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最終話 消される側

その日。




 初めて、呼ばれた。




 名前ではなく——




 役目で。




「来なさい」




 短い声。




 逃げ場はない。




 分かっている。




 だから、歩く。




 一歩ずつ。




 静かに。




 あの場所へ。




 すべてが決まる場所へ。




 部屋に入る。




 空気が違う。




 重い。




 冷たい。




 そして——




 終わりの気配がある。




「……お前か」




 声がする。




 見えない位置から。




「はい」




 短く答える。




 それ以上は、必要ない。




「最近、無駄が増えたな」




 その一言で、すべてが分かる。




 見られていた。




 気づかれていた。




 あの一瞬の迷い。




 あのわずかな揺らぎ。




 それが——




 命取りになった。




「申し開きはあるか」




 問われる。




 だが、答えはない。




 あるはずがない。




 ここでは。




 理由など、意味を持たない。




 結果だけが、すべて。




「……ありません」




 静かに言う。




 それで終わり。




 長くは続かない。




 判断は、すぐに下る。




「そうか」




 短い一言。




 それで、すべてが決まる。




「処理しろ」




 その言葉で。




 世界が、終わる。




 彼女は、動かなかった。




 動く必要がない。




 もう、分かっているから。




 これは——




 自分が何度もやってきたこと。




 誰かに対して。




 何度も。




 何度も。




 繰り返してきたこと。




 それが——




 今、自分に返ってきただけ。




 ただ、それだけ。




 足音が近づく。




 気配が、背後に立つ。




 逃げない。




 逃げる理由もない。




 そのとき。




 ほんの一瞬だけ。




 思い出した。




 最初に消えた女のこと。




 あのとき、自分は思った。




 ——なぜ、こんなことができるのか。




 そして今。




 その答えが、分かる。




 できるのではない。




 やられる側になるだけ。




 それだけの違い。




 ほんの少しの。




 ほんのわずかな。




 差でしかない。




 だから——




 恐れることはない。




 受け入れるだけ。




 それが、この場所のルール。




 最後に。




 彼女は、ほんのわずかに笑った。




 皮肉でも、後悔でもない。




 ただ——




 理解した者の笑み。




 ここは——




 最初から、そういう場所だったのだと。




 ——大奥。




 消す者も、いずれ消される世界。




 終わることのない選別の檻。

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