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7話 赤の旗印

 作戦が決まって、司令室の空気は活気付いてきた。それに、ムール中尉とメイ少尉が、赤や黄色の明るい色の服を持ってきたことで、部屋の雰囲気までが明るくなった気がした。

「赤色と黄色が多くて、朱色や黄緑色が少しあります」

 服を持ってきた少尉が、服を広げて見せながら言った。

「ヘレンシアには大きいな…」

 バトン隊長が服を一枚持ち上げると、私に服を合わせてサイズを確認して、呟いた。

「じゃあ、サイズ調整すれば」

 ブレイヴが人ごとのように言って、シュジャーは頷こうとしていたが、途中でやめてブレイヴの方に視線を移した。

「誰がやるんだ…」

「アーラ、銃の修理とか、細かいこと得意だろ。手先器用なんだし、できるんじゃね」

 隊長が呆れたように返すと、ブレイヴは立ち上がって、サーティーの背中を軽く叩きながら言った。

「はぁ…カーナー、お前なぁ…俺に丸投げかよ。まぁ、出来なくはなけどよ」

 サーティーはため息を吐いて愚痴を言ったが、断ることはしていなかった。

「出来るんだったら良いじゃないか」

 ブレイヴはサーティーの返答にすぐ、調子に乗ったら、みんなからの視線を集めて、椅子に座って大人しくなった。

 そうして、部屋が静かになると机に、明るい色の服が中尉と少尉の手によって並べられた。それは、私が旗印としての服を選ぶためだと、みんなが理解している様子だった。


 机に並べられた、赤や黄色などの明るい色の服。みんな、それぞれで服を眺めていた。

「ヘレンシア君は何色がいいですか?」

 服を並べ終えて、椅子に腰掛けたムール中尉が私に質問した。私はその問いに目の前に並ぶ服を見て、頭を悩ませる。

「うーん、やっぱり黄色が一番目立つんじゃない」

 私が悩んでいる様子でみんなは静かに待っていたが、1人だけ違った。ブレイヴだ。でも、私にとってはありがたかった。難しく考えすぎて、悩み過ぎていた気がした。

「赤がいいです!」

 私のその答えに、ブレイヴ以外のみんなが吹き出して、ブレイヴの目は点になっていた。私はただ、自分が好きだと思った色を言っただけだったのに…。

「そ…そうか、赤がいいのか。連合陣営の象徴の色だし、良いじゃないか。中尉、赤でお願いします」

 バトン隊長が私を見て笑顔で言うと、ムール中尉の方へ向き直して、何枚かあった赤色の服に手を伸ばして言った。

「旗印として、我々の陣営の象徴の色である赤は確かに良いですね」

 中尉はその言葉に笑顔で返して、赤色の服以外を机の上から片付け始めた。


 サーティーが机の上に6枚あった、赤色の服の一枚を手に取る。それを眺めながら、何かを考えている様子だった。

「サイズ調整のために針と糸…あと、ハサミが欲しいです。用意することって、できますか?」

 サーティーが持っていた服を置いて、その服を触りながら言うと、メイ少尉が「探してきます」と言って、司令室を後にした。

「ちなみにアーラ、調整にどれぐらいかかりそうだ。作戦を決行するなら早い方がいい。そうしないと、敵の塹壕の修復が終わってしまう」

 バトン隊長が服を見ていたサーティーに聞いた。

「…明日中に終わらせる。明後日以降なら、すぐにでも作戦決行できるようにする」

 サーティーが真剣な顔で答えると、隊長とムール中尉は静かに頷いた。

「では、作戦は明後日、夜明けと共に決行します。明日はその準備ということで、全兵に伝達しておきます」

 中尉は少尉が裁縫道具を持って、部屋に帰ってくると宣言した。私たちは「はい!」と緊張が混じった声で返事をした。


 部屋の中に返事が響き終わると、部屋は静寂に包まれた。皆んなは互いに顔を見合わせていた。

「えっと…中尉。決行まで私たちはどちらで過ごせばいいですか?」

 みんながどうすればいいか分からなくなっている中、隊長が空気を変えるように発した。

「あぁ…皆さんはここでお過ごしください。他の壕舎はぎゅうぎゅう詰めで…場所によっては外で寝る兵までいるほどですから」

 中尉は空気が重くならないようにか、苦笑いしながら答えた。

「では、僕はやることがないのでゆっくりさせてもらいます」

 少し重くなっていた空気を壊すようにブレイヴが発言すると、私以外の隊の皆んなが呆れたような顔をして、隊長はため息を吐いていた。

「おい、カーナー…」

「そういえば、言おうか悩んでたけど、作戦決行は明後日じゃなくて、明日じゃないですか?さっき、外に出た時に明るくなり始めてたから…そうだよな、ヘレンシア」

 隊長がブレイヴに何か言おうと口を開いた瞬間、ブレイヴがまた空気を読まずに発言をする。私はブレイヴの言葉には一応、頷いた。

「もう、日が登り始めていたのですか。それなら確かにそうですね…」

 中尉が優しく微笑みながらそう言うと、ブレイヴに何か言いたげな顔の隊長とサーティーは諦めたような顔になって、表情が綻んでいた。皆んなのその様子に、私も表情が綻んでしまった。

 その後、中尉と少尉は「兵に作戦を伝えに行く」と言って、司令室を後にした。


 重苦しい空気が無くなって、5人だけになった部屋で、サーティーはすぐに作業を始めた。

「ヘレンシア、サイズの確認したいから、この服を持って立ってくれ」

 サーティーのその言葉に私は服を受け取って、立ち上がった後にサイズの確認ができるように持った。

「うーん、やっぱりでかいな」

 サーティーが私の体よりも一回り大きい服を見ながら呟いて、シュジャーが後ろで小さく頷いていた。

「そうだなー。結構でかいな」

 ブレイヴが頷きながら、みんなに比べて大きな声で言った。その声はこの狭くて息苦しくなるような壕舎にいるとは思えないほど、明るかった。

「アーラ、手伝うことがあったら言ってくれ。やれることなら、何でもするからな」

 隊長がブレイヴの言動を呆れか、ただただ反応するのが面倒くさいからか、無かったかのようにサーティーに話しかける。

「あぁ、1人で無理だと思ったらすぐに手伝ってもらうわ」

 サーティーは服の袖の長さの確認をしながら、てきとうな感じで答えていた。


 サーティーの服の調整は手際よく進んで行った。

「なぁ、アーラ。順調か」

「あぁ」

 さっきまで壕舎にいるとは思えないほど、呑気にしていたブレイヴがサーティーに近づいて話しかけたが、サーティーはブレイヴを見ることもなく、呼吸をするようにてきとうに返事をしていた。

 その間の私に関しては、調整後の大きさが間違っていないかの確認の時以外は何もやることがなかった。

「なぁ、僕さぁ、いいこと思いついたんだよ。服の側面に別の色を入れるのはどうだ。そうした方がさらに目立つだろ」

「ふーん」

 ブレイヴはサーティーにあしらわれているのに、そんなことが分かっていないかと思える態度で話しかけ続けていた。

「服の側面に別の色?」

 2人のやりとりを見ていた私はブレイヴの言葉に気になって、小声だけど皆んなに聞こえるほどの大きさの声で呟いた。

「ヘレンシア、興味あるの!なぁ、アーラ。ヘレンシアがやりたいみたいだぞ」

 ブレイヴが私の言葉に大きな声で反応した。私は気になったから言った言葉だったのに、何故か私がやりたいみたいな感じにされた。


 ブレイヴの発言に私を含めた部屋にいた皆んなの目が点になっていた。

「ん?おい、アーラ。いきなり止まってどうしたんだよ」

「えっ…あぁ、何でもない」

 ブレイヴの無神経な発言が続くが、皆んなついていくことが出来なくなって、反応が悪くなる。それに対して、ブレイヴはムッとした表情になっていた。

「おーい、なんか言ってくれよー」

 ブレイヴはサーティーの体を軽く揺さぶって、皆んなを見ながら言った。

「はぁ…カーナー、落ち着け。今のところ誰もお前についていけてない」

「あっ…僕の悪い癖、出てた?」

 隊長がため息をついて、ブレイヴに話しかけると、ブレイヴはハッとした表情で、さっきまでとは違って静かに呟いた。

 ブレイヴの言葉にサーティーとシュジャーは軽く頷いていた。

「皆んな、ごめん。できるだけ静かにする」

 ブレイヴがそう言って頭を下げると、隊長が「そうしてくれ」と返して、サーティーとシュジャーの2人はまた、頷いていた。

 私はぼーっとしながら、ただただその光景を見ていた。


 ブレイヴが静かになった結果、部屋の中は静寂に包まれた。皆んなでサーティーの作業を見ていることしか、やることがなかった。

「ヘレンシア、調整が出来てるか確認したいから、服を持ってくれ」

 サーティーがそう言うと、私に服を渡してきたから、私は立って受け取ったら、サーティーは服の端から端までを見ていた。

「うーん、袖と裾の長さはちょうどいいけど…全体的な大きさがなぁ。どうやって調整しよう…」

 サーティーはそう言うと、私が持っていた服を持ったから、私はそのままサーティーに服を返した。

「ねぇ、さっきブレイヴが言ってたことってできるの?」

 服を見つめながら考え込んでいたサーティーに私は話しかけた。

「…あぁ、別のを使うやつか。できるけど…今、困ってるのは首周りなんだよ。ここがでかいんだよなぁ」

 サーティーは持っていた服で説明するように言って、服の調整が一旦止まった。


 少しの間、皆んなで頭を悩ませていた。

「…いらないところだけ切って後で繋ぎ合わせるか…」

 突如としてサーティーはそう呟くと、すぐさまハサミを持って服を切り始めた。私たちはその行動に驚きつつも、案がないために静かに見ていることしかできなかった。

「なぁ、ヘレンシア。さっき言ってた側面に別の色を入れるやつ、やる?」

「…うん」

 持っていた服を切り終えたサーティーがそう聞いてきて、私は咄嗟に頷いた。

「何色にする?黄色か朱色か、どっちがいい?」

「えっと…朱色かな」

 私の返答にサーティーはそれぞれの色の服を持ち上げて聞いてきて、私は直感で答えた。

「よしっ、分かった。あとは完成まで待っててくれ」

 サーティーがそう言って黙々と作業を再開した。私は机にもたれかかりながら、静かに見ていた。


 それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?私はいつ間にか、机に突っ伏して寝てしまっていた。

「やっぱり、僕が言った通り、いいじゃん」

「あぁー、調子戻って良かったと思ったけど、うるさくなるんだったら、もう少しあのまんまでよかったわー」

「いつも通りだし、慣れたもんだろ」

「あぁ、それでもめんどくさいんだよ」

「そんなこと言うなよー」

 ブレイヴとサーティーの言い合いと、2人を宥める隊長の声が耳に入ってきた。シュジャーの声は聞こえなかったから、相変わらず無口なんだなってことを思いながら、私は体を起こした。

「あっ、ヘレンシア。起こしちゃった?ごめんね。うるさくて」

 起きた私に隊長がすぐに気づいて、そう言ってきたから、私は咄嗟に首を横に振った。

「別にうるさくなかったよな。ヘレンシア」

 ブレイヴが食い気味に聞いてきたから、私はそのまま首を横に振り続けた。そしたら、隊の皆んなは声を出して笑っていて、私もつられてクスクスと笑ってしまっていた。


 しばらく笑っていた私の目にサーティーが持っていた、完成したと思われる服が映った。

「ねぇ、服できたの?」

 私は身を乗り出して、聞いてしまった。皆んなで笑っている中での、いきなりの行動だったから、皆んなを驚かせてしまった。

「あぁ、一応できたよ。服の予定だったんだけど、外着になったんだよね。まぁ、嫌だったら作り直すから、遠慮なく言ってね」

 サーティーがそう言いながら、完成した服を見せてくれた。

 服は赤を中心として、側面には朱色の生地が縫われていた。袖にも側面の朱色が脇を通り、地続きで袖口まで一直線に続いていて、肩からももう一本、朱色の線が袖口に伸びていた。前の部分はボタンが縫われていて、留めてあった。

 正直言って、見た目は真っ赤な服だった。側面にある朱色は遠くから見れば、同じ赤色と見えると思った。でも、私にはそんな事はどうでもいいほどの喜びがあった。

「ヘレンシア、どうした?気に入らなかったか?」

 服をじっくりと眺めていた私を見ていた隊長が心配そうに聞いてきた。私は軽く首を振って、サーティーから服を受け取った。

「私のために作られた物があるのが嬉しくて…それで眺めてただけ…。ありがとう」

 私がそう答えると、隊の皆んなが微笑んで隊長には頭を軽く撫でられた。

「ねぇ、着てもいい?」

 私は気恥ずかしさなのか、今の空気に耐えきれなくなって、少し大きな声が出てしまった。皆んなは微笑んだまま、軽く頷いた。

 私は留められていたボタンを外して、袖を通した。服は少し大きく感じたけど、動く時に邪魔にならなさそうだから、別に気にならなかった。

 そうして、私の初陣の準備は整った。

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