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10話 動く戦場

 異能兵同士の戦闘が終わった。この戦場にいた誰もが、この速さで戦闘が終わるとは思っていなかったのか、敵も味方もその場で棒立ちになっていた。

「敵の異能兵は討ち取った。それにより、敵の戦力は大きく削がれた。私たちは勝利を掴む。全軍、突撃!」

 私は味方の兵士に思うがままに語りかけて、初陣同様に勝手に突撃の指示を出した。

 味方の兵士は私の声に少しの間を置いてから、「おー」と大声を上げながら突撃を開始した。

 私は味方が動いたのを確認してから、ナイフを抜いて、敵の塹壕へと突撃した。

 今回の突撃も初陣のように私が十数人〜二十人ほどをナイフで切り付けると、味方が塹壕内に突入し始めた。でも、今回は敵の全軍がいるのか、数が多かった。だから、私は味方の戦いが終わるまで共に戦い続けた。

 そうしていると、いつの間にか敵の中央から左右にかけて、敗走する敵兵が出始めた。私たちはその敵には追撃はしなかったが、塹壕内での敵兵は0になった。

「私たちの勝利だー」

 そうして、私は勝利を大声で宣言した。すると、各地から「軍神、軍神」と雄叫びが響いて、この日の戦闘は終わりを迎えた。


 それから、数日が膠着状態で過ぎた。敵は後ろの塹壕に下がって、そのまま動く気配がなく、私たちも連戦だったこともあって、ムール中尉の指示のもとで警戒しつつも、休息の時間だった。

 その時に私は『鬼の軍神』と呼ばれて、さらには呼びやすくした『鬼神』という名が味方の中に定着していた。

 そんな中、前回の勝利の時同様、連合陣営の本部からの連絡が来たと司令室に集められた。

「初めまして、ネレ国の司令官方と『始まりの鬼』の皆様。私は伝令兵のラウンと申します」

 中尉と少尉、私を含めた隊のみんなが司令室に集まると伝令兵と名乗った男が話し始めた。

「まずは我らが陣営本部から前線の好転及び、敵異能兵の討伐に対して称賛を送ると。そして、『始まりの鬼』の皆様はこちらの前線での役目は終わりのため、テンレイ国に帰還するようにという指令です」

 伝令兵のその言葉に隊長は「承知しました」と返して一礼をしたから、隊のみんなと私も続くように一礼した。

「指令の伝令の完了を確認しました。後方に輸送用の軍用車を用意してありますので、私の伝令が完了次第、そちらに向かいますので準備をしておいてください」

 伝令兵はそう言うと、ここ以外の戦況などを中尉達に話し始めた。


 私たち、隊のみんなの装備などはこの司令室に置いてあったため、伝令兵の言葉を聞きながら、この前線を去るための準備をしていた。

 伝令兵が話していた内容は国名や難しい言葉が多くて、覚える気にはなれなかったけど、準備がほとんどなくて意外と頭に入ってきた。

 一応、聞こえた内容としては敵の異能兵が倒された情報が広がる前に同盟陣営に複数の国が参加して、連合陣営も負けじと他国を参加させたそうだ。

 同盟陣営に参加した国で特に警戒するべきはテンレイ国の西の隣国のゼリン国。大国までとはいかないが、軍が周りの国に比べて強いらしい。

 でも、連合陣営には『センテル地方の観測者』と呼ばれる国。センテル地方で唯一の島国のレグリン国やゼリン国のテンレイの反対の隣国のベレン国が参加したそうだ。

 あと、同盟陣営にはベレン以外には3つの国が参加して、連合陣営にはレグリン、ベレン以外に2つの国が参加したと言っていた。

 それから、敵の異能兵が倒された情報が広がってすぐにホードン国がアーロイト国に軍を進めて、それに続くように反対側のルレン国も進軍を始めたことで、アーロイトはもう表舞台には出てこなくなるだろうとも言っていた。

 その伝令が終わる頃には私たちの準備はとっくに終えていて、中尉と少尉に挨拶を済ませて、この前線を後にした。


 私たちは前線の塹壕から軍用車まで歩いていくことになったが、前線が前に進んだことで歩く距離が来た時よりも長かった。前線が前に行こうが軍用車が塹壕を越えられないから、来た時と同じ場所に置いてあるそうだ。

 ブレイヴの「面倒くさい」という小声の愚痴を聞きながらの意外と長い移動だった。

「それでは、荷台の方に乗ってください」

 軍用車に到着すると伝令兵のラウンさんがそう言って、運転席に入って行った。隊長だけは「はい」と頷いて、荷台に乗ったことで私たちも荷台に乗った。

 国に戻る軍用車は激しく揺れて、戦場並みに意識の集中を余儀なくされて、ブレイヴ以外は静かだった。

「うぅ…こんなに揺れると休めねぇよ〜」

 ブレイヴに関しては常にと言っていいほど愚痴を呟いていて、隣に座っていたサーティーは「うるさい」と、時々ブレイヴに言っていた。

 それでも、寝ている時以外はずっと喋っていると思うほど、ブレイヴがうるさいのが続いた。

 そんな中で私が「ブレイヴ、うるさい」と呟いたことで、荷台の中での声はブレイヴの愚痴から隊の会話に変わった。


 私が放った言葉にブレイヴが「うーん」と不満げな顔をした。

「なぁ、ヘレンシア。名前で呼んでくれよ。カーナーって」

 ブレイヴは不満げな顔のまま、私に向かってそう言った。

「確かにそうだな。呼び方決めてなかったよな?」

 ブレイヴの言葉に続くように隊長が呟いて、みんなは頷いていた。私も確かにと思って、軽く頷いていた。

 そうして、みんなが同意したことで私に名前で呼ぶように要求してきた。

「…分かったよ。カーナー、アーラ、サムト、隊長は…隊長…」

 私のその言葉に隊長以外は戦勝時の時のように歓喜して、隊長は少し寂しそうな表情で固まってしまった。

「よし、これで呼び方は決まりだな!」

 歓喜する3人の中でカーナーが揺れる軍用車の中で立ち上がって言って、みんなは大きく頷いていた。

「私の呼び方は?」

「ヘレンシアはヘレンシアのままでも…」

 私の疑問に隊長がそう言ったが、私は「シアって呼んで」と言って、みんなに頷かせた。

「よし、今度こそ決まりでいいな」

 私の呼び方も決まったことでカーナーが今度は座ってから言って、私もみんなも頷いて、揺れが苦痛だった移動が気にならないほど、短い時間に感じられた。


 ネレ国の前線からテンレイ国のまでの3日間の移動が終わった。到着した場所は私の知らない場所で西の軍事基地らしい。

「『始まりの鬼』の皆様、ご到着いたしました。ここに迎えが来る予定なので、このままこちらでお待ちください。それでは、私は失礼いたします」

 目的地に到着すると伝令兵のラウンさんがそう言って、私たちは軍用車から降りると、ラウンさんが乗った軍用車はこの場を去って行った。

 それからしばらくして、1人の男がこちらに駆け足で向かって来た。

「遅くなってすみません。テンレイ西軍事基地所属のレグ・ローム二等兵であります。『始まりの鬼』の皆様と軍の繋ぎ役をやらせていただきます」

 その男はそう名乗ると、私たちをすぐに基地の方へ案内を始めた。その間は隊長が何か会話をしていた。

 それから、私たちはローム二等兵に基地の横にあった石造りの小屋に案内された。基地ではなく、この場に似合わない小屋に案内されたのだ。

 案内されてすぐに隊長はなぜ小屋に案内されたのかをローム二等兵に冷静に聞いたが、ローム二等兵は困惑の表情を浮かべながら、上に確認してくると言ってこの場を去って行った。

 それで、私たちはとりあえず小屋の外で待つことになった。


 夏の日差しが差す外で小屋の屋根の影で私たちはしばらくの間、突っ立って待っていた。日差しが暑かったからか、待ち時間は長く感じた。

 それから、私がその場に座ろうと思った時に離れた場所から小走りでこちらに向かってくるローム二等兵が見えた。

「申し訳ございません。皆様にはこちらの小屋で過ごすようにとしか…答えを貰えませんでした」

 ローム二等兵が私たちの目の前に来るとすぐに頭を下げて、謝罪の言葉を言った。その言葉に隊長は間の人間は大変だからみたいな言葉を言って、小屋で過ごすことを了承していた。

「すまん、勝手に決めて」

 ローム二等兵が一旦基地に戻ることになり、私たちは小屋に入ると隊長が頭を下げたが、私たちは「隊長が決めたことだから気にしない」と言って、小屋でゆっくりすることにした。

「よし、シア。何があるか漁ろうぜ!」

 私はゆっくり過ごすつもりでいたけど、カーナーがそう言って、端に置いてある荷物の方に行った。私は暇が紛れると思って、カーナーと一緒になって、荷物を漁りに行った。


 私とカーナーは小屋の端で荷物を漁って、食料が入っていることが分かった。食料は5人で1週間分ぐらいの量が置いてあった。

 それ以外は服が何着かと大きめの桶と板があった。

「これ洗濯板じゃねぇか。まさか、これで洗濯しろってことか…」

 カーナーが置いてあった板を手に取ってそう言うと、隊のみんなは「えっ」といったような表情をしていた。

 そうして、私たちが荷物をある程度漁り終わった頃にローム二等兵が小屋に戻って来た。

「失礼します。上からの伝令を伝えに来ました」

 ローム二等兵はそう言って、小屋の扉を開けたが中には入ってこなくて、隊長が扉まで行った。

 アーラとサムトは隊長の近くで立って、会話を聞いていたが、私とカーナーは荷物の中の食料を漁りながら聞いていた。

 ローム二等兵と隊長の会話を集中して聞かなかったからか、内容が中途半端にしか頭に入ってこなかった。

 聞こえた内容としては食料や石鹸などの物資は毎週の週の始めに届けてくれるそうだ。それと、私たちの隊はゼリン国が動くまではここで待機するようにと言われていた。

 一応、その内容はしっかりとローム二等兵が去った後に隊長が事細かに教えてくれたけど、ほとんどは私が聞こえた内容であっていた。


 それから、1ヶ月近くが経とうとしていた。季節は真夏になって、日が出ている間は外に出るのが嫌になっていた時だった。

「失礼します」

 基本的に物資を持ってくる時にしか来ていなかったローム二等兵が小屋の中に入って来た。

「伝令を伝えに参りました」

「ついにゼリン国が動いたのか!?」

 ローム二等兵の言葉にだらけていたカーナーが起き上がって言った。

「いいえ、ゼリン国はまだ動いていません。ですが、ハグン国に異能兵が誕生して、我が国の南方のカサン国の前線に送られると情報が入ったため、『始まりの鬼』の隊の皆様はカサン国前線に行ってもらうようにと指示が出ました」

 ローム二等兵のその言葉に隊長が「承知しました」と言って、私たちはすぐに戦場に準備をした。

 それから十数分後に小屋から前線に向かうための軍用車まで案内された。


 私たちが軍用車の元に到着すると、輸送兵に挨拶をする間も無く、荷台へと乗り込んだ。そして、軍用車は約2日かけて、カサン国の前線近くに到着した。

「ここを真っ直ぐ行くと前線の司令部です」

 私たちが荷台を降りると運転していた輸送兵が前線を指差しながら言った。その言葉に私たちはお礼をして、日が沈み始める中でその方向へと向かった。

 そうして、しばらく歩き続けて、日が完全に沈んだ頃に前線の塹壕に到着すると、1人の男性が塹壕から顔を少し出しながら、私たちに手を振っていた。私たちはその男性のところに小走りで向かった。

「初めまして、カサン国少尉のレイ・オーロと申します。私は『始まりの鬼』の隊の皆様と前線司令部の伝達役をやらせていただきます」

 私たちがその男性がいる塹壕に降りると、その人が挨拶をして、私たちも自己紹介を含めた挨拶を返した。

「皆様の壕舎に案内させていただきます」

 私たちの挨拶が終わると隊長とオーロ少尉が握手をして、私たち用の壕舎に案内されることになった。


 壕舎に案内されると、オーロ少尉が今日は休むようにと言ってくれて、私たちは荷物を置いたら寝ることになった。

 そして、私たちはオーロ少尉の「おはようございます」の声と思いっきり開かれた壕舎の扉の音で目を覚ました。

「司令部からの伝令を伝えに来ました。今、大丈夫ですか?」

 私たちがまだ目が覚めきっていない中でオーロ少尉は言葉を続けて、隊長は少し遅れながらも「はい」と返事をしていた。

「では、伝令を伝えますね。まずはこの前線にハグン国の異能兵が来るという情報は確定したそうです。それと…ゼリン国がベレン国に進軍を始めたみたいです」

「まさか、シアが移動したから始めたのか…」

 オーロ少尉のその言葉に隊長は眠気が飛んだみたいでそんな言葉を呟いていた。私はなるほどと納得しながら、その言葉を聞いていた。

「多分そうですね。でも、テンレイ国はゼリン国に向けて軍を動かしたと聞いています。だけど、軍事国家のゼリン国なのでそう簡単には落とせなさそうなのが痛いですね」

 私たちがオーロ少尉のその言葉を聞いていた時だった。私が敵の方から違和感を感じたのは…。

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