リーナ2-1
国主催で行われる勇者任命式。
多くの王侯貴族が並ぶ中で、私達ロイヤルガードも立席する。
私のことを知らない人はまだおり、ロイヤルガードの列に並ぶ私を見て困惑している様子だった。
中央にはすでに、セガール殿下率いる勇者パーティの姿があり、ココが私を見付けて手を振っていた。
「これより、セガール・ジ・アメトラス殿下勇者任命の儀を執り行う!」
執政官の掛け声と共に、一同頭を下げる。
そして、国王様の名が呼ばれて登壇する。
勇者任命式は粛々と進み、特に何か起こるでもなく終わった。
そうなってくれたら良かったのだけれど、残念ながらそうはならなかった。
「リーナ・ストロング!」
その声はこの広間の中央に立つ、主役から発せられた物。
「ここに」
セガール殿下に呼ばれては、無視するわけにも行かず、私は一歩前に出る。
すると、セガール殿下は私の前まで来ると、片膝を突き手を取る。
「リーナ、私は必ず魔王を打ち滅ぼすと誓おう」
果てしないほどの嫌な予感がする。
力尽くでも止めたいのだけれど、周囲から注目されていてそれも出来ない。
どうにかして欲しいと、国王様の隣に座る王妃マリーベル様を見るのだけれど、苦笑して見守るつもりのようだ。
私の気持ちを無視して、セガール殿下は告げる。
「その暁には、どうか私と婚姻を結んではくれないだろうか?」
会場からどよめきが巻き起こる。
それはそうだろう。
セガール殿下は第二王子ではあるが、実質の王位継承権は一位にある。
この告白を受ければ、私は次の王妃になってしまう。
そんなの、真っ平ごめんです。
私は笑みを浮かべて、やんわりと拒絶する。
「セガール殿下、あなた様のような偉大なお方が、私のような者と一緒になるのは不幸でしかありません。どうか御身のため、相応しいお方をお選び下さい」
誰もが断ると思っていなかったのだろう、会場がさらに響めく。
「そんなことはない! 私は君がいいんだ!」
「私がセガール殿下の隣にいては、納得しない者も出て来るでしょう。そうなれば、苦労するのは殿下になります。私は、それが耐えられないのです」
これで、いい加減気付いてくれと思うのだけれど、上手くは行かない。
「君と共にいられるのなら、私は苦ではない。たとえ地獄の釜に落とされようとも、必ずや耐えきり君を幸福にすると誓おう」
普段は聡明な殿下なのに、ここまで気付かないものなのだろうか。
それともこれが、セリアさんが言っていたような原作による強制力なのだろうか。
既に破綻しているというのに、何とも厄介な……。
私が困っていると、何故かココがトコトコとやって来た。
拳を握ると、間髪入れずに振り抜き、殿下の腹を貫いた。
「ぐふっ⁉︎」
「リーナが困ってる!」
今まさに困ったことが起こってしまった。
身体強化が使えないココだけど、私の加護でその身体能力は飛躍的に向上している。その上、召喚獣の一部の能力も加算されていて、そこらの騎士では太刀打ち出来ないほど強くなっていた。それこそ、四天王レベルだろう。
つまり、セガール殿下はワンパンで沈められてしまった。
「きゃー⁉︎ 殿下ーっ!?」
「何やってる貴様ーっ‼︎」
「勇者が仲間にやられただと⁉︎」
「何をやっている⁉︎ あの者をひっ捕らえよ‼︎」
これはまずいことになってしまった。
マリーベル様に目配せすると、目頭を抑えて手をひらひらとしている。
どうやら、私の好きにしていいようだ。
誰にも悟られないように魔術を発動する。
これは傀儡の魔術。
対象はセガール殿下。
誠に申し訳ないのですが、ここは我慢してもらうしかないのです。
周囲の喧騒を意にも返さず、ゆっくりと立ち上がるセガール殿下。
その姿を異様と捉えたのか、騒いでいた貴族達は口を閉じてしまう。
静寂が場を支配する。
だが、一人だけもっと意に返さない者がいた。
「やるなお前⁉︎ ココが相手してやる‼︎」
そうココである。
この子、後で教育しないと……。
私の思いとは裏腹に、ココは再びセガール殿下に殴り掛かる。
しかし、結果は先程と違っていた。
「にゃ⁉︎」
ココの拳はセガール殿下に受け止められ、合気で一回転させると殿下の腕の中に収まった。
「皆、落ち着いて欲しい。今の行動は、私が命じたことだ。王族に対する叛逆ではない」
セガール殿下の言葉を聞いて、半数が安堵する。
しかし、王族派を中心とした半数は納得がいかないと声を荒げた。
「殿下! 何故命じたのです⁉︎ 王族に対する不敬な行為は、どのような理由であろうと許される物ではないはずです‼︎ それをこの大勢の前でとはっ‼︎」
ごもっともな意見だ。
出来るかどうかはさておき、ココはこのまま処刑されてもおかしくはない。人の国で、象徴たる王族が害されるというのは、あってはならないことだから。
でも、そうさせないのが私の役目。
セガール殿下を操り、言葉を紡ぐ。
「その理由が十分な物ならば問題なかろう?」
「十分な理由、でございますか? それはどのような……」
セガール殿下にココを下ろさせると、私が前に出る。
少し、ほんの少しだけ私自身に掛けている隠蔽の魔術を緩める。
その瞬間、この場にいる者達は私から目が離せなくなった。
「皆様、我が弟子の不始末、誠に申し訳ございません」
「で、弟子?」
「はい、ここにいる獣人の娘ココは、私の弟子にございます。弟子の不始末は、師である私の責任。罪を問うならば、どうか私めにしていただきたく……」
そう告げると、ゆっくりと頭を下げる。
これで、私を殺すのは簡単でしょう? そう首を差し出すのだけれど、誰も動こうとしなかった。
「……」
「赦していただき感謝いたします」
そう言って周囲を見渡すが、誰も何も発しない。
私の力に魅入られて、抵抗することが出来ないのだ。
片鱗でもこの効果。魔術を完全に解いてしまったら、ここにいる人達はどうなるのだろう……。
そう考えて身震いした。
それは、自分自身の力に対する恐怖ではなく、これ以上の力を持つ兄様が魔術を使わずに隠しているという事実に。
一体どのような力があれば、それが可能なのだろうか?
長年共にいる私でも、兄様の力の底は見たことが無い。
ふうっと息を吐き出して意識を切り替える。
今は、ここを乗り切ろう。
「先ほど、セガール殿下が仰っていたのは、ココの力についてです。この中には、獣人が名誉ある勇者パーティに参加していることを、快く思わない方もいらっしゃるでしょう」
貴族の中には、亜人種を差別している人達もいる。
得意分野が違うだけで、人という種族に違いはないというのに、優劣を決める人間がいる。
その認識は間違いというのを、ここで教えて上げましょう。
「ですが、勇者パーティにはココの力が必要不可欠なんです。ココ、トトを呼びなさい」
「はい! トトおいで!」
ココが手掲げると、青い炎が広がり一羽と呼ぶには巨大な鳥が現れた。
フェニックス顕現。
王侯貴族は唖然としており、ただ目の前の伝説の生き物を見ていることしか出来なかった。
「このように、ココの力は魔王軍四天王に匹敵するほど強いからです。この子が勇者パーティにいれば、必ずやセガール殿下の力となり、魔王を追い詰めてくれるでしょう」
だから、文句を言うのはやめて下さいね。
そう微笑みを浮かべて警告する。
魔王軍四天王の力は、先のメノウ大会で目にした者は多い。
ロイヤルガード最強と呼ばれる獅子王様の力を持ってしても、太刀打ち出来なかった化け物。そう認識した人達から見れば、ココの召喚獣は希望のように見えたのだろう。
王様の御前だというのに、跪いて願っているのだから。
ほとんど、力業で勇者任命式を乗り切った。
セガール殿下が目を覚ますまで、傀儡の魔術で操り続けたのだけれど、マリーベル様以外気付かれなかった。
私が何かをすると知らなければ、マリーベル様でも気付けなかっただろう。
誤算があるとすれば、夜会で勇者パーティと変わらない人集りが私に出来たくらいだろうか。
「息子がいるんだが、興味ないかね?」
「これから、国の今後について話し合わないかい?」
「ロットバロン侯爵が会いたがっている。着いて来い」
などなど、不審な者は後で対処するとして、どうにか夜会を終えた。
そして翌日。
「……」
【リーナ・ストロング。セガール・ジ・アメトラスとの婚約を認める】
お父様を通さずに、このような内容の書簡が送られて来た。




