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日田下駄でカッコッカーン  作者: やしゅまる


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10/12

第10話『準決勝、烈音(れつおん)高校』

九州大会・準決勝。


「次、相手は烈音高校か……」

 楽屋のモニターに映るのは、宙を舞うようなパワームーブの連続。烈音高校は、九州屈指のブレイキン特化チームだ。あまりの迫力に、響も言葉を失っていた。


「うわ……ウインドミルからフリーズまで一気に繋げてきた。完全にショー構成だな」

 桑原が低く呟く。観客席からも「うおおっ!」と歓声が上がった。


「……わたしたち、負けてないよね?」


 鼓太は無言で頷いたが、その胸の奥は揺れていた。

 ――自分たちの“音”は、こんな強烈な“視覚”の前に、かき消されてしまうのか。


* * *


 リハーサル。


 太鼓のビートが響き、響が下駄でタップを刻む。だが、どこかちぐはぐだ。


「ズレてる……ごめん、もう一回!」

「いや、俺も……テンポが追えてない」

 桑原と響が額に汗をにじませる。


 そして、鼓太。彼の下駄も、どこか音が“浮いて”いた。

 木が床に当たる音は確かに鳴っているのに、芯がない。

 響こうと意識するあまり、逆に「ただの打音」になっていた。


「……ちょっと、休憩しようか」

 鼓太が言い出した。


 休憩後も、空気は重いままだった。


「俺ら、なんのためにここに来たんやろうな……」

 誰かがこぼしたその言葉に、誰も答えられなかった。


* * *


 その夜。河川敷のラボ。


 鼓太は一人、木型を削っていた。

 響と桑原も集まり、黙ってそれを見ていると……戸が静かに開いた。


「……音が濁っとるな」

 現れたのは祖父・誠一だった。


「じいちゃん……?」


 誠一はそっと工房の奥へ歩み寄り、鼓太が削っていた木型を手に取る。


「響かせようとする音は、響かん。響いてしまう音を、信じてみい」


「……響いて、しまう……?」


「お前の足が、お前の重さと、癖と、歩いてきた道で鳴らす音や。それが、“お前の色”やろ」


 その言葉に、ラボの空気が静かに変わった。


 鼓太は手を止め、深呼吸した。

 そして思い出す。最初に響が、下駄の音に惚れたときのこと。あの、一音一音が命だった頃を。


 ――自分の音に、戻ろう。


 その晩、鼓太は削り方を微調整した。少しだけ、歯の角度を変え、間を“残す”形に。

 一方、桑原も太鼓のリズムに「余白」を取り入れるように組み替えた。


「派手な音の連打じゃない。響く音の“間”で、勝負しよう」


「うん……あたしたちの“音”で、やるしかない」


* * *


 準決勝・当日。


 烈音高校のパフォーマンスは、やはり圧巻だった。

 観客のボルテージが最高潮に達したまま、ステージに上がる3人。


 照明が落ち、鼓太の下駄が静かに、一音を置く。


 カッ……。


 会場が静まった。


 次の瞬間、響がタップとスライドで空気を切り裂く。

 桑原の太鼓が、その余白を繋ぎ、音が“呼吸”を始める。


 カカッ……コン、カン……ドン……スッ。


 それは音楽ではなかった。舞台そのものが、生きた音になっていた。


 烈音のような派手さはない。けれど観客の耳と胸に残る“間”があった。


 そしてラスト、3人の動きが一拍で止まり――


 カッ。


 深く、芯を打つような一音が、会場に刺さった。


 静寂。

 そして、嵐のような拍手と歓声。


「勝った……俺たちの“音”で……!」


 誰よりも先に、鼓太が涙をこぼした。


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