59、言ったこと、言えなかったこと。
何とか仕事前に書き上がった……(息切れ
「ねぇ、言わなくて良かったの?」
あの後、帰り道に真紀はフミに問いかけた。ミロクから手帳にサインをもらった時の狂喜乱舞していた真紀とは打って変わって、穏やかな雰囲気を身にまとっている。
そんな真紀の問いかけにフミは首を傾げていると、彼女は短い黒髪をさらりと揺らし、がくっと下を向いて大きくため息を吐く。
「フミはミロク王子に『憧れてます』としか言ってなかったでしょ?ちゃんと『好きです』って言ってなかったから、それで良かったのかってこと」
「す、すすすすす好きだなんて!そんな!い、い、言えない!ですし!」
「っく!ちょ、何その『ですし』って!」
思わず吹き出す真紀に、笑うなんて酷いとフミはぷりぷり怒る。
(これは愛しのミロクきゅんに、頑張ってもらわないとかな?)
ぷりぷりしながら早歩きで歩くフミに即行で追いついた真紀は、ミロクにアドバイスを送るにはどうしてくれようかと考えるのであった。
「おつかれ様だったね。お兄ちゃん」
「ニナ、今日はありがとう。助かったよ」
ホッとしたように笑うミロクを見て、ニナは慌ててミロクにメガネと帽子を装着させる。すれ違う女性たちが騒つき始めているのは危険信号だ。
(お兄ちゃんは自覚が足りない!)
無自覚にフェロモンを振り撒く兄に、妹としてのフォローは欠かさないニナであった。
「それにしても、誤解が解けて良かった。それにフミちゃんから憧れの人って言われたし」
「お兄ちゃん、それで良いの?」
「何が?」
「好きですとか、付き合ってくださいとかじゃなかったから……憧れって微妙じゃないの?」
ニナはあの場面で確実にフミが告白すると思っていた。
自分だったら……ここまで来たら言ってしまうと思う。たぶん。
「憧れは好意でしょ?フミちゃんから嫌われてないだけで嬉しいものだよ」
それに……と言いながら、ミロクは不満気な顔をするニナの頭にぽんと手を置いた。
「男の俺から言いたい……から」
ニナはいつも柔かな物腰の兄に、男としての熱のようなものを感じて驚く。そういえば大崎家の子供達は基本的に「頑固」だ。言い換えると意志が強いというか、己を曲げないというか……。
「そっか」
「うん、そういうこと」
「ならば良し!」
上から目線で思いっきり偉そうに頷くニナに、ミロクは笑顔でありがとうと言った。
それから一週間経ち、ぎこちない態度をとっていたフミも通常の状態を取り戻していた。
忙しくなってきた事務所には、新しいスタッフも増えて賑やかだ。そんなスタッフの中にはミロクのネット仲間が数人いた。
ヨイチがミロクから仲間の中に職の無い人もいると聞き、「自宅勤務でも良い!その能力を埋もれたままにしておくのは惜しい!」と、彼らを説得したのだ。意外と熱血漢なヨイチに絆され、関東圏内ならばと最初はバイト感覚で来てくれることになった。
今ではHPの作成や、公式ブログ、SNS、プロモーションの作成、社内のネット環境、システム等々手掛けており、事務所にとってなくてはならない人達になった。
何よりも宣伝活動などはをフミがやっていたから、マネージャー活動にのみ力を入れられるようになったと喜んだ。
ミロクもフミが喜んでいて嬉しいし、ネット仲間と会えるのも嬉しかった。
彼等も「自分達がミロクと344(ミヨシ)の力になれるなら、本当に嬉しい」と言い、ミロクを嬉し泣きさせていた。
事務仕事を手伝うことが多かったシジュも、人が増えてタレント活動に専念出来るようになった。
その体を生かすモデル仕事が多く、多数の男性向けファッション雑誌から引く手数多だ。
そんなシジュの悩みは、ボイストレーニングに行き詰まっていることである。オッサンであるために色々凝り固まっているらしく、どうしてもトレーナーと合わないのだ。
(ちなみにミロクはどんなトレーナーでも貪欲に技術を吸収する為、その年齢では逆におかしいと言われていた。)
「ミロク、ボイトレ付き合ってくれねぇ?」
「あー、すみません。仕事入っちゃってます……」
「だよなぁ〜」
ミロクは意外と教え上手で、シジュにとって唯一のボイストレーナーでもある。しかし最近の忙しさで一緒にトレーニング出来なくなってきたのだ。歌に自信のないシジュにとっては死活問題である。
「ヨイチのおっさん!ミロクの姉を貸して!」
「却下。それに彼女は仕事だよ。平日なんだし」
何故か今日はキラキラしていないヨイチが、不機嫌な顔を隠しもせずにバッサリと言う。
シジュはガクリと膝をついた。
そんなシジュの様子を見て、しょうがないなぁとスマホでメッセージを送る。
「敵に塩を送るのは今回だけですよ」
気が進まないという表情で言うミロクに、シジュは首を傾げるのだった。
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