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昨日までの片想い  作者:
昨日までの腐れ縁

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12/12

昨日までの腐れ縁(二)

 学期末テスト当日。

 帰りのHR(ホームルーム)を終え、テストに対して、こんなものだろう、という手応えを感じながらリュックサックに荷物を詰めていく。

 明日のテスト科目は何だっただろうか。携帯の写真フォルダから時間割表を探し、両手で写真をズームしていく。


「森さん。数学どうだった? この前、不安って言ってたけど」


 テスト科目を確認し終え、立ち上がろうとすると声を掛けられる。

 振り向けば、きっと、今が幸せど真ん中であろう荒井が立っていた。もう、関わる予定がなかったため、少し顔が引きつる。そんな表情を隠す様に、適当に話を合わせていく。


「荒井君が教えてくれた場所が出たよ! 助かっちゃった!」

「それは良かった……せっかく頼ってくれたのに、あまり会話出来なかったから、実は気にしてて……」

「ううん! 全然大丈夫!」


 私より、彼女の方が大事だもんね。申し訳なさを出しているが、他の女を選んだということに変わりはなくて。

 そう思うと、優しく接するのも馬鹿馬鹿しく感じてしまい。この会話も、どうやって切り上げようかと考えてしまう。

 頭の中で、アレコレと方法を考えていると、教室の入り口から荒井を呼ぶ声が届く。


「荒井君、帰ろ」

「せ、先輩!」


 入り口に立っていたのは、二年の女。荒井が名前を言っていたような気もするが、記憶が曖昧で。

 目の前の男は、嬉しそうな表情を浮かべ。私へと一瞥して、申し訳なさそうに「先帰るね」と残して入り口へと向かっていく。

 お前から話しかけて来たんだろ──と毒づきたくなるのを我慢して、私も笑顔を返す。


「うん。またね」


 荒井が、先輩の女子生徒と共に去っていく。なぜだか、一人取り残されたような気がして、不安な気持ちが身体を走る。

 教室にはまだ沢山のクラスメイトがいて。賑やかを通り越して、騒がしいくらいなのに。

 そんな感情から目を逸らすように、黒板の上に掛けられた時計へと目を向ける。気付けば、帰りのHR(ホームルーム)が終わってから四十分が経っていた。

 その事実に、私は思わず駆け足で昇降口へと向かう。

 別に約束はしてない。いつも、たまたま、帰る時間が同じなだけ。

 でも、心のどこかで、あいつは、いつものようにそこで待っている気がして。


「おう、遅かったな」


 校舎内とは言え、外の空気が直接入ってくる昇降口は一段と冷えていて。

 そんな場所で、一人佇む姿を見つけてホッとする感情より先に湧いてくる感情。

 教室に来ればいいじゃん、とか。先帰ってればいいじゃん、とか。そんな責めるような感情が出てくる自分が嫌になりそうで。


「他に一緒に帰る人いないわけ?」

「人のこと言えないだろ、お前」


 私の悪態にすら、笑って返してくる。許されると分かっているから吐く悪態。

 弱い、と思ってしまった。

 お互いに靴を履き替え、外に出れば、冬の風が駆け抜けていく。


「さっみーなー。さっさと帰ろうぜ」


 なら、何で待っていたのか。きっと、聞けば教えてくれる。でも、どこか負けたような気もして。

 少し先を歩く、私より大きな背中。そんな背中へ向かって声を掛ける。


「ねぇ、歩くの少し早い」

「あぁ、すまん。……お姫様のために、エスコートしましょうか?」


 そう言って差し出された手。私をからかっているその仕草に、再び悪態を返そうと息を吸い込む。

 しかし、差し出された手の先が僅かに赤くなっていて。

 その冷え切った指先を見て、苛立ちより罪悪感が勝ってしまう。


「……ごめん」

「おいおい、急になんだよ」


 差し出された掌。それを取る資格は、私にはない気がして。

 私は、袖の端を引っ張っていく。


「肉まん、奢ってあげる」

「お、まじで? 寒かったから、めっちゃ嬉しいわ」


 きっとそんな意味は込められていない。分かっているのに、その言葉が『お前を待っていたから』と聞こえてしまい。

 罪悪感で、袖を掴む手に力が入ってしまう。

 歩幅を大きくして、コンビニへ向かって袖を引っ張る。その後ろを、いつも通りの歩幅で、私に引かれて付いてくる気配。

 風は冷たくて。でも、まだ日の高い日差しがコートの内を温めていく。

 慣れない歩幅。運動に近い移動に、体温が上がり、僅かに息が上がる。


「そんなに急いでどうしたんだよ」

「急いでない」


 肉まんを奢れば、この罪悪感から解放される──そんなことはあり得ない、と頭では分かっているのに足は早くなる。

 どうして私はこんなにも弱いのだろう。

 まるで、子猫が人間に威嚇しているかのようで。


「いや……結構、的を射ているか」


 自分をそう揶揄してみると、あながち間違いでもなくて。思わず乾いた笑いが漏れる。

 コンビニが少し遠くに見えてくる。

 私達と同じ制服を着た生徒がちらほら。その中には、肉まんを嬉しそうに二つに分けているカップルの姿も。

 その光景を見て抱く感情は、いつだって『羨ましい』。

 どうしてそう思うかは分からないけれど。いつも「いいな」と思う。


 そんな思考が歩みを止め、思わずコンビニの駐車場の端で立ち止まる。

 カップルだけじゃない。友人達で楽しそうに分け合っている姿。回し飲みをしている男子達。

 どれもが『羨ましい』。


「──い。おい。肉まんとあんまん、どっちがいい?」


 声を掛けられ、ハッとする。

 目の前に差し出された、二つの饅頭。伊達眼鏡の向こうから、こちらの様子を伺うような視線。

 その視線が、どこか居心地悪くて。

 差し出されたあんまんを無言で受け取り、齧りつく。


「お、おい。やけどする──はぁ、言わんこっちゃない。ほら、飲みかけだけどこれ飲め」


 どうして、私は、こんなにも弱いのだろう。

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