①情報は正確に
―――三日が過ぎた。
あれから追手の姿はない。昼中でも、人ごみの中や外食は、いつも以上に気を付けてきたが、可笑しな程に何も起きなかった。
ギュードはどこの街にでもいる不良者の象徴のようなだぼついた服を纏ってタイサの家に向かっていた。彼とは冒険者時代からの腐れ縁で、始めこそ盗む、盗まれる関係だったが、彼が王国騎士団に転職してからは、情報収集を主とする依頼を出してくる事が多い。
今回の依頼は『身辺調査』である。対象は、タイサの騎士団に新たに入る騎士について。その出自や入団の事情、家族関係等、とにかく集めて来いと言うのが要望であった。
「特に何てことはない、ただの没落寸前の貴族じゃないか」
思わず、依頼主の家の扉前で呟く。
タイサの家の鍵は古く、一か月ほど盗賊を稼業にした人間ならば誰でも入れる酷い仕様である。目を瞑るどころか、針金すら必要がない。ある意味、これ以上盗賊を馬鹿にした造りはないという扉である。
だが、ギュードにとって、彼の真面目な性格を茶化しに行く事は楽しみの一つであった。さらに彼の妹は貧しい家ながらも健気に質素に生活し、顔立ちも悪くない。あえて道化として振る舞い、女性を笑わる事も、紳士の嗜みである。
ギュードは予定通りタイサ兄妹をからかい、その後に依頼内容の報告を済ませると、騎士団の屯所に向かう彼と大通りで別れ、次の仕事へと向かった。
―――ここ最近、蛮族達の動きが怪しい。
様々な、そして方々の情報を断片的に入手した上でのギュードの結論である。
蛮族達が旅商人や経験の浅い冒険者を狙う事は、馬車に引かれるのと同じくらいの頻度で起きる。多くはないが、よくある話、聞く話という程度。無視はできないが、運が悪かったと言える程度である。
『何でも屋』を自称する彼には、複数の情報窓口が存在する。いつも同じ場所で座る露天商の男、毎朝教会の手伝いをしに来る信仰深い老婆、買い物籠を持った中流層の主婦等、何年もかけて築き上げた情報網である。
そして今日は西門の衛兵である。ギュードは衛兵から、折られた紙を受け取り、一週間分の食費に近い対価と交換する。少し歩いた場所で何気なく中を開くと、タイサが先日報告した蛮族との戦闘記録であった。彼が珍しく仕事で外出した事から、気になっていた事である。
タイサから直接聞けば安く済むのだが、彼は必要経費として情報元には質に関わらず、定期的に支払うようにしている。どんな情報でも買ってくれる。蓋を開けて損をする事も多いが、そういう関係をギュードは情報元と大切にしていた。
報告書の内容としては至って陳腐である。だが、ギュードはゴブリンがオークと共に行動していた一文で目の動きを止める。
「………一応、デルにも伝えておくか」
王国騎士団の『色付き』であり、銀龍騎士団の団長のデルも冒険者時代からの腐れ縁の一人である。彼が東部の遠征から帰ってきた事は、既に確認を終えている。さらに言えば、戻ってきた人数がたった小隊程度、さらに団長であるデル自身が帰還しているとなれば大事の前兆といえる。
そして急遽開かれるという団長会議。これらの情報の出本が王国騎士団の事務騎士からである事から、精度はかなり高い。
「こいつぁ、久々に大きな討伐隊が結成されるな」
王城の外壁を背中にしたギュードは、報告書の写しを何度も破くと周囲を一瞥し、すぐ傍の裏路地で流れている用水路に向かって投げ捨てた。
「うまくすれば、冒険者もおこぼれにあずかれる」
東部方面で蛮族討伐の依頼が近々発せられる。根拠が確かな情報ならば、ギルドもそれなりの値段で買ってくれるだろう。ギュードは何事もなかったかのように背中を伸ばし、欠伸をしてからゆっくりと大通りに戻り、ギルドへと足を向けた。




