エピローグ『語り継がれる香山』
山の故障は香山に変わり、ある日の孫と爺との会話から始まる。
孫は、爺に聞く。何故、香山に登っては駄目なのかと…
かやまエピローグ:語り継がれる 香山
その日から、 香山の風は変わった。
季節の香りを告げるだけだった風が、今では人々の“耳”ではなく、“肌”で伝えてくる。
香りの中に含まれる、微かな揺らぎ――それを「香風」と呼ぶようになった。
香山に登ることは、もはや禁忌。
風の強さが異常な日、香りが鼻に残るような日、誰もがその意味を知っていた。
「じいちゃん、なんで 香山には登っちゃいけないの?」
そう尋ねる小さな孫に、老爺が静かに語りはじめる。
「 香山の香はな、鬼の香りじゃ…。
それに誘われたもんは、鬼になる。
人でなくなってしもうて、人を喰ろうてまうんじゃ…」
「ほんとに鬼がいるの?」
「……むかしな、“作太”ちゅう若ぇ衆がいてな…。
香山に選ばれてしもうた。
風が強いとき、作太が怒っとるんかもしれんなぁ…
でものぅ――それでも、山を守っとるんじゃ、あの子は。」
孫は黙ってじいちゃんの話を聞いていたが、やがてぽつりと言った。
「じゃあ…ありがとうって言わなきゃだね」
老爺はその言葉に、微かに目を細めた。
香山の山頂を見上げると、ふわりと風が吹いた。
どこか懐かしい、あのときと同じ、やさしい香りの風が。
爺は感じていたあの時の優しい香りが、『かやま』 ではなく 『かおりやま』 の時の香りが、爺の瞳には涙が溜まっていたとか…




