第10話『準決勝、烈音(れつおん)高校』
九州大会・準決勝。
「次、相手は烈音高校か……」
楽屋のモニターに映るのは、宙を舞うようなパワームーブの連続。烈音高校は、九州屈指のブレイキン特化チームだ。あまりの迫力に、響も言葉を失っていた。
「うわ……ウインドミルからフリーズまで一気に繋げてきた。完全にショー構成だな」
桑原が低く呟く。観客席からも「うおおっ!」と歓声が上がった。
「……わたしたち、負けてないよね?」
鼓太は無言で頷いたが、その胸の奥は揺れていた。
――自分たちの“音”は、こんな強烈な“視覚”の前に、かき消されてしまうのか。
* * *
リハーサル。
太鼓のビートが響き、響が下駄でタップを刻む。だが、どこかちぐはぐだ。
「ズレてる……ごめん、もう一回!」
「いや、俺も……テンポが追えてない」
桑原と響が額に汗をにじませる。
そして、鼓太。彼の下駄も、どこか音が“浮いて”いた。
木が床に当たる音は確かに鳴っているのに、芯がない。
響こうと意識するあまり、逆に「ただの打音」になっていた。
「……ちょっと、休憩しようか」
鼓太が言い出した。
休憩後も、空気は重いままだった。
「俺ら、なんのためにここに来たんやろうな……」
誰かがこぼしたその言葉に、誰も答えられなかった。
* * *
その夜。河川敷のラボ。
鼓太は一人、木型を削っていた。
響と桑原も集まり、黙ってそれを見ていると……戸が静かに開いた。
「……音が濁っとるな」
現れたのは祖父・誠一だった。
「じいちゃん……?」
誠一はそっと工房の奥へ歩み寄り、鼓太が削っていた木型を手に取る。
「響かせようとする音は、響かん。響いてしまう音を、信じてみい」
「……響いて、しまう……?」
「お前の足が、お前の重さと、癖と、歩いてきた道で鳴らす音や。それが、“お前の色”やろ」
その言葉に、ラボの空気が静かに変わった。
鼓太は手を止め、深呼吸した。
そして思い出す。最初に響が、下駄の音に惚れたときのこと。あの、一音一音が命だった頃を。
――自分の音に、戻ろう。
その晩、鼓太は削り方を微調整した。少しだけ、歯の角度を変え、間を“残す”形に。
一方、桑原も太鼓のリズムに「余白」を取り入れるように組み替えた。
「派手な音の連打じゃない。響く音の“間”で、勝負しよう」
「うん……あたしたちの“音”で、やるしかない」
* * *
準決勝・当日。
烈音高校のパフォーマンスは、やはり圧巻だった。
観客のボルテージが最高潮に達したまま、ステージに上がる3人。
照明が落ち、鼓太の下駄が静かに、一音を置く。
カッ……。
会場が静まった。
次の瞬間、響がタップとスライドで空気を切り裂く。
桑原の太鼓が、その余白を繋ぎ、音が“呼吸”を始める。
カカッ……コン、カン……ドン……スッ。
それは音楽ではなかった。舞台そのものが、生きた音になっていた。
烈音のような派手さはない。けれど観客の耳と胸に残る“間”があった。
そしてラスト、3人の動きが一拍で止まり――
カッ。
深く、芯を打つような一音が、会場に刺さった。
静寂。
そして、嵐のような拍手と歓声。
「勝った……俺たちの“音”で……!」
誰よりも先に、鼓太が涙をこぼした。




