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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
血筋の復活
22/123

消えてしまわないように。






 龍は怒る、それは人を愛すがゆえに。






 「...龍!?...アルマは死んだはず!なら目の前にいるのは...神!?」


クルーシア兵達に動揺が広がる。

ある者は背を向け走り去り、ある者は怯えている仲間に剣を突きつける。

その一方で騎士兵達は誰もが涙を流し、その龍を見つめていた。


「...あ、あの龍は...たしかアルディア様を主と言っていた

龍様か...?」


グレムは呟くと肩を落とした。

一瞬でも生きる事を諦めた事は騎士兵達にとって恥でしかなかった。

サクリは仲間によって後ろのほうで手当てを受けている。


「仲間を守れなかったらお前達は死ぬのか?仲間の分も生きようと

何故思わない?

仲間を追って死んでも追われたほうは嬉しくともなんともないだろう

...ただ悲しいだけで今まで生きてきた時間が無意味になってしまう。

そんな事は周りの仲間にとっては迷惑でしかない。

アルディアもお前達もまだまだ若い...自分にとっての生きる理由という

ものを知るといい、それを知ってどうなるか、私は期待している」


アスルぺは若い騎士兵達にそう言うと、


「...それにしても数が多いがどの身分でライド家の血を絶やすなんて

言えるんだか...どっちにしろ罪なく暮らしてきた者を殺そうとする

その思想は悪そのものだ、使命のもと呪わせてもらう...もし今まで

してきたことを悔いるのなら逃げるがいい」


その彼女の言葉が途切れると、クルーシア兵やトロールの周囲に強風が

吹き荒れる。


「...こんなときのために対策はしてあります」


クルーシア兵の一人の男が、近くの老人を支えながらそう言った。

するとトロールが鎖を引っ張り、何かが引きずられてくる音がする。


その鎖の先端には竜の首に巻き付かれていて、


「...!?お前は...アイアスなのか...!?」


アスルぺが今まで見た事もないぐらい驚愕した表情で繋がれていた竜を見る。

その姿は間違いなく竜だがクルーシア兵達は龍、アイアスと言っているのだ。


「龍様ー...!あなたーは賢いー!我らーの軍勢がどれだけー

いようーと勝てーぬ!もう龍をー扱う者はいないーという話

でしーたがライド家ーは厄介事ーを引き寄せるープロゆーえ、

こういう時ーもあろうかとー名の知れーた龍を乱獲ーしてきたーの

でーす!

あのーアルーマライードがー死んでーこの龍がー解き放たれたーことにー

気付きー、サリーシャーまで出向いて多少のー犠牲は払ったがー捕らえるー

事ができたーのです!...この特別な龍にー...どうかー殺されてくださーれ!

その後にー我々はーアイアスでこの地のー忌まわしい者共をぶっ殺ーす!」


トロールの肩に乗った老人がそう告げるとトロールは鎖を外した。


「...殺す」


アイアスは正気を失っているのか迷いなく翼を羽ばたかせ、

飛んでいるアスルぺに襲ってきた。

風と冷気がぶつかり合う。


 アスルぺは氷を操れるアイアス相手では相性が悪い。

風に毒を乗せようとしてもアイアスの冷気によって阻まれ、

空中で物質化し地上に落ちた。

アスルぺが毒を操ることを知らないクルーシア兵達は興味を持ち、

近付いた者から倒れていく。

それを見ていた騎士兵達は落下物に警戒していた。


「...だめだ、風と氷じゃ分が悪い...何かアスルぺ様の手助けは

できねーのか!?」


グレムは自分の無力さに怒りを感じていた。


「そうはいっても龍と龍の戦いには...我々も翼のない竜達では

相手にならん...」


騎士兵達は考えながらも自分達にできることはなく、テリーが

それを言葉に出して言った。


「...くっそ...!...そういえばダモっさんとかアルディア様は!?

こんだけ騒ぎになってれば気付くはずだ!」


騎士兵達は目先の戦いに夢中で彼らの事を忘れていた。


「...そうだ...!今できることは彼らを探すことだ!

怪我人や重傷者を除いて、行ける者は我々についてこい!」


テリーが皆を先導しようとした。

が、すぐ横にいたグレムに遮られる。


「いや、二手に分かれる...!一緒に探してたんじゃきりがねえー!

年配の者はテリーが仕切ってダモっさんを探せ!

若いもんは俺が仕切る、そしてアルディア様達を探す!

俺なんかの予測ですまねえが...おそらくアルディア様達に

姉貴がついてるってことはトーダスに乗ってるはずだ!

空も見ながら急いで探すのは若いもんが向いてるはず!

そして軽傷のもんには重症の人の看病を任せてえ!

皆、頼むぜ...!」


グレムの言葉は確かに最善だった。

だが頭の回らないグレムがこれほどまでに指示をこなせた事に、

聞いていた者達は驚きながらも未来に微かな希望を見る。


「な、なんだよ...そんな目で俺を見るんじゃねえ...!

指示が下手くそなのは分かってんだよ...今だけ聞いてくれれ」


周りの仲間が尊敬を覚えたような目で自分のほうを見る事に

慣れないグレムは俯き話していたが、話し終わる前に誰かが

口を開いた。


「...頭の...回らないグレムにしてはいい指示じゃない...。

喜んでお引き受けました、ロイ様の後を継ぎし未来の隊長さん」


とサクリはフラフラになりながらも立ち上がり、一礼した。

その姿を見た全ての騎士兵達も次々と立ち上がり誰もが

彼を認め、尊敬と希望を込めて一礼する。


「...お、おい...そんなの慣れねえよ...!やめろ!

怪我人に後は任すから行くもんはさっさと行くぞ!バカな家族共...!」






家族は一人じゃなかった。

そして家族の一人だった隊長も屈さず戦った事は悲しい事なんかじゃない。

それは誇れる事だ。

心が屈してしまわなければ負けていない。

その隊長の誇りが我々の記憶から消されてしまわないように、

そばにいる家族を守り、紡がれてきた誇りをいつか自分が希望へと託すと

グレムは思った。




 老人の思想もこうして紡がれ、

激戦を繰り広げる龍達の下で希望の扉を開こうとする強き者達がいた。


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