第38話 肩の上の住人
森の屋敷で出会ったゴスロリ人形レオニックは、俺たちと一緒に森を出たいと言い出したのだった。
「一応確認だけど、森の脱出を手伝うだけじゃなくてその後も俺たちと行動を共にするってことでいいんだよな?」
「ああ。今のオレには知識はあっても金と道具がねえ。少なくとも支援者が見つかるまではてめーらと一緒にいさせて貰うぜ」
……すこぶる面倒なことになりそうだな。ただでさえ手のかかる奴が2人もいるってのに。俺の真の仲間は現状シルバ(屋敷の外で待機中)しかいないからな。
「イイじゃない! どうせならミナトが支援者もやっちゃいましょうよ!」
「おいルリカ、またお前は勝手に……」
まったく、俺が責任を被ると思って適当なことを言い始めたな。俺が常時ワーキングプアだという事を知ってるはずだろうに。
ルリカは俺の気も知らずに顔を寄せると、ぼそぼそと耳打ちしてきた。
「まあまあ、彼女……なのか彼なのか知らないけど、魔法技師だって言うじゃない。仲間にしとけばいい魔法道具を作ってくれるかもしれないわよ! いや、作らせてみせるわ!」
どうだか。一筋縄でいきそうにないのは間違いないけど。
でも、確かに魔法技師に恩を売れるチャンスなんてそうそうないことだとは思う。仕方ない、しばらく提案に乗ってやるか。
「という訳で、ミナトがしばらくあんたの面倒を見るわよ!」
「構わねーが、金はあんのか?」
「ぼちぼちってところかな」
「まあいい。優れた魔法道具を持っているし多少はお前にも興味あるしな。小僧の割に妙な落ち着きがあるのも嫌いじゃねえ」
「……そりゃどうも」
どうやら契約成立のようだ。これが吉と出るか凶と出るか……。どうか吉でありますように。
こうして俺たちは魔法技師を仲間に迎え入れたのだった。
*
俺たちは屋敷の外でレオニックの出発準備が終わるのを待機していた。
オレの言いつけを守り玄関で待機していたシルバをわしゃわしゃしながら時間を潰す。
「ミナト様。僭越ながら1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ、ダリア?」
「レオニック殿は女性なのでしょうか、男性なのでしょうか」
ダリアの質問、確かに気になっていたところだ。
見た目はゴスロリ人形だし声も見た目相応に可愛らしいが、喋り方と名前は男っぽい。
確か研究を続けるために人形の体に魂を入れたと言っていたが、どっちの可能性も考えられるな。
……まあ多分おっさんだと思う。
「ふん、そんなの見ればわかるじゃない! 女の子に決まってるよ!」
「……女の子要素あったか?」
「人は見た目が9割よ!」
まず見た目が人じゃないんですが、それはいいのか?
「なるほど、一理ありますね」
「言うほど一理あったか?」
「昔、怪しいホームレスの様な見た目の占い師に前世を占ってもらったことがあります。私の前世は男だったと言われましたが、私は女です。その理論で言うと、レオニック殿も女と言っていいかと」
どの理論だよ! 全然理論として成り立ってないんだよ! 大体誰だよホームレスみたいな占い師ってよ!
「待たせたな、ガキども! 準備完了だ、出発しようぜ」
俺が激しい脳内ツッコミをしていると、ようやくレオニックの準備が整ったようだ。
ボロ屋敷の扉を勢いよく開けてくてくと小さな人形が歩み寄ってくる。
「準備完了って……何も持ってないように見えるけど」
俺の見る限り、レオニックは手ぶらでバッグのようなものを持っている気配はない。一体何を準備したというのだろうか。
「ふん、小僧。まさかこのオレがただのダッチワイフに魂を入れたと思ってんじゃねーだろうな?」
「ダッ、ダッチワイフて……」
「この体は魔法道具だ。見てみろ!」
レオニックはゴスロリ衣装をたくし上げると、お腹の部分には6つに割れた腹筋ではなくブラックホールのような黒い闇が広がっている。
「このお腹は……?」
「こいつは4次元空間だ。俺はこの中に魔法道具や実験器具を入れて、好きな時に取り出せるのさ」
なんてこった、まさかのドラ〇もんだったのか。初めて出会った時に武器が突然出てきたのも、ここから出していたのか。
「へえ、便利ね。自分で持ち運ばなくてもいいなんて」
「はん、当然だ! オレの胃袋は宇宙だからな。このキャッチフレーズ、カッコいいからってパクるんじゃねえぞ?」
……そもそもがパクりなんだよなぁ。
まあとにかく準備が出来てるという事はわかった。辺りも暗くなり始めたことだし、早速出発だ。
「よし、じゃあ行くとしようぜ!」
「おい待て小僧。まさか人形姿のオレを歩かせるつもりじゃねーだろうな?」
「……ではどうすればよろしいのですかな、レオニック様?」
「ほう、いい態度だな。……こうするのさ!」
レオニックは俺の体をよじ登ると、そのまま登頂成功し俺の肩に腰掛けた。ピ〇チュウか貴様は。
「はん、少々撫で肩だが悪くない特等席だぜ。よし、頼むぜミナト君!」
「はいはい、わかりましたよ」
こうして俺は新しい仲間を加えて、ようやく森を出るために歩き始めることができたのだった。