第十一話 それでも、試験は怖かった
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
事故を止めた日の夜、
男は不思議な感覚に包まれていた。
達成感――ではない。
安心――でもない。
ただ、胸の奥に、
**はっきりした重さ**が残っている。
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今日、自分は確かに言った。
「これは事故になる可能性があります」
逃げなかった。
濁さなかった。
立ち止まり、理由を示した。
それは事実だ。
だが同時に、
男は分かっていた。
**自分は、まだ何も“保証”できない。**
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机の上には、二冊の本が並んでいる。
ビジネス実務法務3級。
個人情報保護士。
どちらも、
頼もしいようで、
どこか距離がある。
資格は、
自分を守ってはくれない。
守るのは、
判断であり、
順番であり、
覚悟だ。
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男は、試験という言葉を思い浮かべる。
不合格が怖いのか。
違う。
点数が足りないことではない。
勉強が追いつかないことでもない。
**中途半端な理解で、
「分かった顔」をしてしまうことが怖い。**
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個人情報という分野は、
失敗が静かだ。
誰も叫ばない。
すぐに損害も出ない。
だからこそ、
「大丈夫だった」で流れてしまう。
だが男は、
もう知ってしまった。
**流れていったものの先に、
必ず“事故”と呼ばれる瞬間があることを。**
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もし資格を取ったら。
周囲の目は、少し変わるかもしれない。
相談されることも、増えるかもしれない。
だがそれは、
責任が軽くなることではない。
**責任が、明確になるだけだ。**
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男は、試験日のページを開きかけて、
そっと閉じた。
まだ、決めない。
今の自分は、
「受ける準備ができている」
と言えない。
それでいい。
怖さが残っているうちは、
まだ考え続けていられる。
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ビジネス実務法務3級を勉強し始めたとき、
男は思っていた。
仕事ができない自分を、
どうにかしたい。
だが今は違う。
**仕事を雑にしない自分でいたい。**
そのために、
怖さを残したまま進む。
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資格は、
安心をくれるものじゃない。
覚悟を、
後戻りできない形にするものだ。
だからこそ、
今はまだ、怖くていい。
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拾われた男は、
今日も決断しなかった。
だがその代わり、
**逃げなかった。**
試験は、
そのずっと先にある。
覚悟が、
言葉ではなく行動になったとき、
自然と選ぶものだと、
今は分かっている。
お読み頂き、ありがとうございます。




