに、声の奥にわずかな熱が混じっている。


社長は、すぐに振り向かなかった。

一息吸って、ゆっくり吐く。煙と一緒に間を作ってから、短く言った。


「そうか」


それだけだ。

でも、その一言のあとに続く沈黙は、否定でも様子見でもなかった。確認が済んだ、という種類の静けさだった。


「おめでとう」


社長はそう言って、初めてこっちを見た。笑っているわけじゃない。けれど、目が少し柔らかい。


「よくやったな。ちゃんと、戻ってきた」


戻ってきた。

その言葉に、胸の奥が軽く揺れる。合格より先に、何度も往復した場所が頭に浮かんだ。会議室。机。夜のノート。条文の余白。


「正直に言うとさ」


社長は灰を落としながら続けた。


「結果より、過程を見てた。

 最近の君は、“答え”を置きに行かなくなった。

 まず線を引いて、残りを一つずつ片付ける。

 それができてた」


俺は頷いた。

試験の点数を言わなくても、ここではもう通じる。


「でな」


社長は、もう一本に火をつける。


「次の道標の話だ」


心臓が、ゆっくり一拍打つ。


「合格した人はな、二種類に分かれる。

 資格に守ってもらう人間と、

 資格を使って人を守る人間だ」


煙が、俺たちの間を流れる。


「君は後者だ。

 だから次は、“守る範囲”を広げろ」


広げる。

俺は、その言葉を噛みしめる。


「契約でも、個人情報でも、労務でもいい。

 どれを選んでもいいが、

 **迷ったら、現場に近いほうへ行け**」


社長は、まっすぐ言った。


「机の上で完結しない分野だ。

 人が動く。失敗も起きる。

 そのとき、君の線引きが効く」


少しだけ間を置いて、付け足す。


「次は、個人情報だろ」


決めつけじゃない。確認だった。


「事故は起きる。

 起きたときに、誰をどう守るか。

 それを言葉にできる人間が、まだ足りない」


俺は、小さく笑った。


「逃げ場のない分野ですね」


「だからいい」


社長は即答した。


「逃げ場がないところで、考え続けられる人間は強い。

 資格は、その確認票でしかない」


換気扇の音が、少しだけ大きく聞こえた。

俺は最後の一吸いをして、灰皿に押し付ける。


「……ありがとうございます」


それは礼だったし、決意でもあった。


社長は、ドアに手をかけながら言った。


「合格はしまっとけ。

 前に出すのは、必要になったときだけだ」


そして、振り返らずに続ける。


「次に必要なのは、

 **正しい人間**じゃない。

 **戻ってこれる人間**だ。

 君は、もう知ってる」


ドアが閉まり、喫煙室に俺一人が残った。

煙は消え、音だけが続いている。


合格通知は、確かに引き出しにある。

でも道標は、今もここに立っている。


俺は、空になった灰皿を洗ってから、部屋を出た。

次の仕事が、もう待っている。

お読み頂き、ありがとうございます。

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