その魂が。
微笑ましい愛さえも。
「ザイスの回復が早かったか、私に似たのか...?」
アイアスは独り言のように呟くと背のアルマは小刻みに震えていて、
「...笑いを堪えてるようだがバレバレだぞ...。
私なんかよりも祖父に似てほしいものだ」
と言うとアルマはアイアスの首に寄り添い、首を優しく撫でた。
「...少しだけ嬉しいのは事実だが悪いか?」
アイアスが問うとアルマは頷く。
「...何?本当は...だと?私は何も隠していない、本当に少しだけ
嬉しいんだぞ!」
どうやらドラゴンテレパシーで話しているようだ。
アイアスは動揺するように話すとまたもアルマはフードをかぶっていても
分かるほど揺れていた。
「...悪い親だって?そんな事を言われたくはないな、お前はどうだ?
アルディアがお前に似てる面もあれば多少は嬉しいものだろう?」
その問いにアルマのピタッと揺れていた体が止まると、
「...多少じゃない?...嬉しすぎて抱きしめたくなるだと...?
そ、そんな事は私はしない!親は常に子に偉大さを見せるものだ!
さっさと行くからな、我が仔らが心配だ...!」
アイアスはスピードを上げるもクルーシアの王城はもう見えていた。
(イア様...!)
ダモスは王城の出口へ走っていたが、
「...ストーップ!!!」
その叫びと共に真横から1本の槍がダモスの腹めがけて振るわれた。
「...!」
なんとか躱すもその男は何度も突き刺すようにダモスの腹を狙う。
「...あなたは...」
目の前の槍を持つ男はクライズであった。
「...何か問題でもありますかぁ?
まぁ俺は長ネギを探してたんだけどまさかじゃがいもが先に転がってくる
とは思わなかったなぁー!
ここに潜んでいれば間違いなく来るとは思ったんだけど長ネギは考える脳が
ないらしい...ってとりあえずじゃがいもの刻み講座始めっかぁ!」
クライズは出口の真横にできた窪みに潜んでいたようだ。
おそらくその窪みは先ほどまで空中戦を繰り広げていた氷竜達の影響か。
「さっさと刻まれちゃったほうが楽に死ねんぜぇぇぇ!?
あとからメドリエ様来たらじゃがいもなんて雷撃で焼かれて調理されるっての
よぉぉぉ!」
槍の扱いは上手く、彼の攻めに隙などなかった。
「...ダモッさーん!!!んおぉぉぉぉ!?」
突然ダモス達の耳に聞いたことのある声が聞こえてくる。
「...ほら、おでましだぜ?まずそうな長ネギ君がよぉぉぉ」
クライズの正面から駆けてきた彼にすぐ気付くとダモスも振り返り、
グレムとその後ろのサクリに気付く。
「...俺は剣はねーがまずはてめえの腕前って奴を見せてみーよ!
ダモッさんをもし、もし倒せたら俺が仕方ねーから相手してやんよ。
いいか?大事な事だから2回言ったんだ、もしダモッさんを倒せたら
だからな?」
グレムは言い終えると突然頭に激痛を感じ、膝から崩れるように悶絶した。
「...ダモスさんにプレッシャーを与え、あの目つき悪い男に
やる気にさせるような事はやめてくれますでしょうか?隊長様!」
真後ろのサクリのげんこつだ。
クライズは一度距離を取ると呆れた様子で見ていて、
ダモスもグレム達の場所まで下がる。
「...いいか、お前覚えとけよ...もしダモッさんを倒し、俺を倒せても
この暴力女がお前を子守りするからなー、大事な事だか...いってーーー!」
またも激痛を感じ、2度目の悶絶だ。
「2回も言わないでよろしいです、隊長様。
それよりもここであの男を3人で捕らえれば人質に逃げる事も可能では
ないでしょうか、隊長様」
その言葉にグレムは痛みに襲われ、言葉が出ないのかグーっと親指を立て、
賛成した。
「...俺の嫌なタイプだわぁ...女なんて男の言う事だけ聞いて家事だの
してろってんだぁ!
女なんていくら倒しても一つの軍隊の価値もねえし、竜の餌でしかねえん
だよっ!!!」
サクリはクライズへ近付こうとするもダモスが抑える。
「...性別なんて関係ない、確かに男よりも力はないかもしれないけど
力以外では負ける気はないですから」
ダモスに抑えられながら叫ぶとダモスはサクリをグレムの真横まで
連れて行き、
「...サクリさん、グレムさん、わたしが時間を稼ぐので先に逃げて
ください!
...あわよくばイア様を...どうか頼みたい...本当は自分の主なら
自分で守らなく」
ダモスは二人に小声で頭を下げながら話していたが、突然遮られる。
クライズはニヤニヤしながらその様子を見ていて余裕があるような表情だ。
「...やめだ、やめやめ。
そんなの今更聞いたところで俺達に無関係なわけねーもん、なー、サクリ?
1ヶ月以上も共にしてきた俺達はダモっさんとイアちゃんにとって
どんな存在なんだよ?
ただの付添人だの友達ってのは寂しいわー、俺はダモッさん達を仲間だと
思ってる!
朝昼晩、飯食って、笑い話して、恋話もして、ダモッさんとはブルードとかと
男性陣で深夜女共が寝た後に集まってエッチな話した時もあったし、
エルヴィスタで過ごしてた時は女風呂覗く計画も立てたりしたよな、
連れションもしたしよ...振り返ってもダモッさん達がいるとやっぱ
楽しいんだわ!心から信頼し合える仲間は多くて損はしない、そんな仲間だと
信じてきたダモッさんが頭を下げなきゃ俺達はイアちゃんを助けない?
そんな馬鹿な話はねえだろ...俺は確かに馬鹿だけど仲間は家族同様に接してる。
だってそんな長い時間そばにいるんだから血は繋がってないだけで家族と
同じじゃねえか!...だからダモッさん、仲間に頭を下げる時があったと
しても今はそういう場面じゃないんで頭を上げましょや。
家族が危険な時に見捨てて逃げる奴と騎士兵を一緒にすんな...
イアちゃんを助けたらダモッさんも助けに来るんで無茶はだめっすよ?」
サクリはグレムの問いに頷き、ところどころ鬼のような形相でグレムを
睨んでいた事以外は真面目に聞いていてダモスと目が合うと優しい笑顔を
見せた。
ダモスは目の前のグレムの言葉につい涙が堪えることはできなかった。
「...熱く語りすぎちまったぜ、俺も中々いい事言っただろ?」
グレムは小声でサクリへ問う。
「...エッチな話は...まぁ私達に影響ないし仕方ないとしても
...女風呂を覗く計画...これのどこがいい事ですか、隊長様」
やはり2度あることは3度あった。
グレムが彼女のげんこつによって3度目の悶絶をしている中、ダモスと
サクリはクライズのほうを向く。
「俺様は優しいだろぉ?作戦会議の時間与えてやったんだ...俺を
少しでも楽しませる準備は整ったかーぁ?」
クライズは片手で槍をぶんぶん振り回しながら問う。
「...あの男のいやらしい話しかしてないですが何か?」
サクリはグレムを指差しながら返答した。
クライズは腹を抱えながら笑っている。
「...んならよ、行くぞぉ!!!」
腹を抱えながら笑っていたクライズの低い姿勢が一瞬で近付いてくると
槍を突き刺す構えを見せた。
「...先に行ってください!」
ダモスがそれを受け止め、サクリとグレムへ言う。
サクリが先に走り出すとグレムも頭を抱えながらついて行った。
「悪い選択肢だ...なぁ」
クライズはダモスを見下すような表情をしながら呟く。
「なんか変なの近付いてくるなー」
場面が変わると1体の龍が王城の屋根の上にいた。
「...あれは氷竜?さっき逃げてったはずなんだけど...けど2体ね。
どうする?役目通りやっちゃうの?」
その龍の影から一人の女性が出てきて話し、その問いに龍はコクリと頷く。
「...お兄ちゃん!ここー?」
前の飛んでいるザイスの後ろでレイラが問う。
「あぁ、ここだ...ここから先は危険だからお兄ちゃんの言う事聞きながら
戦うんだよ。
雷撃を放つ女に会ったらすぐさまその場所から逃げたほうがいい、レイラは」
ザイスの言葉にレイラは返事をして、2体同時に急降下し始める。
だが少しずつ何かの音が聞こえ始めるとそれは近付いてくる。
「...あ!レイラ!避けろ!!!」
ザイスは真横からレイラめがけて近付いてくる鋭い爪を構えている龍に
気付いた。
だがレイラが気付いた瞬間、
その3本の爪は兄の顎、首、肩周辺を貫いていた。
その想いは絆や愛となり力となる。
だが想いは悲劇さえも生んでしまう事となる。




