マスオの温かい日々
その日の仕事も、ようやく終わりが見えてきた頃。
「本日ラストです!」
(やっと……)
マスオは心の底からほっとしていた。さすがに今日は疲れた、もう草を食べてそのまま眠りたい――そう思っていた、そのとき。
「最後のお相手はこちらです」
ゆっくりと現れたその姿を見て、マスオは一瞬、動きを止めた。
「……え」
ミーコだった。
いつもの、のんびりした目。変わらない空気。
でも、少しだけ照れたようにこちらを見る仕草。
「よろしくねぇ、マスオくん」
マスオは、しばらく言葉が出なかった。
「……ミーコ?」
「ええ」
「……これ、仕事?」
「そうみたいねぇ」
数秒の沈黙。
それからマスオは、ふっと息を抜いた。
「……なんだ」
肩の力が、すとんと落ちる。
「今日いちばん気が楽なんだけど」
ミーコがくすっと笑う。
「ふふ、よかったぁ」
「いやほんとに。さっきまで“もう無理”って思ってたのに」
「単純ねぇ」
「うるさい」
でも、その声には少しだけ柔らかさが混じっていた。
少しだけ、近づく距離。
夕方の光が、やさしくふたりを包む。
「ねえミーコ」
「なぁに?」
「こういうのならさ」
ほんの少し照れくさそうに、でも正直に。
「……そんなに嫌いじゃないかも」
ミーコは目を細めて、やわらかく笑った。
「でしょう?」
「いや、“でしょう?”じゃないのよ。全部が全部これならいいのに」
「それは難しいわねぇ」
「知ってる」
少しの沈黙。
でも、不思議と気まずさはなかった。
むしろ――穏やかで、安心できる空気。
遠くで人間たちが何か話しているけれど、もうどうでもよかった。
マスオは小さくつぶやく。
「……まあ、いいか」
「いいの?」
「うん」
夕暮れの中で、静かに。
「こういう日があるなら、もうちょっとだけ頑張れる」
ミーコはやさしくうなずいた。
「無理しすぎちゃだめよぉ」
「わかってる」
少しだけ笑って。
「ほどほどにやるわ」
かつて“走りたくないのに走り続けた名馬”は、“今働きたくないのに働き続ける日々”の中で――
ようやく、自分なりの“ちょうどいい理由”を見つけ始めていた。
それは、きっととてもささやかで。
でも、確かに温かいものだった。
終わり




