⑤本来の計画
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宰相の執務室の扉を叩く音が聞こえる。
クライルは入室を許可すると、金竜騎士団の鎧をまとった二人の騎士が慣れない金属音を立てながら、執務中だった彼の机の前まで近付いてきた。
「宰相閣下。不届き者達を見送って参りました!」
「白々過ぎる………」
背の高い方の騎士が、騎士の真似事をする子どものように大袈裟に敬礼し、もう一方の女性騎士が兜越しに手を当てて溜め息をつく。
「どうしてその動きで怪しまれないのか甚だ疑問ですが………取り敢えず御苦労様でした」
書き終えた書類に署名を終えたクライルは、羊皮紙を机の中にしまい、二人を労った。
「てっきり、彼らについていくものだと思っていましたが?」
彼の疑問に、背の高い騎士は手を左右に降りながら暑苦しい兜を脱ぎ、後ろのソファーの上に放り投げる。
「冗談。誰かの手のひらに乗るのは御免被りたいんでね」
前髪についた汗を振り払い、ギュードは新鮮な空気を大きく吸い込んだ。
「そうですか」
クライルは特に興味もなく頷き、隣の女性騎士に視線を移す。
「クロム。あなたも本当の主人の元へ戻って構いませんよ? 私の目的は既に終えていますから」
イーチャウと手を組んだ以上、ここにいる必要はない。彼は兜を脱いだ黒髪の女性にも声をかけた。
だが、クロムは汗ばんだ顔をゆっくりと左右に振るう。
「………偽物からの命令とはいえ、勝手に動いた私をイーチャウ様は許してくださらないでしょう。ならば、ここでお茶を淹れる仕事に就くのも悪くないと思い、戻ってきました」
姉の仇であるギュードの横に立つ事は、彼女にとって甚だ不本意であったが、今の自分には敵討ちどころか、相討ちにもならない差がある事を認めるしかなかった。
「分かりました、これからもよろしくお願いします」
クライルが早速紅茶を入れるよう、彼女に依頼する。
「俺の時と、随分と反応違うんじゃぁないか?」
部屋の奥に入っていった彼女の後ろ姿を恨めしそうに見ながら、ギュードが口を曲げる。
「おや、あなたも私に紅茶を淹れたかったのですか?」
「違ぇよ」
即座に否定する。
ギュードは動きづらい騎士の鎧のまま、兜を投げたソファーに音を立てて座り込む。そして、悪趣味な金色の脛当てを一足ずつ外しては放り投げ、少しずつ身軽にしていく。
「それにしても、随分と計画通りに事が進んでるんじゃないのか?」
イーチャウに自覚させないまま手駒として中に納め、デルや王女達といった良識派の最も濃い部分を外へ逃がす事にも成功した。思い通りに事が運び、さぞ気分が良いだろうとギュードは皮肉を込めた。
「そうでもありません」
意外にもクライルの顔は険しく、曇っていた。
「本来ならば、私が王女殿下と婚約してから動く予定でした」
婚約者の宰相がイーチャウ率いる貴族派と共に、王国を私物化する。そして、それを憂いる騎士総長率いる良識派達が弾劾する計画だったと、クライルが話す。
「ですが、魔王軍の動きが重なった事で全てが狂いました。シーダイン騎士総長は亡くなり、魔王軍の戦いが激しさを増していく事で、私の計画は変更せざるを得ませんでした」
「そして、その騎士総長の代わりがあいつになったと?」
互いに目を合わせる事なく会話が勝手に投げられていく。そこにメイド姿に着替えたクロムが紅茶を入れて戻り、クライルの前に湯気の立った紅茶を差し出した。
「俺のはないのか」
「ありません」
クライルの側で手を前で組んで立つクロムがギュードに視線を合わせず、平然と答える。
「クロム。そこは彼の前にポットだけ置くのが効果的ですよ」
「成程。これからはそうします」
「………酷い話を聞いた」
今までの恨みを返されたような会話に、ギュードが苦笑したまま軽く舌打ちする。 一方のクライルは紅茶に口をつけ、その味に満足する。




