苦悩。
こっちは本当に味方で、あっちは本当に敵なのか。
これは30分ほど前の出来事。
「あーあー、忙しーい!」
城内をヨゲスが歩いている。
「クラーイズのー野郎ー、どこにー行ったー!!!」
どうやらクライズを探しているようで城内の部屋をこまなく調べていた。
「んー?これはー何ですー?」
ヨゲスはとある部屋に入ると何もない場所でつまずく。
下をよく見てみると引っ張れる紐のようなものがあり、それ引っ張ると
床が開いて謎の部屋が見える。
中にはカプセルのようなものがいくつもあり、その中には人が入っていた。
「...ヒーヒーヒーヒーヒー!
こりゃー、すばらーしい!!!」
笑みを浮かべながらその場所へ続く階段を下りる。
そこは横に広く、何百個ものカプセルがあった。
「このー人達ーはなんーですーか...おぉー!」
カプセルの中には全裸の体格のいい男達が多いが中には女性もいて、
ヨゲスは鼻の下を伸ばしながらニヤニヤ眺めていた。
「...いい女ーが大量だー!ヒーヒーヒーヒーヒーヒーヒー!!!」
呼吸を忘れるほど笑いが止まらない。
「あれーは!」
隅々までカプセルの女を眺めているとヨゲスの目に一人の少女が映った。
「お人形ーちゃーんー!!!ヒーヒーヒーヒーヒーヒー!
...ごほーごほー...」
その少女のカプセルに顔を押し付けながら笑うもついに喉が耐えれず、
咳が出た。
「...お人形ーちゃーん欲しーいー!!!あーあー、欲しーい欲しーいー!
お人形-ちゃんーお人形ーちゃんーお人形ーちゃん!...欲しーいー...」
ヨゲスは狂ったかのように少女のカプセルを叩きながら叫び続ける。
「...うーうーうー...お人形ーちゃーんー!!!!!」
今までにないぐらい叫ぶと突然頭をカプセルに打ち付け、何度も何度も、
いくら血が出ようと打ち続けた。
するとカプセルにひびが入り始め、
「...あー!お人形ーちゃーん!待ってーてー!」
ひびに気付くと更に勢いよく頭を打ち付ける。
「...ヒーヒーヒーヒーヒーヒーヒーヒー!!!!!
お人形ーちゃーんー!あーあーあー...なんーて可愛いー...ベローン」
カプセルが割れ、抱えて外に出すと少女の顎から赤髪のてっぺんまで
声に出しながら舐めた。
「...これーからーはパパーと一緒ー!!!
さあーおめかーししましょーうねー!!!ヒーヒーヒーヒーヒー!」
少女を抱えたままその場所を後にするとヨゲスは人目を気にしながらも
急いでどこかへ向かう。
「わたーしのー部屋ーへようこーそ!お人形ーちゃーんはここで
待っててーね!!!ヒーヒーヒー!」
それから自分の部屋へ入ると鍵を閉め、ベッドへ少女を下ろすと何かを探し
始める。
「...これーだー!ヒーヒーヒー!!!」
ヨゲスは隅のほうにあるタンスをあさると女性用の服を持って
くるがそのタンスの付近には下着も散らかっていた。
何故彼が女性用の服を持っているのかはご想像にお任せしよう。
「...お人形ーちゃーん!これーを着ましょうーね!!!」
裸体の少女にヨゲスは薄い服を着せ、本棚にあった一冊の絵本を読み始める。
「りゅうーさんーは言いましーた、これーは幸せーにする魔法ーよとー!
ライーディアープトー!ライーディアープトー!ライーディアープト!
ライーディアープトー!ライーディアープトー!ライーディアープト!
すると少女の指先がピクリと動く。
「...ヒーヒーヒーヒーヒー!面白ーい事にーなりーそうだー!!!
ヒーヒーヒーヒーヒーヒーヒーヒー!...ごほーごほ-...」
少女の動きに気付いたヨゲスは急いでその部屋から出て行った。
そして現在に至る。
「...アイアス、お前の目にはあれが何に見える...?」
前線から巨龍の後方まで下がってきたアイアスへ少女を見つめながら問う。
クルーシア兵達は一度後方のメドリエのほうに集まるも焦っているようで
敵にとっても想定外の事が起きたようだ。
「...あれは...いや、そんな事はあってはいけないはず。
これほどの事をしていた王家をこれ以上は見過ごせない!」
アイアスは自分の纏う氷を少女へ槍のように放とうとする。
だが、
「...逃げるんだ」
隣の巨龍の呟きにアイアスは驚き、動きを止めた。
「アース様!?...神がそんなんだから誰も抗わないのだろう!?」
アイアスは巨龍の言葉を聞かなかった事にし、もう一度放とうと
冷気を集め始めるも、
「...神の俺が言ってるんだぞ!?さっさと逃げてアスルペを探せ!!!」
巨龍はそう叫びながら足踏みすると地が割れ、アイアスとアルマのいる
場所と巨龍のいる場所の間には地割れが起きていた。
するとクルーシア兵や暴食達は巨龍のほうへ向かってきているのが
正面のアイアスにはすぐに分かり、巨龍も一度振り返り理解した。
「...邪魔はするなと言ったはずだ。
頼む、アイアス...生きて俺のこの行動を平和ボケした連中やアスルペに
伝えてくれや。
人も竜も昔と違って常に襲われる危険がない時代になったがそのせいで
世界で何が、どんな事が起こり、一部で戦争や危機があっても
自分たちさえ関係なければ誰も見ようとさえしなければ、聞こうとも
しない...だから力のあるやつが事を起こさなければどれほど危険な事が
今起きているか理解しないんだ。
神龍会議も長らく行われず王の言葉なしで何をすべきかはそれぞれの
神達も迷っているだろうからな、迷いを抱えた全ての者達に俺はここにいると
知らしめてやるよ。
お前さんらの仲間は俺が引き受けた、絶対生きてここから逃がすから
さきに逃げてろ。
...俺はあんちゃんの先生だからよう、生徒はかっこよく抗ったってのに
逃げる先生なんていねえだろ?」
巨龍はふいに笑みを見せるとアイアスに背を向け、クルーシアのほうを
見て構えた。
「...やっぱりあなたの事は好きにはなれないが仲間を死なせたら
私は本当に許さない、あなたもアースドラゴンのリーダーであるなら
その仲間達を悲しませないように生き抜いてください」
アイアスはアルマを背に乗せると巨龍の耳元まで飛び、囁いた。
「不思議だな、アイアス。
俺は今何も怖くねえんだ」
その言葉を聞くとアイアスは一瞬で天へ舞った。
(...神龍グラウンド・アース、神が立ち上がらなければ誰も行動さえ
しないというのか...彼の率いるアースドラゴン達や私らアイスドラゴン達は
とっくの前から行動していた、だが他の竜達は何を呑気に息をしている。
生きるとは同じ種族の者が危険に晒されていても目を背け、食って、寝て、
楽しいことだけして、息をする...本当にそれだけなのか...?
これまでに私達の仲間がどれほど犠牲になったと思う...。
私の一族や龍である誇りを逃げてばかりいる連中に汚されてたまるか...)
陽が照らす、彼女の瞳から滴るもの。
氷龍アイアス。
強き龍でさえも1体でこの世界全ては変えられないのだ。