真。
どんな手を使ってでも生き抜く、ずる賢く生きる、敵や怖いものから
逃げる、何があろうと何を失おうと生き抜く事が正しい、
それは彼にとって正しい事ではなかった。
「お兄ちゃんっ!!!」
レイラの叫びに応える事もできず、ザイスは溢れ出す血と共に地へ落ちて
いく。
だが兄を追って地へ降りる事はできない。
「...ちょっと待って、僕と遊ぼ」
彼がいたからだ。
その龍の肉体は刺々しく、あの鋭い3本の爪の根本まで血がついている。
「...お兄ちゃん...お兄ちゃんを...よくもーーー!!!」
レイラの様子がおかしく、その叫びは普段の声よりかなり低かった。
それだけじゃなく肉体はどんどん膨張し、目は紅く輝き、
息は荒く、自我を失っているのではないかと思うほどに。
「...面白いね、何?それは」
目の前の龍は首を傾げながら問う。
(...レイラ達はどこにいる)
アイアスはクルーシアの南側の雷門付近に来ていて、アースが嫉妬達と
戦っているのが遠くに見える。
だがそれはレイラ達のいる北のほうにある王城とは真逆だ。
(さすがに王家が相手では不安だ...我が仔らは双子だが人とは違って
竜の双子は知能が親に似るか、力だけ似るかに分かれていて両方を
親から受け継ぐことはできない。
ザイスは私の知識を受け継いでいると皆は言い、私もそれは思う。
そしてレイラは間違いなく力は私に似て氷竜族の中では私の次に
強く、いつか私が死んだらレイラがリーダーになると思っている。
そうあってほしい...が知能が低く、戦いでは正気を失い、自分の肉体が
どうなろうと気にせず相手の息の根が止まるまで攻撃を止めない。
レイラより強い者...あの女や嫉妬達に見つかったらレイラはきっと
...死んでしまう...)
そう思いながら嫉妬達に見つからないようにザイス達を探していた。
「...ハハハハハ!!!君本当によくやるねええええええ!!!
楽しい!楽しい楽しい楽しいたのぢいたのじいたの...じいいい!!!」
雷が少しずつ鳴り始める中、空中戦が始まっていて2体の龍と竜は傷が
どんどん増えていく。
「...フシューッ!フシュー!フシュー!」
とレイラは息が荒く、ただ目の前の龍だけを睨んでいる。
「可愛らしい見た目なのに中々やる子じゃなーい?
仲間にするってのはどう?なんだか正気を失ってるみたいだし、
あれをすれば...」
目の前の龍の首元に掴まっていた女性が問う。
レイラの真下ではザイスが痙攣して立てずにいて、その周辺は血で真っ赤に
染まってていた。
「...小細工は好きじゃないけどまぁ今は仲間がたくさん欲しいね。
僕もこの子気に入ったし、あの力は利用できそうだから」
そう呟くと龍は、
「...僕を見てよ!何で兄を見捨てたんだい?
君があの時気付いてれば兄は助かったんだけど君は気付かなかった。
どうして?ねえ、どうして?もっともっと僕を見て!!!
僕だけを見て!!!」
とレイラを見つめ、レイラは怒りからか今まで以上に息が荒くなり、
目の前の龍を見た。
「...ちょろい女の子だ。後は時間経つまで眠りな」
いつのまにか龍はレイラの目の前まで来るも体が言う事を聞かず、
何もできない。
どんどん意識が揺らでいき、瞳は閉じられた。
「...兄と一緒に血のベッドでおねんねしーや」
龍はそう呟きながら地へ落ちていくレイラを見ていて、レイラは兄の
すぐ近くへ落ちた。
「...ミザ、あの竜達を隠そーよ。フェディオの兄貴にサプライズプレゼント
もたまにはいいだろう?」
龍のその問いに女は笑いながら頷き、レイラ達のほうへ急降下していった。
「さあ...イア戻るぞ、我に雑用をさせるような生き物はさすがに
初めてじゃ」
王城の手前でメドリエはイアを抱え、戻っていこうとしていた。
イアの頬には傷ができていて、それはメドリエの長い爪がイアを
平手打ちした時に引っ掻いたのだろう。
「サンダリアン、フェディオ様達を手助けにいけ。
我はこれをあの容器に戻したらまた来よう」
その言葉を聞いたサンダリアンは、
「へーい、姫さん」
と返事すると、すぐさま嫉妬達のほうへ駆け出す。
(ライ・ディアプト...ライ系統の王と姫しか使ってはいけない禁忌の魔法。
イアの力が足りないって事なの...?何も起きなかった...)
メドリエの片手に抱えられながら自分を責めていたイアの真上を一つの
影が通る。
(...竜?...あ、頭が痛い...!何かを思い出せそうなのだけれど
...あ、イアはエルヴィスタで1体の竜さんと一緒に戦って
いたわ!...あの時の竜さんに似てる...あの竜さん、無事だといいけれど...)
イアが見た竜は竜のザイスではなく、その母である龍の氷姫アイアスだが
今は気付けるはずもなかった。
(...あの少女は何故あの女に捕らえられている...?
まさかサクリの仲間か?
王城にはサクリもいるはずだが今は...我が仔らが...いや、竜が王城に
入れるはずない。
先にサクリ達を助けよう、仔らには翼があるうえに判断力の
あるザイスがついてればレイラもきっと大丈夫なはずだ、私の子であるしな)
するとアイアスはメドリエのほうへ向かう。
(...竜さん!?だめよ、お母様はあの時のクルーシア兵以上に...
...龍...!?)
近付いてくる竜は見た目が予想以上に大きく、肉体や体格からイアも
やっと龍だと気付く。
「...風が鳴いておるぞ!」
突然メドリエはそう叫びながら振り向いた。
「先ほどは色々と邪魔が入ったからな、決着をつけようではないか」
アイアスはある程度距離を取りながら話す。
「我に執着するか、気持ち悪い...!
クルーシアの良さを分からぬ龍など我の雷撃の餌食となれ!!!」
メドリエの体から雷撃が放たれるとアイアスはすぐさま氷を纏い、
アルマはアイアスの背から氷矢を放つ。
「...随分厚い氷ではないか、我の雷撃も貴様の心の臓まで届かん!!!」
メドリエは片手にイアを抱えながらもアイアスの相手をする。
(...この女本当に随分やれる、感心するが何か変だ...さっきと様子が
違う......妙だな)
アイアスは戦いながら何かに気付く。
(...まさか、この女...まずい...!)
アイアスとアルマはドラゴンテレパシーで何かを話していると
突然、
「...うっ!!!くうぅ...!タイミングが悪い...やれるもの
ならやってみろ!龍がぁ...」
メドリエはお腹を抱えながら膝から崩れ落ち、イアも開放されると
アイアスの背にいるフードの人物の手招きを見てフラフラしながら
駆け寄る。
「...龍さん、イアを助けていただ」
イアはなんとか礼を述べようとするも、
「私の好意に礼など不要、お前はサクリの仲間か?」
その龍はイアも知っている者の名とイアの聞いた事のある言葉と似たような
言葉を口にした。
「...え、あ、はい。エルヴィスタで一緒に戦いましたがイアを仲間と
思ってくれているかは本人に聞いてみないと分かりません。
イアはあの女の娘でありますがアルディアさん達やライド家と共に
世界を知りたいと思い、ライド家の騎士兵さん達とも面識があります」
メドリエが激痛に襲われているもイアは指差し、彼女の娘であると
打ち明けた。
その言葉には多少アイアスも驚いたようだ。
「王家なのにライド家と仲間か...笑える生き方をしてるな。
...それよりもサクリは見なかったか?
王城で捕らわれている仲間を探しに行ったはずなんだが」
アイアスはふっと鼻で笑い、問う。
「...サクリさんが王城に...?イアは記憶が抜けている部分もあって
ほとんどエルヴィスタ以降の事を覚えてなくて...おそらく見ていないと
思います」
イアは考えながらも返答した。
「...今すぐにでもここから離れたい、頼む...探してきてくれ。
あの女は私が相手しているがなるべく早くな」
その言葉にイアは頷くと王城へ向かう。
(...アース様は気付いてるはずもない...よな...)
アイアスはアースのほうを見る。
「...早くしなさい、グレム!」
サクリ達は王城から続く長い道を走っているも大雨により全身ずぶ濡れだ。
「...頭が割れそうなぐらいいてーんだ!
あ、イアちゃん!」
グレムが正面から走ってくるイアに気付くとサクリも正面を向く。
「イアさん!」
サクリの叫びにイアが気付く。
「...あっちで龍さんが待ってる、急ぐわ!」
イアはサクリの手を握るとアイアスのほうへ戻ろうとする。
「...あ、待ってください!あっちにダモスさんが!」
サクリの言葉にイアは驚く。
「...ダモス...皆さん無事なようで安心したわ。
あとはアルディアさんやヘリサさんとかも無事だといいのだけど...
あなた達は先に行ってなさい、ダモスはイアが連れてくるわ!」
イアはそう決断するが、
「いや、ダモッさんはあの目つきわりー奴と戦ってて俺達がイアちゃんを
助けたらダモッさんを助けにいくって約束だったんだ、一緒に行くぜ!
それに姉貴やブルードがいねえって事は多分捕まってねーと思うんだ。
俺のいた監禁部屋みたいなのもぶっ壊れたし姉貴達の部屋も壊れて
れば逃げるだろうし、それでもいないなら捕まってねーだろう...
アルディア様はサクリの知恵がフル活用されてうまく隠されてるみたい
だからあとはダモッさんだけだ!」
サクリよりも早く、グレムがイアへ話す。
「...そう...ならいいけど。
とりあえずダモスを助けに行ったほうが良さそうね」
イアがそう言うと3人は王城へ走り出す。
「...初めて会った時からてめえは大嫌いだぁ!」
王城の入り口付近でクライズとダモスは激戦を繰り広げていた。
槍使いのクライズと体術のダモス。
平凡な兵なら体術だけではクライズにすぐさまやられてしまうだろうが
ダモスは大柄な体の扱い方、体全体の使い方がきっちり頭にあり、
クライズにとって中々手強い相手だ。
「...何故あの龍を呼ばないんですか?」
突然のダモスの言葉にクライズの動きが止まる。
「...あぁ?呼ばなくたっててめえなんざ槍一本で十分なんだよ!」
クライズは一瞬雷がゴロゴロ鳴っている暗い空を見て、それから一瞬で
ダモスへ間合いを詰めた。
(確かに普通のクルーシア兵よりは強い...ですが負ける気はありません)
ダモスは攻められながらも攻撃を見極めながら受け止めたり、躱し、
ついにクライズの手から槍が床に落ちた。
「...やるねぇ...だけど騎士兵のお仲間さんはよそ見してたから
喉ぶっ刺してやったんだ、てめえはそんなつまんねえことすんなよ?
なぁ?」
クライズが間合いを詰めようとした瞬間、
「...イア様...!」
ダモスの言葉に一度後ずさりする。
王城へイアを先頭にその3人は入ってきたのだ。
「...何人いようがてめえらには負けねぇ!一斉にかかってくるか?あぁ?」
クライズの発言を無視するかのようにイアはダモスのほうを向き、
「...さっさとここから出るわ、来なさい」
と言った。
「おいおい、俺は無視かよ...悲しいねぇ...」
クライズは俯きながらそう呟くとイアへ間合いを詰めようとしたその時、
「メドリエ様が倒れた!
...フェディオ様!!!」
突然叫び声が聞こえ、クライズは目を見開きながら無言でそっちへ駆けて
行った。
「...あいつ、あれだな...本当は俺達が4人いるのに怯えて逃げたんだ」
グレムは真顔で独り言のように解説すると真横からげんこつが飛んでくる。
彼はサクリと会ってから何度悶絶したことか。
「...それよりも早く!戻るわ!」
イアのその言葉に4人が駆け出そうとした瞬間、ひらひらと5センチ程の
氷の結晶が飛んでくる。
それを理解したのはサクリだけだった。
「...アイアス様だ、こっちね!」
氷の結晶は4人の前を横切り、どこかへ導くように飛んでいく。
それは王城の真横の方面へ誘っていた。
誰も来ないような裏道のほうから王城の外へ出ると突然消滅するように
氷の結晶が消え、
「...無事だったようだな、サクリ」
4人の真上から声が聞こえてきた。
「...遅くなってしまい、申し訳ありません!」
サクリが話すとアイアスは地へ降り、アルマがアイアスの背から手を
差し出して4人を背に乗せる。
「...アイアス様かっけー!ヒューヒュー!」
グレムがはしゃぐと激痛の元が間違いなく飛んでくる。
そう分かっていると思うのだがそれでも彼ははしゃぎたくなるようだ。
「すいません、アイアス様...このような馬鹿な隊長で...」
サクリがアイアスへ言うと背のアルマは小刻みに揺れていて
笑っているようだった。
「...この方がアイアス様...」
イアとダモスは興味深そうにアイアスを見つめていた。
「皆疲れただろう。今は無理せず眠ってもいいし、後で色々聞かせてくれ。
私達は我が仔らとアルディアを探しておくからな」
その言葉だけで4人を安心させるには十分だった。
「...メドリエ様...!」
アースと嫉妬やフェディオ達以外の竜やクルーシアで生き残った者、
戦いに参加していない者達はずぶ濡れになりながらも動けず痛みを
堪えるメドリエの周りに多く集まっていた。
「...あぁ...メドリエ、大丈夫か?」
王城からあの小太りの王、クライズの父もメドリエに駆け寄ってきた。
「...あなた...我は悲しい...どうして亡くなったと思っていた
イアに恨まれ、龍にも恨まれる...!
せっかく会えたのに...。
我の腹の子がやっとこの世界に誕生する日に限ってこんな事が...」
メドリエは泣いているのか顔を手で覆っている。
(...演技だろ...)
メドリエを囲んでいる者達の後ろのほうでクライズはそう思った。
「...この雨も雷も空もあー、忌まわしい...!あの女に見せてやる...
これが真のライ系統の魔法だ...受け取れ...イア、禁忌の魔法の本来の
威力をぉぉぉぉぉお!!!!!」
メドリエは突然支えてくれていた者達の手を振り払い、空を見上げ、
手を掲げる。
(...なんだ...?)
メドリエの体、目、血管にまで雷撃が流れているような模様が入り、
体から放電し始めた。
「...メドリエ様...!?」
「皆離れろ!」
「メドリエ様が逃げた者達へ罰を与える!皆、死にたくなければ少々距離を
取れ!」
辺りは多くの悲鳴や兵の叫びに包まれるも、一瞬だけ全ての音が静まり、
「...シン・ライ・ディアプトォォォォォォォオオオオオ!!!!!!」
その叫びに空が闇のように黒く染まると天が割れ、何万もの落雷により
地が割れた。
そして万雷の衝撃波と共にクルーシア周辺に落ちた雷は消えずに地を
突き刺したまま巨大な柱となり、とてつもない勢いで辺りへどんどん
広まっていく。
その柱が通った後には何も残らず、一瞬にして地が焦げ果てた。




