紡がれてきたモノ。
「少しだけ足止めさせてください...ねっ!!!」
女は剣を振りかざし、襲い掛かってきた。
「...邪魔をするなら容赦はしません!」
ダモスは体術で何とかしようと試みる。
「あなたに合わせていたら私に勝機はないので私にあなたが合わせるのです」
そう言って女は剣を地面に突き刺すとダモスのいた場所だけ崩れ、
闘将は暗闇の中に落ちていった。
「...これは...落とし穴!?」
思っていたより深く、自力では上がられそうになかった。
ダモスは冷静に考えてみると女は急に出てきたのではなく、最初から
そこにいたのだと思った。
獣道は一本に繋がっていて誰もがそこしか通らないって分かっているはず。
だが焦るあまり、彼は彼女の待ち伏せに嵌ってしまったのだ。
「...闘将さん、私の戦い方はどうかしら...?
お気に召してくれたのなら一緒にクルーシアへ戻らない?」
女はクルーシアの者なのか、地上から落ちた闘将を見下ろしながら誘うが、
「...もしあなたが指令書をメドリエから受け取った者だとしたら
...ライド家の血筋を継ぐ者でであろう?何故一族を裏切る!?
いや...元々クルーシアにいたのか...!?
私は確かに元兵士だがアルディア様を敵とは思わない...!」
ダモスにはどうして裏切るような事ができるか不思議であった。
「...黙れ...!
全ての原因はあの血のせいだ...この世にとってアルマとアルディアの
持つ希望というものは我々一族にとっては不都合でしかないんですよ...
産まれてきて可哀想に...。
でも私達が生きるためには死んでもらうしかないわ...これからも王家は
全総力で唯一残った忌まわしい血を持つアルディアを殺し、その血を
絶やすために何でも仕掛けるでしょう...でも、もし...今回の戦いで
生き残ったのなら...どうか...」
女は声が途切れ途切れになりながら話し、顔を手で覆っていたのだが、
ふいにその手をどけて姿勢を低くすると笑顔でその後に続く言葉を話し、
足早に去っていった。
ダモスは彼女の笑顔に、一瞬その場の空間だけ時が止まったような気がした。
「...なんで...泣いている...!?なんで...待って...!
もしや...あなたはメドリエに弱みを握られているのでは...!?
そうならきっと何とかしてみせる!...だから...待ってくれ...!
アルディア様も誰もあなたを見捨てない...!頼む...」
彼は何を聞いたのか。
彼女はそれを聞いたダモスの叫びに何を思い、どう感じたかは分からない。
だが彼女が最後に言った絶対に聞き逃してはいけなかったであろう
その内容をダモスは聞き逃さなかった。
そして、
「...あんなに美しくも儚い笑顔など...見たことがない...いや、
あってはならない...彼女は間違いなく言ったんだ...
『アルディア様を守ってください!』と...」
ダモスは何度も思い出し悲しみ、きっと彼女の本心はまだライド家に
あると信じた。
「くっそおおおおおおおおっ!うおおおおおおおおおおおおぉ...!」
森に闘将の悲しみが響く。
場面が変わると地響きが少しずつ大きくなっていき、
敵は数多くいることが分かる。
だが逃げる者などこの騎士兵達の中には存在しなかった。
「すぐそこまで来ているな...俺は逃げねえぜー。
ホワイトトゥルーに育ててもらって俺のホームはここだ...
俺の家族は仲間...これ以上、その家族を奪わせてたまっかよー!」
グレムは怒りに満ちた顔で前方を向いた。
「バカなグレムだけど今回はその言葉に同意してあげる...!
ロイ様の仇...トミーの仇...!」
サクリも普段の可愛らしい雰囲気などどこにもない。
「ホワイトトゥルーの魂を絶やすなー!
生きている俺たちが逃げちゃ死んでいった仲間たちが報われない...!
彼らは心の中で生きている...!共に戦って導いてくれている!
ホワイトトゥルーはここに在り...!!!永久に不滅だー!」
テリーの掛け声に騎士兵は一致団結して声を上げる。
それと同時に大地が揺れ、数多くの人影が森の中から勢いよく
こちらへ向かってきた。
それから間もなく2つの集団が衝突する。
ガキィィィィィン!!!
と剣がぶつかり合う音や、
ブシューーーッ!!!
と肉体に深い傷を負う音でその周辺は瞬く間に赤い色で染まる。
グレムもサクリもテリーもブルードも誰もが心に覚悟を灯し、
目の前の敵に抗う。
少数精鋭の騎士兵達には若くても実力を兼ね備える騎士兵達が多いが、
クルーシア兵の若い者達の中には命乞いをする者もいて、権力で従え、
数に物を言わせるのがクルーシアのやり方なのであろう。
グオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!
とふいに森奥から低い音が聞こえ、騎士兵の誰もがその先に視線を向けると
数十体のトロールが獲物を見るような目でこちらを見ていた。
「...ちっ!!!トロールなんて絵本で見た事しかねえよ...!」
グレムは分が悪いような表情で呟き、
「グレム...!一旦退却の指示を...!」
とサクリはグレムに向かって叫ぶ。
「...なっ!?...俺は仕切った事なんかねえよ!
俺なんかが仕切ったら皆死んじまう...!」
グレムとサクリはクルーシア兵を相手にしながら言い合う。
「今はそんな事言ってる場合じゃ...うっ!?」
サクリが脇腹に激痛を感じ、振り向く。
「相手との戦闘中に隙を見せたらいけませんよ...?
こんな雑魚共の隊長もさぞかし糞野郎なんだろうなぁ...!
...一緒に天国で仲良くしてろ!」
そう言い勢いよく彼女に刺した剣を引き抜くと、血が溢れ出て
サクリは倒れた。
「...サクリーーーーっ!!!」
グレムはすぐにでも助けに行きたかったが、2人を相手していて
手が空いていない。
だが目線の先にいる女性は彼が思ってるほど弱くはなかった。
「隙があったのに...致命傷も狙えず背中を見せるバカな男なんかは
ロイ様の偉大さが分からないのも当然ね...」
彼女は小声でそう言うと脇腹を抱えながら立ち上がり、次の相手に
狙いを定めた自分を刺した男の背中めがけて駆け出し勢いよく刺す。
「...致命傷をうけた気分はどう...?教えてあげる、ここが心臓...。
地獄で悔やみなさい...私達を敵に回した事を...」
そう言って刺していた剣を引き抜いた。
だが手負いのサクリを敵は見逃そうとせず、3人が囲んでいた。
「くっそ...!やめろー!!!いやだ!!!奪われてたまっかよー...!」
グレムは少しずつ倒していき、サクリの元へ近付くも敵は多く間に合わない。
すると急に彼女はグレムのほうを向き、
「ごめんね...?」
と何故か言ったその瞳はいかにも自分がもうここで死ぬ事が分かっている
ようだった。
「...サクリーーーっ!...ごめんなあーっ...!?
弱くてごめんー!!!...俺もすぐに追うからまたあの世で怒ってくれ...」
グレムは生きる事を諦めたように剣を持っている手から力が抜け、
その場に崩れ落ちた。
そんな好都合を敵は見逃さないのだから残酷だった。
サクリとグレムを囲んでいる者達のあの世への一撃が迫っていた中、
突然戦っている者達の周辺に強風が吹き、雲が割れ、何故か半分以上の
敵だけが尻もちをついていた。
「人の分際で自分の都合よく他人の命を奪おうとする者と、
自分が作ったわけでもなく両親に望まれて与えられた命を
自分勝手に投げ捨てようとする事は私が許さない」
雲の隙間から覗く陽の光に照らされながら、
その声の主は呆れた表情で空から見下ろしていた...。




