第53話 村長
そんなわけでやってきたのが目的地の廃坑である。
「はーっ! びっくりするぐらい寂れてるわね!」
「落ちぶれた廃坑そのものだな……」
俺たちの目の前に広がるのは昼だというのにどこか重苦しい雰囲気の山と、すそ野に広がるゴーストタウンであった。
出発前には村があると聞いていたのにこんなありさまだとは。場合によっては休むこともできるかと思ったが当てが外れたな。
「戦争中はここも活気があったはずだけどな。ま、ゴールドラッシュの終わった後はどこの山もこんなもんだ」
「金が掘れるのか?」
「いや、今のは比喩だ。ここで取れるのは……なんだったかな、忘れちまった」
何にせよ今ここは死に絶えた村ってことか。盗賊がドラゴンにやられたという噂もあったが、そのおかげで荒くれ者すら住んでいなさそうだ。
とは言え俺たちはそんな場所に2、3日は居座る予定だ。まずは少しでも綺麗な家を見つけて仮拠点にするとしよう。
「ミナト様。あの家はどうでしょう?」
「ん、良さげだな。窓ガラスもひびが入ってるけど雨風は防げそうだ」
風の音しかしない村を歩くこと数分。ボロボロに腐った家や窓ガラスがバリバリの家ばかりで碌なとこが無いと思い始めたところで、比較的マシな家を見つけることができた。
雑草の生えた花壇に外れかけたドアノブ。かつては立派な家だったのだろうがもはや見る影もない。今は亡き住人に思いを馳せながらもこの屋敷に厄介になるとしよう。
「ついでに何か使えるものないか探しましょ! それじゃ失礼しまーす!」
「……何者じゃ?」
「んきゃーっ!?」
「んぐっ!? く、首を絞めるな……!」
いの一番で侵入したルリカは、中から聞こえてきた声に驚き俺の体に飛びつく。首に手を回してきたせいで意識が遠くなりかける。
家の中には謎の老人が座っており、湯気の立ちあがるカップを両手で抱えながらこちらを睨みつけていた。
「ミナト様、敵です。しわくちゃ皺だらけの姿に褐色の肌。トレントに違いありません」
「い、いや、よく見ろ。まるで木を思わせるような枯れ果てた姿だが人間だ。……多分」
「勝手に人の家に入ってきて失礼な奴らじゃのう」
老人はため息をつきながらそう言うと、カップに口をつけズズっ……と音をたてるのであった。
*
一通り騒ぎ終わった俺たちは、なんとなくその家でくつろいでいた。
「へえ、ここの村長さんですか」
「ああ。今となっては、『元』が付くがのう」
「元・人間だけでなく元・村長でもあるんですね」
「ぷっ! ……くははっ! それ最高だぜ、小娘!」
ダリアの冗談か本気か分からない発言を聞いて、銀髪ゴスロリ人形が腹を抱えて笑っている。老人は対照的に無表情でその姿を見ていた。
全くこいつらは。代表として謝っておくか。
「その、済みません。俺の仲間が無礼を」
「……に」
「へ?」
「人形が喋っておる!」
そこかよ! 今更過ぎて逆に新鮮だわ!
怒ってはいないようなのでセーフだが、この老人も少々ずれているようだ。
「ふん。驚いたか? 俺も元人間なんだ。仲良くやろうぜ、爺さん」
「わしは現在進行形で人間じゃが」
……と、こんな調子で一向に話が進まない。俺はさっさとアーマードラゴンの情報が欲しいのだけど。
「お待たせー、コーヒーが入ったわよ。古い豆しかなかったから味は保証できないけど」
こんな時でもいい女アピールをかかさないルリカは、他人の家を我が物顔で使い、コーヒーを淹れて戻ってきた。
「ほっほ、こんな若いお嬢さんにコーヒーを淹れてもらう日が来るなんての。長生きはするもんじゃて」
「はあ? とんだスケベじじいね。黙って飲みなさい」
「ほっほっほ」
ルリカの悪態を受けつつコーヒーを啜る老人。その老人が座る椅子から一番遠い場所にルリカも腰掛け、これでようやく全員揃った。そろそろ本題に入るとしよう。
「それで、わしに聞きたいことがあるんじゃったな」
「はい。俺たちはアーマードラゴンを討伐しに来たんですが、何か情報はありませんか?」
「アーマードラゴン、のう……。鉱山にいつの間にか住み着いた恐ろしき魔獣じゃ。わしにとっては盗賊を追い払ってくれた守護神のような存在じゃがの」
老人は息継ぎをするように一口コーヒーを啜ると、再び言葉を紡ぐ。
「かつてはこの村も人がいっぱいじゃった。じゃが資源が少なくなり始めると人も減り始めた。元々大した村ではないので自然の摂理ではあるが、厄介なことに空き家に今度は荒くれ者が住み始めたのじゃ。そのせいで若者だけでなく、老人や女子供も町に逃げてしまったよ。ついにはその盗賊たちもドラゴンに追い払われこの様じゃ」
これは長くなりそうだな、などと思ってはいけない。老人の昔話を聞くのも若者の大事な仕事なのだから。
「ちょっと爺さん? 私はそんな話が聞きたくてコーヒーを淹れたわけじゃないわよ! 早くドラゴンの居場所、数、特徴、弱点を教えなさいよ」
「ほっほっほ、血気盛んで羨ましい限りじゃ。じゃがそう慌てるでない、盛り上がりはここからじゃて」
我慢できないルリカがついに声を上げるが、老人は意に介さず第2幕を始めるようだ。
……まだ続くのかよ、などと思ってはいけない。老人の昔話を聞くのも若者の大事な仕事なのだから。




