第54話 いざ鉱山へ
「ふー、やっと話が終わったわね」
「ああ、有意義な時間だったな」
少々記憶が飛んでしまったが、元村長の話を聞き終えた俺たちは玄関先で背伸びをしながら鉱山の方を眺めていた。
「ダリア、メモ取ってくれたか?」
「はい。アーマードラゴンは灰色の鱗を持っていて大きさは馬車程度。数はそれなりで鉱山の奥に住んでいる、という事です」
必要な情報もメモできたし、準備万端だな。ついにドラゴン討伐、開始だ。
「お主たち、少し待つが良い」
さあ歩き出そうか、というときに背中の方から老人の声が再び聞こえてきた。振り向きたくないが振り向かないわけにもいかない。
「何よ、まだ喋り足りないわけ?」
「ほっほっほ、5時間も喋ってさすがのわしも疲れたわい。いやなに、お主たちにこれをやろうと思ってのう」
「これは……爆弾?」
両手を広げたルリカの手の平に、握りこぶし大の黒い物体がゴロゴロと転がり落ちる。導火線らしきものもついており、どう見ても爆発しちゃうタイプの奴だ。
「その通り、爆弾じゃ。わしの話の2時間45分あたりで、この鉱山は硝石が取れるといったじゃろう? その余りで作ったものじゃ」
初耳だ。俺の記憶にないが多分言ったんだろう。
「……良いんですか?」
「もちろんじゃ。おいぼれの昔話に付き合ってくれたお礼じゃよ」
「あ、ありがとうございます!」
まさかの嬉しいサプライズ。武器を持っているとはいえ少々派手さに欠ける俺たちにとってはまさに足りていない部分を埋めるベストアイテムだ。
俺は村長さんに深々と頭を下げると、改めて鉱山へ向かうことにした。
*
鉱山の麓にある、坑道の入り口。長らく使われていなかったであろうそこは、地獄の窯を思わせるような深い闇がぽっかり口を開けているようだった。
そして、そんな穴があちらこちらにたくさん見える。人で賑わっていたから入り口も多かったてことか。
「よし、出てこいシルバ!」
俺は思い出したかのようにカードを取り出すとシルバを呼び出す。決して忘れてたわけでは無い、老人の話が長くてチャンスを見失っていただけだ。
「ワンワンワン!」
「うわ、悪い悪い。ほら、好きな奴やるから機嫌直せよ」
批難の鳴き声を上げ足元に駆け寄るシルバ。俺はご機嫌を取るために隠しおやつを分け与える。
こういう探索ではシルバが役に立つ。きっとドラゴンの匂いをビンビンにキャッチしてくれるだろう。
「じゃあ早速突入しましょう! どの横穴が当たりかしら?」
「相手は生き物だし全部当たりの可能性もあるな。それじゃあルリカ、先行よろしく」
「はあ!? なんでか弱い乙女に先陣を切らせるのよ! シルバに行かせなさいよ!」
先頭を歩くのは照明を持っているルリカが適任のはずだが、当の本人は憤慨している。冒険者としての矜持はどこに行った。
「悪い、説明不足だった。俺の生まれたところは『レデーファースト』っていう文化があるんだ。美少女には道を譲るのは男のマナーなんだよ」
「えっ美少女……? 仕方ないわねぇ~、そこまで言うなら道を切り開いてあげるわ! 地上に舞い降りた女神こと、このルリカがね!」
何というちょろさ。ルリカは腰に下げていたナイフを取り出すとその刃をペカーっと光らせる。
そしてずんずんと暗闇の中へと歩いていく。
「なかなかおだてるのがうまいじゃねえか?」
「……嘘は言ってない」
肩に乗る人形の囁きを聞き流しつつ、俺も歩き出す。
坑道内は2人並んで歩くにはちょっと狭いといった幅であり、自然と縦一列での行軍となった。ルリカ、俺withレオニック、ダリアの順番だ。
シルバは器用に俺たちの足を避けつつ着いてくる。この小回りが利くところも犬の素晴らしい所だ。
ダンジョンとかではなく坑道なので当たり前だが、ただひたすらに道が続いているだけで他には何もない。たまに盛られた土と、使い切った松明のかけらが落ちているぐらいだ。
「うーん、全然生き物がいるって感じがしないな。なんかこう、小動物の骨とか転がってても良さそうだけど」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ!」
「大きさも馬車ほどと聞いていましたが、それだとこの坑道にギチギチなってしまいますね」
「生き物にありがちな糞とかも転がってねーしな」
歩いて30分ほど経っただろうか。代わり映えのしない風景を見続けていたせいか、ややテンションが落ちてきている。
でも確かに妙な話だ。相手は生き物なわけなので、多少は痕跡が残っていても良いと思うんだけど。盗賊が追い払われたという話からも、そんなに深い場所にいるわけないと思うんだけどな。
「もしかしたらこの穴は外れだったのかもな。運悪くドラゴンのいない穴を引き当ててしまったかも」
「くー、こんなに歩いたのに! 私は諦めないわよ!」
「あ、おい……」
進むか戻るか悩んでいると、ルリカは奥へ行くことを選択し更に歩みを強めた。仕方ない、あと10分ぐらい進んで何もなければ戻ることにしよう。明かりが無いと足元が良く見えなくて危険だしな。
そう考えると俺もルリカの光を追い、再び歩き始めることにした。