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第三章-4 アンノウン101・名無し

 エンブレムの本社があるビルに戻ってきた涼花は早速監視カメラを分解して重要なデータが入っているチップを取り出した。

 証拠品を分解してしまったことに関しては誰も咎めはしなかった。なんせ、今いるのは雅紀と涼花だけであり、他の面々は帰ったか、地下にいる。


「さてと、何が映ってるのかなぁ~?」

「小宮交番前の映像だ」

「なぁにつまんないこと言ってるんですかパイセン。アンノウン交じりならここに心霊現象添えたり、それこそ今までの例で見たら謎の死が起きちゃうとか?」

「なら、涼花だけ見てくれ。俺は帰る」

「ちょっとぉ~。私だけこんなに残業ばっかりでカワイソーって思わないんですか?」


 涼花の憤怒に、性格が変わっているのにも気にならない位雅紀は無頓着だった。寧ろさっさと作業を終わらせてくれ、眠いと思う位だ。

 反応が全くない雅紀に早々に愛想を尽かし、チップの映像解析を終わらせた。


「さっすが公務員って訳ですか。いいカメラ使ってますね。こ~んな容量少なそうなチップに24時間も入ってますよ」

「時間的に22時40分、30分から再生すればアンノウンの正体も分かるだろう」

「はぁぁっ。はいはい。やりますよ、やりますよ~~~だ」


 どう頑張ってもこの程度の反応しかおきない。特にこの性格に関しては冷たさがより一層高まる。佳澄ばりとは言わないが、もうちょっと人間味が欲しいと願っていた。


「あっ。あったあった――――特に何の異変も無し。せめてブラックアウト位期待させても良かったと思うんですけど」

「あったのか?」

「ありましたよ。おまけに解像度高いすんっばらしいカメラのおかげでばっちりです。寄りますね」


 涼花が拡大度をあげると、そこには警察官の男が少女を警察署内に誘導する姿が映し出されていた。重要な証拠の一つであるし、既に被害が出ている時点で危険レベルの高いアンノウンであるだろうと予測できた雅紀も、その姿を確認するためにモニターに目を向けた。

 そこに映し出された光景に、雅紀は唖然とした。


「…………夢?」

「へ? ドリーム?」


 雅紀の今までとは別人のような反応と顔つきに、涼花は不自然さを感じ問いかけた。その声に耳を傾けることは無く、代わりに顔をモニターに向けて大きく傾ける。


「そんなまさか……。いや、でも、確かに、あいつだ」

「あいつ。誰ですか? パイセンの知り合い? 恋人? まさか――先輩の目的の人物って」


 涼花の不安が色んな方向から炸裂する。だが、答えはそのどれでも無く、寧ろさらにぶっ飛んでいた。


「妹だ! 俺の妹が、夢があそこにいたんだ!」

「……はい? ちょ、ちょっと待ってください! それって⁉」

「まだあそこにいるかもしれん。急いで戻る」

「ストップ! トォォーップ‼ うべっ‼」


 飛び出していこうとした雅紀を涼花が制止しようとするも、力関係は圧倒的に雅紀の方が上であり、涼花は引きずられる形で椅子から床に叩き落される。


「さっき、確認しましたよね。少女はいないっ――て」


 涼花はそれでも最後の力を振り絞って雅紀に納得のいく説明を施す。

 それが多少なりの効力があったらしく、涼花の絹糸並みの腕力でも雅紀を止めることができた。


「けど――」

「あそこにはもういないでいいですかパイセン! もう二件目何ですから何処かに移動していますよ。それより暫く黙ってこれかぶって頭冷やしてください!」


 落下の拍子に鼻頭をぶつけた涼花は、普段冷静を通り越して冷酷な雅紀の変化を前に、逆に冷静さを保つことができた。頭を冷やす為にエナジードリンクを渡すのは不可解でしかないが。


「今のパイセンは異常です! 幻覚を見ています! 頭に蛆が沸いています! いいですか⁉ これから問診を始めます!」


 雅紀の反論する余地を与える前に、涼花はもう一台あるパソコンを起動してメモ帳を開く。


「まず! パイセンの妹さんはご存命⁉」

「違う! あの時――」


 ご存命 No


「次! パイセンが巻き込まれた事件っていつでしたか? その時妹さんこんなに大きかったんですか⁉」

「ぉ、ぉぅ。あれは、俺が12歳の時だったから、妹は10歳だ」


 年齢の不一致 YES


「じゃあこの人が何で妹だって思ったんですか?」

「何となく……何となく似ていた」

「はい、論破ぁぁー‼」


 最早問診票を作る意味など無い結果に、涼花は机上を両手で叩き立ち上がる。


「他人の空似です! 生きてないのに年だけ重ねていることに違和感は無かったんですか⁉」

「似てるんだ! いや、あれは間違いなく夢だ! 分かるんだ。俺には、あいつだってことが」

「完全な精神汚染です! 私たちが取り扱っている(アンノウン)の典型的なパターンです!」


 アンノウンは危険レベルの高さに関わらず、人に甚大な被害を及ぼす物が多い。怪我はおろか、人体の一部を損傷することですら軽度な部類に入り、死亡したり、社会復帰が難しいほどの精神障害を負うことも珍しくはない。


「もしかしたら今までの人達は自身の身内関係で見えていたんじゃありませんか?」

「そう、か? いや、違うな。涼花にとってこれは誰に見える? 白いワンピースを来た黒のロングヘアーの女性以外の何に見える?」

「えっ? ――なるほど。そう言えばそうですね。私の知り合いに見えなければおかしいですよね――じゃあ、何で先輩の妹似の誰かに?」

「似じゃなくて妹なんだ」

「そう思える理由はあるんですか?」


 アンノウン説に納得しつつあるが、未だに雅紀の妹である説は途絶えない。だが、そうなると何故雅紀の妹に似た姿で現れたのかと言う新しい謎が生まれる。


「怨霊の類のアンノウンかな? どっちみち調べる必要性ありますよね」

「そこはお前の仕事だろ」

「また⁉」

「俺は捕獲に向かう。まだ近くにいるかもしれないからな」

「だ~か~ら~! まだ何も分かってないんですから――パイセ~ン‼」


 涼花の呼び止めに雅紀が応えることは無かった。何故彼がここまで躍起になっているのか、意地になっているのか。涼花は勿論のこと、雅紀自身も理解することが出来ないでいた。

 アンノウン192・ガラス片の怨恨 LV4


 実験記録

 1.友人のクラウンに傷をつけたベリー。

 ベリー(23歳)は友人が親から貰った奨学金をはたいて購入した高級車に傷をつけてしまった。被験者であるベリーにガラス片を投げると、ベリーの頬に掠ったガラス片は大きさ1センチ程度で頬を傷つける程度に終わった。

故意でやった訳では無かったと言う点が考慮されたのか、察して大きな被害は受けなかった。


 2.ベリーにクラウンを傷つけられたトリント。

トリント(23歳)は友人のベリーに高級車を貸したが、ベリーは道中で高級車に傷をつけてしまった。トリントがベリーにガラス片を突き刺そうとすると、ガラス片は8センチにまで広がり、胸に刺さったベリーは肋骨が折れて全治3ケ月の入院を余儀なくされた。


 トリントは自身のクラウンに保険をかけていたが、その保険は親の物を勝手に使っていた。ベリーが対物事故を起こした為に、親から大学に行っていないことがばれたトリントは実家の農業を継ぐことが決定してしまった。

 都会で事業を成功し、タイムズスクエアを散歩道にする日常を求めていた彼にとってそれは絶望であり、同時にその元凶を作り出したベリーは、友人から恨むべき存在へと格が下がってしまった結果、悲惨な事故が起きてしまった。

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