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 誤字報告ありがとございます。

 お茶会当日。


 本当はお茶会の前にルビーに会って探りを入れておきたかったけれど、彼女は短時間だけど王太子であるジャスパーと踊ったため、予想以上に有名人になっていた。

 婚約者である私より先に踊ったのだ。ジャスパーは途中で切り上げて私と踊ったので批判はそれほどないけれど、それでも軽率だという声は少々上がっている様だ。


 容姿端麗で頭脳明晰、失敗はしたことがない完璧な行いばかりする王国の至宝の王太子。

 その完璧な王太子を崩した平民上がりの令嬢、ルビー・クルジット。

 誰もが興味を持ち、パーティーやお茶会に招待した。


 私も自分の屋敷に招けばルビーは応じただろう。公爵令嬢から誘われて断るのは不敬だ。

 でもルビーだけ招けばいらぬ噂を招く。

 だからといって、ルビー以外も招いたお茶会など、どう考えても見世物だ。何をする気だと凝視される中ルビーを探るなど簡単にできそうもない。


 実際にルビーを快く思わない友人たちもいて、彼女らがルビーをイジメないように諫める時もあった。

 前世のゲームでエメラルドの周りにいた数人のご令嬢ね。

 親友とまでいかないけれど、それなりに仲のいい彼女たちは、私がないがしろにされることを怒っている様だった。ちょっと注意したい、という話が出る度に、それは私がするから、と落ち着かせた。

 私はジャスパーと結婚できなくてもいいけど、悪役になる気はない。


 どうにかうまいことルビーの考えを探れないかしら?

 父に伯爵家のことをそれとなく訊いてみたけれど、ルビーに関しては「貴族の勉強を頑張っている」ということしか答えてくれなかった。

 ジャスパーとは会っていないから安心しろ、とも言われたけど、別にそんなことは訊いていない。


 母に母の年齢層の方々はどう考えているのか訊いてみたけれどはぐらかされてしまった。

 ……あまりよく思われていないのかな?


 マリアに探れないかと言ってみたけれど、マリアは彼女が私より先にジャスパーと踊ったことにとてもご立腹で「各所で風当たりがよろしくないようです。当たり前ですけど」とツンとしていた。

 ルビー自身はそれほど目立ったことはしていないらしい。

 ジャスパーが彼女を気に入っている様だ、と言っても心配する必要はない、と返される。

 マリアの立場だとそうなるわよね。


 そう考えあぐねいている間に、お茶会の日になってしまったのだ。

 自分の発想の無さと優柔不断さが憎い…!


 お茶会は伯爵家の中庭で行われた。

 中央に噴水があり、足元はタイルを張られ、周りはバラが咲き乱れている。トピアリーもあり小さな川も流れていて招かれた人々を楽しませた。


 私はそこに案内されてすぐ、ルビーに挨拶をしに行った。


「本日はお招きありがとう。楽しませていただくわ」

「ととととんでもないこことでごじゃいます! こちゅらこそ、よよろしくお願いいたします!」

 この子、よく噛むわね。舌の体操教えてあげた方がいいかしら。

「先日のお礼もまだしておりませんし、私の開くお茶会にもぜひいらしてくださいね」

「は、ははいぃ!」

 よし! これでお茶会に呼んでもお礼ということになるわね。

 まあ、今日無事に終わればだけれども。


 ルビーに礼をして少し離れた所にいる友人たちにも挨拶をしに行く。

 ルビーに友好的に挨拶をしたので、友人たちも敵対しているわけではないと理解したようだ。察しのいい方々で良かった。悪役回避ね。

 

 先に来て庭を散歩していた令嬢方も戻ってきたので、いよいよお茶会が始まった。

 案内された席はルビーと近かった。

 席に着いてからもルビーはかなり緊張している様だった。それでもマナーは完璧。

 会話も少々言葉遣いが怪しいところがあったものの、礼儀正しく不快感を与えない感じのいいものだった。


 出されたお茶は伯爵家の領地で作られているハーブティだった。香りがとても良い。

 お菓子は……大陸から来た職人ということで楽しみにしていたが、それほど真新しいものではなかった。

 といっても、あくまで「私にとっては」だった。和菓子と洋菓子を混合したような菓子だったのだ。

 他の令嬢は初めて見る菓子にとても喜んでいたが、私は前世で和菓子を知っていて豆や餅を使った菓子はそれほど物珍しくない。

 前世の記憶がなければ楽しめたかもしれない。


「エメラルド様、お気にめ、召しませんでしたか?」

 ルビーが不安げに話しかけてきた。

「いいえ、見たことがないお菓子でとても楽しませていただいていますわ。この国の菓子職人ではないとお聞きしてましたから、楽しみにしていましたの。とても美味しいですし」

 味自体は本当に美味しい。この職人にあんみつ作ってもらいたい。

「良かったです! あ、ありがとうございます!」

 あら、可愛い。目がキラキラしているわ。


「確か、大陸から来た方が作られているとお聞きしましたわ」

「は、はい。海を渡った大陸の出身者です。父が街でお金を落とした時に、かっぱら…自分のものにせずにすぐ返したのを父がとても感心しまして、伯爵家で働かないかと話を出したそうです。二年ほど前の事だそうです」

 今ちょっとドキッとしたわよルビー。


「我が国は大陸とはあまり交流がないですわよね。その方はどのようなご事情でこの国にいらっしゃったのかしら」

「海で船が事故に遭ってしまい途方に暮れていたところをこの国の海上騎士団が助けたそうです。その後……あまり良い環境にはいなかったんだそうですけど、矜持を捨てず生きてきたと言っておりました」

「まあ、素晴らしいことですわ。大陸では身分の高い方だったのかしら」

「詳しくは話してもらえないんですけど、貴族に仕える菓子職人だったそうです。残念ながら船に同乗していた貴族様は亡くなられたと。大陸に帰りたくないかと訊きましたけど、帰る場所はないと言ってました」


 貴族のお屋敷に住み込みで働いていたのかしら。待ってる家族はいないという事かしら?


 その後いくつか質問をして分かったことは3点。

 ひとつめ、言葉は聞き取りは出来るが喋るのはあまり得意ではないという事。

 ふたつめ、年齢は30歳前後。名前はダン。

 みっつめ、大陸の話をしたことはないとこのこと。


 ルビー自身があまり大陸に興味がないようで、訊いても分からないことが多かった。

 直接菓子職人に話を訊きたいけれども、伯爵もあまり菓子職人を表に出す気はないらしいことは伝わってきた。

 難しいわね。

 大陸の情報収集は断念して、ルビーのことを観察することにした。



 


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