スパイな夢
夢を見た。
オレはとある施設にグループで水道工事だか何だかの作業員を装って侵入する。
変装自体は上手くいっていたと思う。
灰色の作業服を着たさえないオッサン4人に新卒くらいの見習いオーラを出したオレ。
とりあえず仕事を装い、施設の地下階段へと向かおうとしたところで…何故かバレた。
とはいえ地下はお客にも見せる綺麗で華やかな地上と違い、ネズミやゴキブリが出てもおかしくない汚らしい質素な石造りの通路や気持ち悪い熱気を吐くタービンやパイプのある空間だ。
基本的に人が寄らないこの場所は必要最低限の明かりしかないし、隠れるに最適な物陰も多い。
侵入するにあたって脱出ルートも用意しておいたから侵入こそ失敗したが地下へ行ってしまえば逃げるのは楽…。
そう考えていたが、グループの最後尾にいたオレだけは地下へ入る前に黒服を来た連中に捕まってしまった。
そこからは記憶がハッキリしない。夢だからハッキリしないのは当然だが、おそらくスタンガン、もしくは打撃で強制的に気を失わされたのだろう。
次に目を覚ましたのは(あくまで夢の中だが)白い病人服のような物を着せられ、身体を固定させられた状況で椅子に座らされた状況だった。
頭がぼーっとしている。
まぁ夢だから仕方ない。
そんな状況で白衣を着て、髪をもじゃもじゃにしたあからさまに怪しい博士っぽいヤツや地味な眼鏡をかけた冴えない女がオレの身体に色んな色をしたコードなどを取り付けていく。
怪しい博士っぽい男は気さくに「目は覚めたかい?コレから実験につきあってもらうよ。…なんて、一度言ってみたかったんだよねぇ」などと笑いながら話かけてくる。
そしてオレは「今から何の実験を?」と、一応聞いてみる。
怪しい博士は「君の脳に他人の脳波をぶちこむ実験さ。この実験が成功するとね、君は他人の知識を何の苦労もせず得る事ができるんだよ」と、楽しそうに告げた。
まぁこんな実験成功するはずもないけど、と笑いながら言葉を続けてこの博士はあくまで楽しそうだ。
とりあえず、オレの脳に脳波をぶちこむ数は7人分。
今まで成功した事のないこの実験は、とにかく実験の数をこなして脳波と脳波がマッチする組み合わせを探るらしい。
けれどこの実験に使う設備には欠陥があるらしくて、今のところ一人分の脳波をぶち込むだけで実験に使用した人間たちは自我を無くしてしまうなど副作用が起きてしまう。
なので、変に生きて廃人となった人間の処理も面倒だから一気に7人分の脳波をぶちこんで実験と同時に確実に殺すのだとか。
なんとも恐ろしい実験だね。夢じゃなかったらパニックになって暴れまわってるよ。
そして数分後。実験の準備は整い、オレは頭から足の先まで沢山のコードにまみれた。
怪しい博士はこの7人が君に脳波を持っている人達ねー、とモニターを動かして見せてくれる。
とはいえ、特に感想はないしモニターに映ってる物が頭に入ってこない。
左からその人物達の顔、名前、性別などが書かれた物が縦に7列になっているのが分かるけど文字の内容までは理解できない。
唯一分かったのは男女バラバラで、適当に用意された人材なのかなーって事。
そんな事を考えながら…実験が唐突に始まった。
この明るい怪しい博士なら楽しそうに実験開始~!とか言いそうだったから不意を突かれた感じだ。
…頭が熱くなってきた。身体が熱くなってきた。
夢の中とはいえもっと頭がぼーっとしてきた。
気がつけばモニターの一番下の列がクレヨンで塗りつぶされたようになっており、何も見えない。
いや、見えても内容まで頭に入ってこないからどうでもイイけど。
…汗が出てきた。それもかなりの量だ。
まるでサウナの中にいるみたいに汗が湧いてきて、止まらない。
ただ、サウナと違ってねっとりとした暑さが身体を包んでいるのではなく、全身が焼けるように熱い。
モニターの下から2列目も、クレヨンで塗りつぶされた。
身体の熱さを整えるために犬みたいにハッハッハと息をする。
体内の熱気を外に出しているみたいだが、ほとんど意味がない。
まぁ…オレは犬じゃないしな。そんなんで体温調節できない。
モニターの下から3列目がクレヨンだ。
オレの身体はもう溶けてる。そうに違いない。
息もできてないし、苦しく、喉からはゲホッ、ゼァッっと変な音しか出ていない。
隣にいる博士が「あー…今回は4人が限界か。賭けに負けちゃったよ」などと言っている。たぶん。
モニター4がクレヨン。
身体がビクンビクン動いて体中から血液が吹き出している。
熱いあつい暑い厚いアツいあつい苦しい!
けれど血が出るのが痛いけど気持ちイイ、スッキリする!
血と一緒に若干だけど熱が飛んでいくみたいだけどいたくるしい!
夢なのに、夢だから、夢だけど、夢なのか、夢なのに!?
思考が完全にマヒしかかっている。
けど、この苦しみは突然解放された。
モニターは今までと違い、上から3人分はクレヨンではなく――――と線が引かれていた。