第11話『決勝、音の最果てへ』
決勝の相手――翔英アクティブアーツ。
舞台袖のモニターに映る彼らは、まさに“ショー”そのものだった。レーザー演出と同期する照明、パキパキに決まったロッキングとハウス、ステージの端から端まで使う立体構成。観客は完全に呑まれていた。
「これ、もうアマチュアの域じゃないな……」
桑原が呟く。
神崎響は顔色を失い、震えていた。
トラウマがまた襲いかかっていた。スポットライトの下、動けなくなったあの日の記憶が、鼓動とともに胸を締めつける。
「私……また、ダメかもしれない……」
握った手のひらが湿っている。吐きそうなほど緊張していた。
そんな彼女の前に、鼓太が歩み寄った。
いつもの柔らかな目が、まっすぐ彼女を見ていた。
「……大丈夫。お前の音は、俺の中にある!自分を信じれないなら俺を信じろ!」
響が目を見開く。
「一人じゃない。響けば、届く。俺と、桑原と――三人で行こう。音の向こうまで」
その言葉に、鼓太の足音が響いた気がした。
……たしかに、あたしの中にも、あんたの音がある。
ステージが暗転。観客がざわつく中、三人が舞台に現れる。
最初に動いたのは鼓太だった。
下駄のステップが、静かに、深く、床を叩く。
カン……タン……トン。
音が、波紋のように広がっていく。
そこに、太鼓が応えた。桑原のビートは力強さより“間”で語る。鼓太のステップに、間合いを寄せるように打つ。まるで会話のような太鼓。
そして、響が跳ねた。
下駄で繰り出されるタップは鋭く、舞台に火花を散らす。そこに流し込むようなスピン、フロアムーブ――タップとブレイクダンスの融合。
音と動きが、境界を超える。
鼓太が一歩踏むたび、リズムが変わる。
桑原が応えるたび、空気が震える。
響が舞うたび、音が色を持つ。
会場が、一音一音に引き込まれていく。
途中、静寂が訪れた。
誰も動かない時間。
――そして、三人が同時に跳ねた。
タァン!
一瞬の沈黙。
そのあと、響の全身が弾けたように踊り出す。
跳び、滑り、回転する。鼓太のステップと重なり、足音が光線のように交差した。
太鼓が打ち込む。鳴り響く鼓動は、まるで命そのもの。
クライマックス、三人が中心に集まる。
呼吸が合った瞬間、最後の一音が鳴った。
――カン。
止まった。
観客は息を呑む。
その沈黙のなかで、誰かが立ち上がった。
「すげえ……」
その一言を皮切りに、嵐のような拍手が巻き起こった。
スポットライトの下、鼓太は響に目配せをした。
響は、ゆっくりと笑った。もう、怖くなかった。
三人の音が、確かに“ここにしかない未来”を響かせていた。




