②実力の差
「………同業者か。さてさて、一体どこのお抱えさんかな?」
少なくとも依頼主が追跡を命令する訳がない。となれば、自然と歴史書を持っていかれて困る人間の手の者と決まってくるるが、ギュードは取り敢えず追跡者を引き寄せる事に集中する。手元の本は、途中で寄ったギルドマスターの部屋から拝借した物である為、本物を手渡したフォースィ達に注意や危害が及ぶ事は避けなければならない。
僅かに屋根を蹴る音、風を割く音から、ギュードは追跡者の人数を複数、多くて四、五名程度と判断する。力量は中級冒険者の中の上。フォースィ達ならば、何も問題なく撃退できる実力をもっているが、依頼を受けた以上、関係者に可能な限り危害が及ばないよう振る舞う。それが彼の矜持の一つでもあった。
適当に屋根を飛び回る事、数分。ギュードは適当な所で家と家の間に着地し、魔導式の街灯が少ない死角に入り込み、闇に紛れる。北区のスラム街は街灯も少なく、追手を振り払うのには丁度いい場所であった。
案の定、追跡してきた者達も近くに着地し、辺りを見渡している。
降りてきた人間の数は予想内の四人。全員が全身、頭まで布を巻いた黒ずくめ達だが、一人が指で何かを示し、残りの三人を散開させて捜索に当たらせた。
「馬鹿だなぁ、自分が指揮官だと言っているようなものじゃないか」
ギュードは指示を出した人間の背後に立つと、口を手で塞ぐ。簡単そうに見えるが、一切の足音も服が擦れる音も、呼吸すら相手の耳に届けずに歩いた彼の妙技故の結果であった。相手も素人ではないが、何が起きたのかすら理解できず、目を大きくさせている。
「はい、残念賞」
ギュードはそのまま追跡者の背中に短剣を当てて、押し込んだ。黒ずくめの人間は何度か大きく跳ねたが、彼が手首を少し捻って短剣を捻じ込むと数秒後には動かなくなる。
「………流石に、名札は付けていないか」
遺体を路地裏まで運んでから地面に寝かせ、仲間が戻る前に黒ずくめの体を漁ってみたが、体つきから女性である事以外の情報は何も出てこなかった。
仕方なくギュードは、近くにあったゴミ袋を遺体の上に積み上げ、その存在を隠した。
「撤収、撤収っと」
死体は仲間を呼ぶ。経験から学んだ真実に従い、彼はすぐにその場を離れ、今度こそ闇の中に姿をくらました。




