8話 突撃
私の旗印としての服が完成した後、私たちはやる事がなくて暇になってしまった。
「ヒマだなー」
さっきまでうるさくしていたブレイヴが呟いた。
「そうだな…服のあまりで何か作るか?」
「いいなそれ!」
サーティーが服を切ったことで出た小さな赤い布を見て言うと、ブレイヴが間髪入れずに反応した。
「そうだな。隊のマークとか作るのはどうだ」
ブレイヴに遅れてシュジャーが同意するかのように頷くと、隊長が提案を言った。
「いいな、作ろう!」
「確かにいいな。…でも、どんなマークにする?」
隊長の提案にブレイヴとサーティーがすぐに賛同して、シュジャーも微笑みながら頷いていた。
「なぁ、ヘレンシアも欲しいよな。隊のマーク」
何も反応せずに静かに見てた私にブレイヴは訴えかけてきて、私は「うん」と頷いた。
「よし、じゃあ作ろう。頼んだ、アーラ」
ブレイヴが部屋全体に響く声でそう言って、サーティーの肩に手を置いた。
「分かってるよ。俺が言い出したことだしな。でも、案はお前らも出せよ」
「もちろん、考えるぞー」
サーティーがブレイヴの手を肩から払いながらそう言うと、ブレイヴがまた部屋全体に響く声で返して、隊のマークを考えることになった。
それから隊のマークを考えることになって、数分が経った。
「やっぱり、赤だから太陽はどうだ」
「太陽か。…人によって表現の仕方が変わる代表を持ってこないでくれ」
「うーん。それにこの隊の目印だから、隊としての意味があるものにしたいしな」
ブレイヴが案を言って、サーティーが否定をして、隊長が案の考えの改善案を出す。私とシュジャーはその光景を静かに見守っている。この数分はずっとこの状態だ。
「おい、お前らも案を出せよ!」
ブレイヴが限界が来たのか、いきなり立ち上がって叫んだ。
「まぁ、隊の名前が『始まりの鬼』だから、鬼が分かりやすいと思うけど」
「俺も鬼で良いと思うけどな」
ブレイヴの叫びに隊長が冷静に返して、サーティーも続くようにそう言うと、シュジャーも頷いて賛同していた。
「じゃあ、僕が案を出してた今までの時間は何だったの?無駄だったの?」
2人の言葉を聞いたブレイヴはさっきの状態からは想像できないほど、か細い声でそう言うと、静かに座った。
その結果、鬼のマークに決まって、マークは軍服の左胸にあるポケットに縫うことになった。
赤い丸に2本の角が伸びているだけの鬼のマークが全員の軍服に縫われた。
「ださくね」
完成したマークを見て、ブレイヴが空気を読まずに言った。
「マークだし、一目見れば分かるものだし、これでいいだろ。それにやり直すのはめんどくさいし…」
自分でもそう思っていたのか、サーティーが言い訳を言っていた。でも、最後の言葉がブレイヴに同調しない理由だろう。
「…マークだからね。遠目から見ても分かりやすいと思うし…」
隊長がなんとかして、良いところを探し始めた。そんな時だった。ムール中尉が司令室に戻って来た。
「作戦の伝達があらかた終わりました。それと昼ご飯を持ってきましたので、どうぞ食べてください」
中尉はそう言うと、硬いパンをくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
隊長はそう言って、食べ始めたから、私も「いただきます」と言ってパンに齧り付いた。みんなも続くようにパンを食べ始めた。
パンを食べていたみんなが何故か、パンを食べるのをやめた。私はみんなに合わせるようにパンを食べるのをやめてみた。
「やっぱり、戦場のパンは硬くて顎が疲れる」
「そうですね。食べやすい食事があれば、戦場での疲れは今よりも溜まらないのではないかと思ってしまうほどですよね」
ブレイヴがそう言うと、ムール中尉が同意するように言葉を返して、他のみんなは頷いていた。
みんなは硬いパンで顎が疲れてたみたいだけど、私は全然そんなことなかったから、その会話に入っていくことができなかった。
「そういえば、入ってきた時に聞き逃したんですけど、その鬼みたいなのってなんですか?」
「あぁ、これはこの隊のマークとして、作ってみたんです」
中尉が質問をすると、隊長がマークを見せながら返答した。
「分かりやすくて良いですね。…そうだ、食事が終わったら言おうと思っていたことですが、ヘレンシア君が旗印としてさらに目立つための物として大きい旗を作ってもらいたいと思っているんですけど、どうですか?今、外に旗用の木の棒を持ってきてあります」
「なるほど、確かに旗印ですから遠くからも見えた方が良いですね」
中尉の言葉に隊長は賛同の意思を示す。だから、私も「うん」と言って頷いた。
「ヘレンシアが良いっぽいし、アーラがんばれ」
私の反応にブレイヴがそう言って、旗を作ることになった。
旗を作ると決まって、私たちは外に旗用の棒を見に行った。
「長いなぁ」
外に出てすぐに私の身長の倍ぐらいあると思われる木の棒が置いてあって、ブレイヴが小さく呟いた。
「どうですか?旗をこれに合わせて作れますか?」
「とりあえず、作ってみます。大きさまで合わせられるかは分かりませんがやってみます」
ムール中尉がサーティーに聞くと、サーティーはそう答えて、司令室に戻って旗を作り始めた。中尉を含めた私たちはサーティーの指示で旗作りを手伝った。
「なぁ、僕はいつまでこれを持ってれば良いの?」
途中、ブレイヴが文句を言ったり、中尉と隊長の2人の難しい話があったりしながらも旗は問題なく完成した。
「よし、あとは棒に付けるだけだな」
サーティーがそう言って、私たちは出来た旗を持って外に出ると、もう日が暮れ始めていた。
「もう夜になるな」
「そうだな。明日、作戦決行だな」
ブレイヴとサーティーのその会話を横目に私たちは旗を棒に括り付けて、私たちの陣営の赤い旗が出来た。
「それでは皆さん、明日のためにも今日は昼の残りのパンを食べて、休みましょう」
ムール中尉のその言葉にみんなで頷いて、私たちは司令室に戻るとパンを食べて、すぐに眠りについた。
近くで足音が聞こえて、私は目を覚ました。
「…ヘレンシア、おはよう。起こしちゃった?」
起き上がった私に気づいた隊長が心配そうに私を見て言った。私は軽く首を振って「おはよう」と返した。
起きた私は伸びをしながら周りを見た。部屋の中で起きていたのは隊長とムール中尉だけだった。あと、昨日の夜にはいなかったメイ少尉がいた。
3人は真剣な顔で何かを話していた。そんな中で“ぐぅ〜”と私のお腹がなってしまった。
「…ヘレンシア君は先にご飯を食べていてください」
ムール中尉が私の近くにある、パンが置いてあるところを指差して言ったので、私は「いただきます」と言って、パンを食べることにした。
私がパンを食べている間、3人は今日の作戦の最終確認をしているみたいだった。
私を中心とした作戦。私が戦えない場合の作戦。私がいない想定の作戦。複数の可能性を考慮して作戦の確認をしていた。
「…うぅ」
そんな中、ブレイヴが真剣な空気を壊すように唸り声を上げながら起き上がった。
「…おはよう。目、覚ますために外の空気吸ってくる。…ヘレンシアも行こうぜ」
ブレイヴは寝起きとは思えないほど、しっかりしていた。今まで見てきたブレイヴから想像できないような…でも、起きたタイミングが悪いのはブレイヴって感じがした。
「…うん、行く」
私はそんなブレイヴに驚きつつ、外について行くことにした。
外はまだ日が出ていなくて、少し肌寒かった。
「暗っ。寒っ。今って夏じゃないのか。いや、まだ初夏か」
私が隣に行くとブレイヴが独り言で会話していた。っていうか、今って初夏なんだ。
「もう戻ろうぜ。暗いし、寒いし」
ブレイヴが私に向かって言ってきたから、私は頷いて司令室に戻った。
「…おかえり。早かったな」
作戦の確認が終わったのか、隊長がパンを食べて、戻ってきた私たちにそう言った。
「まだ、夜明け前で寒かったんだよ。まぁ、おかげで目、覚めたわ」
ブレイヴが隊長にそう返した時に声の大きさからか、サーティーとシュジャーが起きた。
「おっ、おはよう。まだ、夜明け前だぞ」
ブレイヴが起きた2人に向かって、大きな声で言ったら、サーティーが「うるさい」と返して、隊長がくすくすと笑っていた。
「まぁ、飯にしよう。…はいっ」
隊長がそう言ってパンを配って、みんなで朝食を済ませた。
みんなで朝食を済ませて、部屋が静寂に包まれる。
「夜明けと共に作戦を開始します。皆さん、準備をお願いします」
そんな静寂を消し去るようにムール中尉の言葉が告げられた。その言葉は重く、身を引き締めるには十分だった。私たちは「はい」と覚悟を決めるように返事をした。
準備に入るとムール中尉とメイ少尉は塹壕の全体の準備状況を確認するために部屋を出た。部屋に残る私たちは部屋の隅に置いておいた武器を手に取った。
「ヘレンシアの銃も用意してもらったほうが良くないか」
私がナイフを腰に刺している時にブレイヴが隊長に小言を言った。
「うーん、確かにそうだな。中尉に余りがあるか、聞くか」
隊長が準備する手を止めることなく、返していた。
「私、銃の使い方分かんないから、要らないよ」
私のその言葉になぜか、みんなが手を止めた。その後すぐに隊長が「あぁ、そうか」と言って、みんなは準備に戻って、私はサーティーに作ってもらった外着を羽織って、準備が終わった。
私の準備が終わってから程なくして、隊のみんなの準備が整った。みんなの顔つきが今までと異なり、ブレイヴさえも強張った表情になっていた。私は変わらず、いつも通りの心持ちでいた。
戦争を経験しているみんなとしてない私の差がその空気感の違いを生み出していることだけが私に分かることだった。
「ヘレンシア、大丈夫か。無理な時は言ってくれ」
隊長が私の肩に手を軽く置くと、顔を見ながら言った。
「大丈夫だよ。私は異能兵だから」
私はそう答えて、司令室の扉へ向かった。
「本当に大丈夫か。僕は正直、外に出たくないよ〜」
軽い足取りで扉に向かう私にブレイヴが弱音を漏らした。そんなブレイヴを隊のみんなはなぜか、冷めた目で見つめていた。
「お前、戦うとなると性格変わるだろ。絶対に死なねぇって言いながら、銃打ってただろ」
冷たい視線がブレイヴを刺している状況でサーティーが淡々と言うと、ブレイヴ「よし、行くか」といつもの調子に戻って、一番最初に司令室を出た。私たちも続くように司令室を後にした。
外はまだ暗かった。そんな中でも塹壕では兵士の人たちが歩き回っていた。でも、司令室の周りには誰も歩いてなかったから、狭い塹壕の中では快適な場所に感じた。
「皆さん、準備は終わりましたか?」
そうした中で私たちがどうすればいいのか分からずに司令室の扉の前で棒立ちになっていると、メイ少尉が声を掛けて来た。
「はい、終わりました。私たちは何をすればいいですか?」
メイ少尉の声に隊長がすぐに反応して質問をした。
「もうすぐでこちらの準備も終わる予定ですので…すみませんが待っていてください」
メイ少尉はそう言うと、私たちの前を通って、来た方とは反対側に行った。
肌寒い外で何もやることがなくて、ブレイヴが「どうする?」と呟くと、サーティーが「待つしかないだろ」と言うだけしか、待っている間にあったことはそれしかなかった。
「全軍の準備が完了したのでいつでも行ける用意をよろしくお願いします」
兵士の人たちの足音が静かになるとムール中尉がやって来て、そう言うと私は静かに空を見上げた。見上げた空は少しずつ敵陣の方から明るくなり始めていた。
明るくなり始めた空から塹壕の中に目を移した。中尉と少尉、それに隊のみんなは覚悟を決めた目をしている。
でも、周りを見ると静かに突撃を待つ兵たちの顔は土で汚れていて、弱々しく見えた。その顔は覚悟が決まっているようには見えなかったし、今にも不安に押しつぶされそうな表情に見えた。
私は何かをしてあげないといけないと思った。何故そう思ったのかは分からない。ただ、そう思った。でも、何をしてあげればいいのか、分からなかった。
私は少し考えた。彼らには何があればいいのか?希望があれば、彼らの不安を消してあげれるのではないか。
だから、私は自分の存在を…『異能兵』という存在を見せればいいと思った。
そう思ってからの私の行動は速かった。
司令室の前に置いておいた昨日作った旗を持ち上げて、私は塹壕の上に飛んで、敵陣の方を向いて立った。後ろから隊のみんなが驚いていた声が聞こえたが、今の私はその声で止まろうとは思わなかった。
塹壕の上に立つと、近くの兵士の視線が私に向き始めるのを感じた。そんな中で私は身長の倍ある旗を大きく掲げた。そうするとさっきよりも後ろから視線を感じた。
みんなの注目は集めた。あとはみんなの希望となるだけ。私は目を瞑り、心臓の異能石に意識を向けた。
心音が段々と速くなって、全身が熱くなる。それに実験の時にはなかった高揚感があった。
「全軍、突撃!」
鬼になったことでの高揚感からか、私は大声でそう言ってしまった。
そうして、私の初陣が私の勝手で開戦してしまった。




