VOL.11
「あのね、セシル……。あたしね、……カイ様の正室になるのは、セシルだと思うんだ……」
「はぁっ!?」
昼下がり。私はトレニアとお茶をしていた。辺りには優雅な空気が流れていた……はずだったのに。
トレニアの言葉に、思わず紅茶を吹きそうになった。
「ちょっ、何でよ!?」
「え……だって。カイ様、セシルと居るとき楽しそうだし……」
「無い無い無い! 怒ってばかりだよ!」
トレニアは、面白そうに私の顔を覗き込んだ。
「ふーん……? まぁ……そういうことに、しとけば……?」
……性格悪くなった? トレニア。
お茶会が終わり、長い廊下を進む。
くっそー、トレニアはSだったのか! 無いでしょ、数日前までは『正室になるのは、きっとライア様』って言ってたじゃない!
私……は、確かにキスされてドキドキしたのは事実だけど! それは経験が無さ過ぎただけっ!
「……おい」
だいたいあの人何なの!? ただ怖いヒトってわけでもないし、ていうかヘタレだし!?
「おい」
ラズベリーが好きだとか、そのギャップはなに!?
「おい!!」
「ひゃいっ!?」
……変な声が出てしまった……。
って、それより!
「……カイ様、いつから居たのですか……!」
「しばらく前から、ずっと声をかけていた!!」
はい、すいません……えー、一つ聞いてもいいですか?
「その痣は、まさか……」
「……そのまさかだ」
……やっぱりですか。
王位後継者が酔っ払って姉に再教育された(緩やかな表現)何てことを誰が聞いているかも分からない、廊下で話せないということで。
何故か私の自室に二人である。
「まぁ、昨日のことは酔っていてよく覚えていないんだが……。気付いたらミシェルが……」
よっぽど恐ろしかったのだろう、カイ様の言葉は尻すぼみに消えていった。ダラダラと脂汗をかいている。ご愁傷様です。
「……酔っ払ってカルに迷惑をかけた挙げ句、私に看病させたのですよ」
「すまんとしか言いようがない……」
「一国の王子なのですから、しっかりしてください」
その言葉に少しの間ポカンとして、それから微笑む。
「お前と居ると、何だか面白い。苛立つときもあれば、安心させられるときもある」
……は?
呆気に取られた私を残し、「公務があるから」とカイ様は部屋を出て行った。
不覚にもドキリとしてしまったのは、トレニアが変なことを言っていたからに違いない。