少年、頭を使う。
※
塔の階段は石で造られていて、風化が進んでいるのか僕が歩くたびにその破片がバラバラと崩れ落ちた。
そしてその頂上、シュニ人たちの中心街までが見渡せる一室に『彼』は居た。
「……君が『クロ』か?」
「おいおい、治安警察もずいぶん手際が良くなったもんだな」
元はガラスが嵌っていたのだろう大きな窓から外を眺めていた男は、トランシーバーを片手に顔だけをこちらを振り向かせた。
その声は意外と若かったが、黒い色付きの眼鏡を掛けているせいで顔つきは分からない。
「僕は警察じゃない。あんな騒ぎを起こしたのがどんな人間か知りたかっただけだ」
「それは残念だったな。俺はご覧の通り、隠れてなきゃ何もできない小心者だ」
「……何が目的だ? 答えろ」
「目的? そうだな、連絡先を教えてくれたら一週間以内に送るよ。それまでにちゃんと考えておくから安心しろ」
「冗談を言ってるわけじゃないんだけどな」
僕は剣を抜いた。
男はおどけたように笑った。
「そんな大仰な武器を持ってるお前の方が、俺には冗談そのものに見えるぜ」
「じゃあ、冗談かどうか試してみる? その頃には君は八つ裂きになっているだろうけどね」
剣先を向けると、男は僕に背を向けたまま降参したように両手を上げた。
「まあ落ち着けよ。焦るのは良くないぜ。なぜ人類が言語を獲得したと思ってるんだ、お前は。暴力的な手段を使わなくても俺達には会話というコミュニケーション、相互理解の方法があるじゃないか。もしお前が俺と分かり合うつもりがあるのなら、とりあえずその剣を下ろすんだな」
「よく言うよ。その言葉、そっくりそのまま返したいくらいだ」
「何だって?」
「――――その両手を下ろせ」
「両手を上げるっていうのは無抵抗のサインだ。知らないのか?」
「そうじゃない。君の袖に仕込んでいるスイッチから手を離せって言ってるんだ」
「!」
男の右手が動く。
その瞬間僕の体は動き――――瞬時に男との間合いを詰め、彼の右手に剣の峰を打ち付けていた。
男の手から零れ落ちた、スイッチだけがついた装置が床を跳ねる。
「さあ、僕の知りたいことを話してもらうよ」
「くそッ」
男は窓から外へ出ようとする。
高所にある窓だから落ちたら即死だが、窓のすぐ下には落下防止の階段があるのを僕は知っていた。
だから―――。
「おっと、逃げようとしてもそうはいかないぞ」
「!」
だから、階段にはメフィを配置していた。
メフィは男に拳銃を突き付け、退路を塞ぐ。
「ほら、部屋に戻るんだ。出なきゃうっかり撃っちゃうぞ。お前の部下から奪ったもので、扱いに慣れていないからな」
「……まったく、これじゃ俺がよほど小物じゃないか」
今度こそ男は観念したように両手を上げ、窓の縁から降りた。
次回の更新は2月9日の予定です!




