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魔王軍の落とし物係 〜勇者が忘れていった伝説の剣(折れ)〜  作者: 白兎 ななせ
第2部:広がる忘れ物の輪と魔界の休日
14/14

第14話:魔王様の家庭菜園、大爆発

それは、唐突に始まった。

「……余は、野菜を育ててみたい」

 魔王の一言だった。

「はい?」

 サトシは思わず聞き返した。

 場所は魔王城の中庭。

 今日も今日とて、アヒ丸が爆走し、ルルが何かを爆発させ、ベルが帳簿をつけている。

 その日常の中で、最も非日常な発言だった。

「野菜、ですか?」

「うむ」

 魔王は頷く。

「自ら育てた作物を食す……それは支配者としての理想の一つだと、書物にあった」

「意識高い系の魔王だ……」

「それに」

 一拍。

「オムライスの具材を、自給したい」

「そこ本音ですよね!?」

「というわけで、だ」

 魔王は腕を組む。

「勇者サトシ。貴様、手伝え」

「なんで僕なんですか!?」

「貴様、皿洗いで“水”の扱いに長けておるだろう」

「評価ポイントそこ!?」

 こうして。

 魔王城中庭の一角に、即席の畑が作られた。

 黒い土。

 整えられた畝。

 妙に本格的である。

「主任、止めなくていいんですかこれ」

「いいんじゃないかな」

 ベルは興味なさそうに言う。

「どうせ、普通には終わらない」

「不穏な予言やめてください」

「では、種を植えるぞ」

 魔王が取り出したのは、小さな袋。

 中には、黒く光る種。

 どこか、嫌な予感がする。

「……魔王様、それどこで?」

「倉庫にあった」

「やめてぇぇぇ!!」

「“魔界産・高栄養価植物の種”と書いてあったぞ」

「絶対ヤバいやつ!!」

「よし、植える」

「話聞いて!?」

 ザク、ザク。

 種が土に埋められる。

 水がまかれる。

 太陽(っぽい魔光)が照らす。

 完璧な農業工程。

 ただし。

 全部、魔界仕様。

「……何も起きませんね」

 サトシが言った、その瞬間。

 ――ゴゴゴゴゴ……!

 地面が、震えた。

「え」

 ドンッ!!

 土が弾ける。

 次の瞬間。

 ニョキッ!!

 ありえない速度で、何かが生えた。

「でっっか!!」

 サトシ絶叫。

 目の前に現れたのは――

 高さ三メートルの、巨大なトマト。

 しかも。

 脈打っている。

「これ野菜!?」

 さらに。

 ズドドドド!!

 地面から次々と出現する植物。

 牙の生えたニンジン。

 触手のように動くネギ。

 明らかに意思を持っているキャベツ。

「怖い怖い怖い!!」

「……ほう」

 魔王が興味深そうに見つめる。

「実に生命力に満ちている」

「満ちすぎてます!!」

 その時。

 巨大トマトが、ぐにゃりと動いた。

 そして――

 ボンッ!!

 爆発。

「うわぁぁぁ!?」

 赤い汁が飛び散る。

 甘い匂い。

 そして、衝撃。

 サトシ、吹き飛ぶ。

「トマトが爆発した!?」

「熟すと破裂するタイプだな」

「農業の範囲超えてる!!」

 さらに連鎖。

 ドン! ドン! ドン!!

 次々と爆発する野菜たち。

 中庭は一瞬で戦場と化した。

「なんで全部爆発するんですか!?」

「“高エネルギー作物”と書いてあった」

「ちゃんと読んでたなら止めて!?」

「クワァァァ!!」

 アヒ丸、爆風の中を疾走。

 トマトを踏み台にジャンプ。

 キャベツを蹴り飛ばす。

 完全に戦闘モード。

「伏せろサトシ君!」

 ルルが叫ぶ。

 次の瞬間。

 ドォン!!

 さらに大爆発。

 煙。

 焦げた匂い。

 静寂。

 やがて。

 煙が晴れる。

 そこにあったのは――

 見事に吹き飛んだ、畑。

 黒焦げ。

 原型なし。

「……」

「……」

 サトシと魔王が、並んで立っていた。

 真っ黒になりながら。

「……失敗、だな」

 魔王がぽつりと呟く。

「大失敗です」

「オムライスは、遠い」

「かなり遠いですね」

 一拍。

 そして。

 サトシは、小さく笑った。

「……でも」

「なんだ」

「ちょっと楽しかったです」

「……ふっ」

 魔王も、わずかに笑う。

「余もだ」

 その後。

 ルルが奇跡的に無事だった野菜の残骸を回収し。

 ベルが被害額を計算し。

 そしてその夜。

 食堂にて。

「できましたよー」

 出されたのは――

 真っ赤な、オムライス。

「これ……」

「さっきのトマトの残骸から抽出したエキスです!」

「使った!?」

「意外と美味しいよ!」

 恐る恐る、一口。

「……あ」

 サトシの目が見開く。

「うまい」

「だろう」

 魔王が満足げに頷く。

「余の畑の成果だ」

「爆発したけど!!」

 その夜。

 ベルの手帳に、静かに記録が加えられる。

『勇者サトシ

・農業適性:皆無

・爆発耐性:上昇

・満足度:高』

 一行、追記。

『魔王様

・趣味:家庭菜園(要監視)』

 そして。

『魔王軍への帰化率――六五パーセント』

 ページが、静かに閉じられた。


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