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無敗のマスオ

マスオの絶望は、次の週には「計画」に変わっていた。

「いい?今回は絶対に“ほどよく負ける”。バレないように、自然に、スマートに、ね」

馬房の中で一頭うなずくマスオ。その横でミーコはいつも通り、のんびり干し草をもぐもぐしている。

「でもマスオくん、負けたら悲しくないのぉ?」

「むしろ勝つ方が悲しいのよ、私は」

「ふぅん……難しいのねぇ、名馬って」

その“名馬”という言葉に、マスオはぴくりと耳を動かした。

「やめて。その呼び方、プレッシャーになるから」

――そして迎えた秋初戦。

スタート前、マスオはすでに覚悟を決めていた。

(よし、出遅れる。これが一番自然)

ゲートが開く。

……が、反射的に完璧なスタートを決めてしまう。

(違う違う違う!!今じゃない!!)

騎手が小さくガッツポーズをした。

「よし、最高のスタートだ!」

(最悪よ!!)

マスオは慌ててスピードを落とそうとする。

(ゆっくり、ゆっくり……あ、でも遅すぎると怪しいかも……)

その“絶妙な調整”が、結果的に――

「中団の理想的な位置取り!」

実況が絶賛する形になってしまった。

(違うのよ!ただの調整ミスなのよ!)

さらに問題は最後の直線だった。

(ここで伸びなければいい……そう、ちょっとだけ遅れて……)

だが後ろから迫る馬の気配を感じた瞬間、マスオの本能が目を覚ます。

(抜かれるのは……なんかイヤ)

ぐいっ。

「来たァ!!マスオ、ここでスパート!!」

(ああああああまたやっちゃった!!)

結果――またしても勝利。

しかも今回は「計算された完璧なレース運び」と絶賛されるおまけ付きだった。

レース後、厩舎はお祭り騒ぎ。

「やっぱり天才だな!」 「これは歴史的名馬になるぞ!」

マスオはぐったりしていた。

「ねえミーコ……どうして私、負けようとすると勝つの……?」

ミーコはゆっくり瞬きをして、ぽつりと言った。

「マスオくん、根が真面目なのよぉ」

「そんなところで発揮しなくていいのよその性格……」

その夜。

マスオは新たな作戦を思いつく。

「こうなったら……“走らない”」

「まぁ大胆ねぇ」

「スタートしても動かない。これなら確実に負けるでしょ」

「でも怒られそうねぇ」

「引退できるなら多少怒られてもいいのよ!」

そして迎えた次のレース。

ゲートが開く。

マスオは――動かなかった。

「おっと!?マスオ出遅れ……いや、動かない!?」

観客がざわつく。

騎手が焦る。

「どうしたマスオ!?行くぞ!」

(行かないわよ)

だが、そのときだった。

隣の枠の馬が鼻で笑った。

「どうした無敗様、怖気づいたのか?」

ぴくり。

マスオの耳が立つ。

「ダービーはまぐれか?」

ぴくぴく。

「やっぱり大したことないな」

――次の瞬間。

マスオは爆発的なスタートを切った。

「な、なんだこの加速!!最後方から一気に!!」

(言われっぱなしは、もっとイヤなのよぉぉぉ!!)

怒りの追い込み。

怒涛の末脚。

結果――

「また勝ったぁぁぁ!!マスオ、奇跡の大逆転!!」

観客は総立ち。

実況は絶叫。

騎手は半泣きで抱きついている。

マスオは虚無の表情でゴール板を見つめていた。

「……もうやだこの才能」

レース後、ミーコがぽつり。

「ねえマスオくん」

「なに……」

「もしかして、“勝たないようにする”のって、“勝つより難しい”んじゃないかしらぁ」

マスオはしばらく黙っていたが、やがて力なくうなずいた。

「……認めるわ」

遠くで人間たちの声が響く。

「次は海外だ!」 「伝説を作るぞ!」

マスオは空を見上げた。

(ねえ神様……)

一瞬の沈黙。

(せめて、次は“のんびり走っても勝てない世界”にしてください……)

その願いが叶うのは、まだ少し先の話だった。

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