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第43話 活路

 盗賊のリーダーは赤いロープを手に俺に近づいてきた。銃はまだ片手に持っているとはいえ、俺たちを縛るときが最大のチャンスだ。


「み、ミナト!」


「大丈夫だ、問題ない」


 ルリカに答えたのか、自分に言い聞かせたのか、俺は小さく呟く。

 だけど、実はもうこのピンチを突破する作戦は考え付いている。あとは実行する隙を見つけるだけなのだ。


「おっと、改めて言っておくが妙な動きをするんじゃねえぞ? おれだってお前たちを無闇に殺したくねえ。掃除が大変だからな、ふへっはっは!」


 そう言って俺の手が届くほどの距離まで近づいてくる。銃口はまだこちらに向けられたままだ。


 まだだ。まだ慌てるような時間じゃない。俺の心の中の仙道がそう言っている。

 確実な隙を見つけるまで我慢だ。俺は微動だにせず男を睨みつける。


「よーし、じゃあまずはお前だ! とっとと後ろを向きな、優しく縛ってやるよ」


 男は顎で俺を示し、命令を下す。


「……いいのか? 本当に後ろを振り返っても」


「ああ? 何言ってんだ?」


「ミナト、そのおっさんの言う通りよ! 何言ってんのよ!」


 ……お前は俺の味方じゃないのか。何盗賊に同調してんだよ。


「言葉通りの意味だ。本当に振り返ってもいいのかって言ったんだ」


「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ! とっとと振り向けってんだ!」


「わかったわかった。ほらよ」


「……え?」


 俺が男の言葉に従い、ぐるりと180度ターンを決める。

 それと同時に、男の首がスポーンと宙を舞った。


「ふん、流石はオレの魔法道具だ、悪くない切れ味だぜ」


 ……俺の背中には、解体剣を持ったレオニックが貼り付いていた。


*


「……はあ。助かった、こんなにうまくいくとは。何も言わずに察してくれてありがとうだな」


 俺の作戦、それは背中にいるレオニックを利用して盗賊を仕留めることであった。


 こいつが武器を放せと言った時、俺はこっそり背中側に落としていたのだ。それをレオニックが落下前にキャッチし、息をひそめて待機していたのだ。

 つまり地面に落ちたのは俺の銃だけ。いい感じにテーブルが死角を作っていたのでそれに気付かなかったようだな。


「オレを誰だと思ってやがる? 天才魔法技師レオニック様を舐めるんじゃねえぞ」


 当然だ、という口ぶりながらもドヤ顔で俺の肩の上にレオニックが戻ってくる。やっぱりここが定位置のようだ。


「くそ、どうなった、おれの体ぁ!」


「安心しろ、死んではいないさ。俺も血で部屋を汚したくないからな」


 俺は地面に落ちた盗賊の首を拾い、テーブルの上に置く。離れ離れになった体の方は全く動いていない。敵を制圧するという点においては剣も相当なものだ。


「よし、じゃあお嬢様を……」


「ちょっとぉー! その前に私を助けなさいよーっ!」


「何だルリカ……って、なんでお前も首だけになってんだよ!」


 声がする方を振り返ると、何故かルリカも生首になって転がっていた。一体どうして……?


「あんたが回転したときに私ごと切り捨てたんでしょうがっ!」


 俺は先ほどのことを思い出す。背中にいたレオニックが剣を持ったことを肌で感じ取った俺は、ぐるっと時計回りに半回転。その回転の勢いでそのままレオニックが盗賊の首を飛ばしたはずだ。

 ん? ちょっと待てよ。ルリカはさっきオレの真横に立っていた。という事は……。


「えーと、いや、あれは事故というか……。俺のせいじゃなくて……」


「悪いな。邪魔だったから一緒に切り捨てちまった」


「じゃ、邪魔って何よ!」


「ミナト様に助けてもらおうと思って密着してるからですよ」


 無事だったダリアがルリカの首を拾い上げ体にくっつけると、むっくりと起き上がった。後処理が簡単なのもこの剣の魅力だな。


「ふう、助かったわ。まったく、生きているうちに2回も首を叩き落されたのは私ぐらいのものね」


「よかったよかった。よし、じゃあお嬢様を……」


「も、もうちょっと私に気遣いみたいなものはないわけ?」


 俺はお嬢様に近づき、縄をほどく。目的はお嬢様なので優先するのは当然だ。


「これで大丈夫……ってうわっ!」


 ほどき終わりお嬢様が自由になると、立ち上がる前に俺にがばっと抱き着いてきた。その勢いに押されしりもちをついてしまう。


「ミナト様、信じておりました……! 本当に、本当にありがとうございます!」


「あ、ああ。無事でよかったよ。でも動けないから、ちょっと……」


 お嬢様は周囲に散らばる盗賊もお構いなしに、ドレス越しに柔らかい体を押し付けてくる。

 こ、これは健全な(元)高校生には刺激が強すぎる。俺は表情を悟られないようにしながら、お嬢様の肩を支えゆっくりと立ち上がる。


「あ、私ったらはしたない真似を。申し訳ありません」


「まあ無事でよかったよ」


 一時は俺のお尻がどうなるかとも思ったが、これでミッションコンプリートだ。

 さあ、後はお嬢様を送り届けて報酬をもらうだけだ。


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