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第11話 キューちゃん、逃げる


 ォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 咆哮が、ダンジョンを叩いた。


「うわっ!?」


 こよみが耳を押さえてしゃがみこむ。


 青い発光花がいっせいに震えて、天井から青白い花粉みたいな光の粒がぱらぱら落ちてくる。


『うわああああ』

『本体いたあああ』

『逃げろ逃げろ逃げろ』

『花まで揺れてる』

『映像バグってる!?』


 コメント欄の勢いも、さっきまでと違う。


 俺の顔の横には、まだ「(・ω・)」が光っていた。


「キューちゃん!」


 こよみが顔を上げる。


「走ろ!」


 その時、さっきまで花と土に埋もれていた床が、青白くじわっと光った。


 ひとつじゃない。


 床の下、壁の奥。


 細い光が、脈みたいに繋がっていく。


『なに今』

『床光った!?』

『敵の咆哮に反応してる?』

『この場所そのものがやばい』


「うわ! 怒ってるの、あれだけじゃない! 空間ごと反応してる!」


 発光花が揺れるたび、光が流れる。


「キュ、キュ!(・ω・)」


 俺はこよみの手首を引いた。


 走ろう。


 さっき壊した壁まで、とにかく一直線に。


「うん、行こう!」


 こよみがすぐ走り出す。


 その素直さは本当にえらい。


 顔文字、できればもっと平和な場面で解放してほしかったな!?


 俺たちは砕けた壁の方へ駆けた。


 その途中で、床が沈んだ。


「うわっ!」


「キュッ!」


 こよみの腕を掴んで引っ張る。


 そのまま体ごとこちらに寄せた直後、崩れた床の向こうから、黒いものが横薙ぎに走った。


 また来た。


 巨大な前腕だ。


 今度は真正面じゃない。


 俺たちの退路を横から潰すみたいに、長い爪が石床を裂きながら薙いでくる。


『来た来た!』

『横から!?』

『逃げ道潰しに来てる』

『賢いの最悪だろ』


 最悪だよ!


 ほんとに最悪だ!


「キューちゃん、右! そっち危ないよ!」


 こよみの声が飛ぶ。


 見ると、足を置こうとした石床に細い亀裂が走っていた。


 危なっ!


 踏む寸前で体をずらす。


 そのまま崩れた石柱の根元に手をかけて、邪魔な部分だけ一気に叩き砕いた。


 ばきんっ、と鈍い音が響く。


 石片が飛ぶ。


 花びらも舞う。


 俺とこよみが通れるくらいの幅が、ようやく開いた。


『道作った!?』

『壊し方がうまい』

『全部粉砕じゃなくて通路だけ開けてる』

『キューちゃんこれ慣れてるだろ』


 慣れたくて慣れたわけじゃないんだけどな!


 でも、たしかに体は勝手に動く。


 どこを崩せば通れるか。


 どこを触るとまずいか。


 そのへんだけは、デッドラインの裏方をやってた頃の癖が染みついてる。


「キュー!」


「うん!」


 こよみが開いた隙間をすり抜ける。


 その頭上を、また巨大な爪が通り過ぎた。


「うわ、近っ!」


 こよみが身を縮める。


「キュー!(・ω・)」


「わかる! 今のは『しゃがめ!』だよね!」


 必死な時は行動が制限される分伝わる!


 退路の横壁が、内側から盛り上がるみたいにひび割れた。


 青い花が根ごと浮き上がり、崩れた土と一緒に落ちる。


 その奥に見えたのは、自然の岩じゃなかった。


 平らな壁面。


 細く刻まれた線。


 半分埋もれた石の枠。


 花の根が絡みついた、明らかに人工の通路の断面。


「……やっぱり!」


 こよみが叫ぶ。


「やっぱりここ、誰かが作った場所だ! 庭だけじゃない! 床も壁も、ぜんぶ……!」


「キュ、キュ!」


 見てる場合じゃない!


 と、言いたいのに、こよみはすぐ次の瞬間には自分で切り替えた。


「だめ、確認は後! 来るよ!」


 黒いてのひらが勢いよく突っ込んでくる。


 爪が通った場所から、石床と壁がまとめてえぐれていく。


 通路そのものを潰そうとしているみたいだった。


 なんだ!?


 前方……。


 空間がゆがんでいる……?


 円とも楕円ともつかない歪みだ。


『転移!?』

『空間バグってる』

『何あれ』

『ガチのやつ来る?』

『機構か?』


 機構?


 その単語が流れた瞬間、背筋がぞわっとする。


 そこへ、奥の暗がりからまた咆哮が来た。


 グルァァァァオオオオオオオオオオオッ!!


 腹の底が揺れる。


 花が震える。


 壁の人工の線が、さっきより強く光る。


 嫌すぎる!


 俺はこよみの肩を引き寄せて、崩れた石壁の影へ押し込む。


 その時——空間のゆがみが、ひときわ大きく動いた。


 青白い光の輪の向こうに……影?


 ひとつじゃない。


 ふたつ、みっつ。


 人だ。


 でも普通の探索者じゃない。


 迷いがない。


 全員が同じ方向を見て、同じタイミングで動いている。


 武装も、姿勢も、視線の向きまで揃っていた。


「……転移、だ」


 こよみが、ほんの少し息を詰めた声で言う。


「しかも、これ……」


 言い終わるより早く、青白いゆがみの中から、人影が花の庭へ降りてきた。


 黒に近いバイクスーツのような装備。


 そろいすぎた動き。


 対魔物ライフル。


 最悪だ。


 敵だけでも面倒なのに。


 今度は、敵じゃないはずのもっと面倒そうなものが来た。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


(´・ω・`)のまま、かなり大変なことになりました。

次回、青い花の庭に別の勢力が入ってきます。


続きも読んでいただけると嬉しいです!

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