第1話:伝説の剣(折れ)が届きました
「……これは、不燃ごみ。いや、資源ごみか?」
魔王城、地下三層。
一般的なイメージで言うと「拷問部屋」とか「禁断の儀式場」とかがありそうなフロアだが——
実態は違う。
ラベル。仕分け。分類番号。棚番号。
めちゃくちゃ整理されている。
むしろ市役所よりちゃんとしている。
そんな空間の中心で、ベルは今日も書類と向き合っていた。
種族:魔族。
役職:遺失物管理センター主任。
特技:仕分け。
そして今、彼の目の前には——
一振りの剣。
かつて世界を震撼させた伝説の武器、
『聖剣エクスガリバー』
……の、成れの果て。
刀身のど真ん中から、見事にポッキリいっていた。
「主任、また勇者の忘れ物っすかー?」
背後から現れたのは、発明担当のルル。
白衣は焦げ、髪は爆発しており、なぜかスプーンを三本持っている。
通常運転だ。
「そうだよ。昨日攻めてきた勇者サトシ君のだ」
ベルは事務的に答える。
「魔王様と対峙して——」
書類を一枚めくる。
「三秒で剣を折られ」
さらにめくる。
「心も折れて」
さらにめくる。
「泣きながら帰宅」
「帰宅!?」
「うん。帰宅」
「いや魔王城って“帰宅”でいいの!?」
「彼にとっては遠征先だったらしい」
ルルは剣をつまみ上げた。
持ち上げた瞬間、じわりと神聖な光が滲む。
折れているのに、無駄に威厳がある。
「うわ、これ普通に呪い付きゴミだよ?」
「正確には“祝福付き危険物”だね」
「余計タチ悪いわ」
ベルは眼鏡をクイ、と押し上げた。
その仕草には、仕事人の誇りがにじむ。
「ここは遺失物管理センターだ。どんな物でも——」
一拍。
「ちゃんと管理する」
「いやそれは分かるけど、これは保管したら光るじゃん」
「光るね」
「夜中に怖いじゃん」
「怖いね」
「なんでそんな冷静なの」
ベルは剣を持ち上げ、軽くバランスを確かめる。
ずっしりとした重量。
そして、折れてなお溢れ出る聖なる気配。
周囲の空気が妙に澄む。
ついでにルルの焦げた白衣がちょっとだけ浄化された。
「……あ、汚れ落ちた」
「便利だね」
ベルは、ふと考え込む。
三秒。
五秒。
七秒。
「ルル。今夜の夕食は?」
「え? 昨日の残りカレーと、浅漬けだけど……」
ベルの思考が“カチッ”と音を立てて繋がった。
「なるほど」
「なにが!?」
数分後。
キッチン。
そこには、塩揉みされた大根の入った樽。
そして——
折れた聖剣。
「待って待って待って」
ルルが全力で止めに入る。
「今、嫌な予感しかしないんだけど」
「予感は大体当たるよ」
「やめて!?」
ベルは無表情で説明を始めた。
「聖剣は、強力な浄化作用を持つ」
「うん」
「つまり、雑菌が死ぬ」
「うん」
「つまり——」
「最高の浅漬けができる」
「ならないよ!!」
ガコッ。
鈍い音を立てて、聖剣が大根の上に置かれた。
——その瞬間。
ピカァァァァァァァ!!!
樽が、発光した。
いや、発光というレベルではない。
神々しすぎて直視できない。
「目がァァァァ!!」
「健康にいい光だよ」
「いや強すぎるわ!!」
さらに異変は続く。
ぐつぐつぐつ……と、なぜか発酵音が加速する。
数時間かかる工程が、数秒で終わっていく。
「え、なにこれ時間も浄化してない?」
「効率的だね」
「概念壊れてるよ!?」
数分後。
完成した。
見た目は普通の浅漬け。
ただし——
オーラがある。
「……これ、食べるの?」
「試食は大事だ」
ベルは一切れ口に運ぶ。
ポリッ。
——静寂。
「……どう?」
ベルはゆっくりと目を開けた。
「……これは」
一拍。
「神を超えた」
「いやあんた神側でしょ!?」
その瞬間。
遠くの方で雷が鳴った。
天界がツッコミを入れた可能性がある。
「……主任、それ絶対あとで問題になるやつだよ」
「管理番号を振っておこう」
「そういう問題じゃない」
ベルは手際よくラベルを書く。
【管理番号:A-0001】
【名称:聖なる浅漬け】
【危険度:意味不明】
【備考:美味】
「備考が軽い!!」
——そして、その数時間後。
魔王城・総合受付。
リン、と電話が鳴る。
「はい、魔王城でございます」
受話器の向こうから、震える声。
「あ、あの……昨日そちらにお邪魔した勇者ですが……」
「はい」
「光る棒の忘れ物、ありませんでしたか……?」
受付嬢は、ちらりと厨房の方を見る。
まだ光っている。
めちゃくちゃ光っている。
「……ええ、ございますよ」
一拍。
「現在、浅漬けになっておりますが」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
こうして。
遺失物管理主任ベルと、勇者サトシ。
そして聖剣(食材)の——
長くてくだらなくて、なぜか世界を巻き込む日常が始まった。




