たった一人の。
王都クルーシアから放たれたその輝く柱は瞬く間に辺りを壊滅させていき、
「死の雨」または「死への輝き」などと生き残った者達は「それに」名付けた。
「...雨が止んでいる、やっとか...。
皆起きるんだ」
その声はアイアスだ。
アイアス、アルマ、サクリ、グレム、ダモス、イアは洞窟のような場所に
いて、髪はボサボサでグレムとダモスは無精髭を生やしている。
「...おはようございます、本当に大変な1ケ月でしたね...」
サクリはまだ眠気の残る瞳を擦りながらアイアスへ言い、お腹が
鳴りながらも、アイアスが王都から皆を連れて離れたあの時に何が起きたか、
振り返った。
「...お、おい!なんかやべーって!サクリ!起きろ!!!
アイアス様ー!」
アイアスの背で寝ていたグレムは突然ハッと起き、空を見ると
皆を起こそうとする。
いつのまにか太陽が照らしていた空は真っ暗で、月のない夜のように
なっていた。
「...知恵はなくとも感性は鋭い...私の娘みたいだな、お前は」
アイアスは呆れるように言うも、
「そんな呑気な事言ってられないですって!
何か、とにかく鳥肌が止まらないっすわー...!」
そう返答するとアイアスの首元にいたフードのアルマはグレムの後ろへ
行き、背中を優しくさすった。
「...あぁー、安らぐー...ついでに抱きしめてもらってもいいですかー...」
グレムは振り向き言いながらアルマを抱きしめようとするも、いつのまにか
サクリに変わっている事に気付かず、彼女の必殺技「げんこつ」を頂く事になり、
「悶絶」もおまけについてきた。
「...うちの隊長が失礼しました、アルマ様」
グレムが頭を抱えながら俯いている中、サクリは目を覚ましアイアスの
首元へ近付く。
「...アイアス様、クルーシアの方角から何か迫ってきていますが...?」
呟くも返事はない。
(...あれが女に扱えるのか...他の全ての王家にまであれが広まっている
とすればライド家の敵はもう)
アイアスは必死に考えながらも、背に乗っている者達を落とさないように
できる限り最速のスピードで迫ってくるモノから逃げていたが、
「...アイアス様!!!聞こえてますか!」
突然すぐ近くからサクリの声が聞こえ、我に返り、
「すまない、ちょっと考え事をしていた」
とサクリのほうを振り向きながら返答した。
「...あ、大きな声ですいません...。
あれが気になってしまいまして...」
サクリも同じモノに気付いていた。
「...あれはまだお前達には説明できない。
アスルペ様に話して、お前達にも話していいと言われれば話すが...
とても信じられないというか、私も正直信じたくはない事が
たくさんあってしまう。
そういえばサクリ...お前はアスルぺ様を知っていたが、その答えを
聞いていなかったな。
どこでアスルペ様を知った...?」
アイアスは問う。
「...私達の隊長が言うにはアルディア様が卵から聞こえてきた声に
返答した結果、アスルペ様が孵化したみたいです...あれ、おかしいな。
アスルペ様に対して孵化は失礼ですね...なんて言えばいいのだろう...」
サクリの話にアイアスは初めて声に出して笑ってみせた。
「...面白い事を言う...あー、こんなに笑ったのは何百年ぶりか...。
アスルペ様も転生したか、卵のまま永き眠りについて時を待っていたのだろう。
...それを孵化...か...笑わせるなよ、サクリ。
それにしても行動していたのなら私達に顔ぐらい見せに来てほしかった、
なぁ?」
その様子にいつのまにかダモスやイア達も起きて皆で笑い、アイアスは
アルマへ問うと彼女はコクリと頷いたようだ。
「サクリさんよー、アスルペ様に孵化は笑うわー!」
グレムもサクリを馬鹿にしたように笑い、アルマも小刻みに震えていた。
「...アイアス様...!!!」
だが突然のイアの叫びに一瞬で場の空気が変わってしまう。
(...速すぎる...!)
いつのまにか輝く巨大な柱のようなモノが、飛んでいるアイアスの真後ろに
迫っていて、一番後ろに座っていたイアはそのモノからバチバチと聞こえる音に
気付いたのだ。
アイアスは突然急降下し始める。
「私の皮膚に傷がついても構わん、死にたくなければ力を込めて私に
掴まれ!」
森の中にある大きな湖、その近くに大きな穴があるのをアイアスは
見つけた。
洞窟でも何でもよかった、とにかくあの不気味なモノを耐え凌げれば。
「...一番奥まで走れ!生きるか死ぬかはもう運次第だ!」
洞窟の入り口まで行くとアイアスはアルマ達を降ろし、皆で洞窟の一番
奥まで走った。
イアがフラついているのに気付いたアイアスは、彼女を口に咥えて走る。
一番奥まで行くとそこには多くの竜達がいた。
「...可愛い」
「あいつかっけー!」
「私でさえあれの前では無力だからな、こいつらも逃げるしかないのだ」
イア、グレム、アイアスは竜達を見ながら言った。
そしてアイアスは突然サクリ達にも通じない言語で竜達に話す。
「...竜語...みてーなやつか?」
グレムは呟くとアルマ以外、皆不思議そうな表情でその様子を見ていたが、
何を聞いたのか竜達はアイアスが話し終わると服従の姿勢を彼女に
見せ、グレム達に寄り添い始めた。
(力のない者は助け合って生きてきた、それは良心さえあれば種族が違っても
変わらない)
アイアスはそう思いながら竜達が皆に寄り添い、温もりを感じさせている
光景を見つめる。
(...あとはあれが運よくここを避ければいいが...エルヴィスタや
イリミル方面までは余裕で届きそうな勢いだった。
あれが消えたら皆を連れて、他の大陸にいる仲間達の拠点に移動しなければ
ならないな。
...ザイス、レイラ...私はお前達を常に想っているからな。
私の子であるお前らは強く、賢い...サリーシャがもしあれに消滅されても
どこに行くべきかは分かるはずだ、生きて私の元へ帰ってこい。
...アスルペ様は今どこで何を...あなたの愛しき風が今は感じられません)
洞窟の入り口をしばらく見つめていたアイアスは皆のいる奥のほうへ戻る。
それから1週間ほど雨は止まず、巨大な柱のようなモノも消えず、
時折洞窟のところどころが崩れ、穴が開き、周りの森の木々は焼け焦げ、
焦げた匂いは鼻から消えず、竜達や龍であるアイアスの耳には遠く離れた
場所から聞こえる悲鳴も止まず、食料はなく、少しだけ流れている洞窟の
湧水を飲み、寝て、竜達と寄り添い合いながら1ケ月過ごした。
柱は2週間ほどでどんどん小さくなり消滅したが、消滅した場所に少量
残った物質を吸い込んだ生き物達はそれから1時間ほどで死んでしまったの
をアイアスは耳で感じ、それを皆に話した結果もう2週間ぐらい洞窟で
様子見ということになったのだ。
「...ゆっくりしている暇はない、周辺の状況を確認しながらこの
大陸を離れるぞ。
お前らの主、アルディアもおそらくアース様のお孫さんと一緒に逃げている
はずだ。
もし我がままで何をすべきか理解していないただのお坊ちゃんなら
死んでいてもおかしくはない。
あとはお前達やアルディアがこれから未来のためにどういう行動をするかだ」
洞窟から出るとアイアスは背のサクリ達へ話し、飛び立つ。
場面が変わるとどこか崖のような場所を息が切れながらも走る
イリミールがいた。
(だからあたいは嫌だったのよ...!糞じじい!!!
あんなのからあたいじゃ...あの糞ガキさえ...
...守れないんだから...!!!)
彼女は焦っていた。
「死の雨」が降り続け、「死への輝き」の影響が残った1ヶ月間、
イリミール達に何が起こっていたのか...。




