第36話 魔法技師レオニック
俺たちはゴスロリ人形に誘われ、ボロ屋敷の中にある部屋へと入っていた。
「うわ、ここは実験室か……? ワークベンチも……」
「ほう、小僧にしては多少の学はありそうだな」
その部屋の中は、研究施設としか表現できない物であふれていた。
年季の入った木製の机は分厚い本とカラフルな液体の入ったフラスコに占領されており、部屋の隅っこにはハンマーやペンチといった鍛冶屋のような道具が並べられている。
「まあ適当にくつろぎな。1人用の部屋だから椅子はねーがな」
ゴスロリ人形はその部屋にあるたった1つの椅子にぴょんと飛び乗る。俺たちは少し壁にもたれるようにしつつも立ったままだ。
「それで、話というのは?」
「その前に私を元に戻しなさいよ!」
……おっと、忘れていた。ボーリング玉のようにダリアに鷲掴みされているルリカ(生首)が大騒ぎしている。この状態でも騒がしいとはとんでもない奴だ。
「首と体の切断面を合わせれば元通りになるぜ。俺はうるせぇ奴は嫌いだ、体が元通りになったら口を塞いどけ」
「……ルリカ、静かにな」
「なにをむぐっ!」
俺は手早くルリカの頭と体をドッキングすると、発言する前に釘を刺しておく。
切断面を合わせるとぴったりくっつき、切れた跡は全く見えなくなった。それに伴って脱力していた体にも力が入ったようだ。
「……! ……!」
「これでいいだろ? 話を始めよう」
「そりゃ魔法道具か? まあいい、始めるか。オレの名はレオニック、ここで長い間研究をしている。聞きてーのは最近の情勢だ、ここにいると外の情報が入って来やしねえからな」
「研究?」
「ああ。だがオレのことはいい、先に質問に答えな。てめーら王国民か? もう戦争は終わったのか?」
王国民? 戦争? いったい何の事だろう。日本国民かつ異世界に来て日が浅い俺には答えられない。
という訳でとりあえずダリアにパスすることにした。ボロが出てもいけないので適当に誤魔化すように耳元でささやいておく。
「確かに私たちは王国の出身です。近くの村からこの森の探索へ来ました。戦争、というのが何を指しているかわかりませんが、少なくとも私の生まれた時にはどの国とも戦争していないはずです」
「……なんだ、戦争は終わってんのかよ。帝国はまだあんのか?」
「帝国……というと隣のドルハデア帝国の事ですか?」
「ああ、その口ぶりだと御健在のようだな。しぶてー奴らだ」
うーん、全く何を話しているのかわからない。いや、言葉自体は理解できるんだけど。
世界史とかが好きな人ならすんなり理解できるんだろうか? まあ俺は話半分に聞き流そう。
「むぐー! むぐーっ!」
「……あ、忘れてた。もう楽にしていいけどあんまり騒ぐなよ」
2人(片方は人形だけど)の会話をぼけーっと聞いていると、自分の口を両手で押さえながらルリカが肘で俺を小突いてくる。その目は『早くおしゃべりさせろ』と訴えていた。
再度釘を刺しつつも、とりあえず命令は解除しておくか。
「ぶはっ! 喋れなくて死ぬかと思ったわ」
首を落とされても死なない奴が喋れなくて死ぬのか? 謎である。
「……んで、あの人形は何なのよ?」
「俺が知るわけないだろ? 後で聞いてみるか、魔法道具のことも聞きたいし」
何故人形が動いているのか、どんな仕組みなのか、ルリカの首を落とした魔法道具は何なのか……むしろ俺の方が聞きたいことが多いぐらいだ。
「ほう、お前は鑑定士なのか。この部屋に漂っている魔力の源も見えるのか?」
「いえ、私はこの片眼鏡越しでしか魔法を捕らえられません。魔力の源も、魔法道具という形になっていなければ見ることができません」
ルリカに気を取られている間に話も盛り上がっているようだ。当然俺にはちんぷんかんぷんだけどな。
「あなたは魔法道具無しで魔力の源を見れるのですか?」
「はん、当然だ。オレは魔法技師だからな」
「えーっ!? ちょ、ちょっと待って! あんた今、魔法技師って言った!?」
俺と同じように話を聞き流していたルリカが、1つの単語を聞き大声を上げる。
それにしても、魔法技師……どこかで聞いたような。
「いちいち大声出すんじゃねえよ……。確かに言ったぜ、オレは魔法技師だ。戦争から逃れ、魔法道具の研究の為にここでひっそりと暮らしてんだからよ」
ゴスロリ人形はルリカの大声にウザそうな顔をしながらも、こちらに向けて話を続ける。
……ああ、思い出した。
魔法技師と言えば、ルリカが言っていた魔法道具を作ることのできる職人のことだ。
つまり、俺たちが必死こいて手に入れた魔法道具なんかも、この人形にかかれば危険を冒さずに作れちゃうってわけか。
「戦争時は国の命令で魔法道具を作らされたからな。それが嫌で多くの魔法技師が街を離れひっそりと暮らしたんだ。俺もその1人、ここで200年近く研究してる」
「200年……!?」
「ああ、命を繋ぐために魔法道具で魂を人形に入れてな。命、魂、時間、空間……オレの専門は、"目に見えないモノ"だ」
驚き過ぎて声の出ない俺たちに、魔法技師レオニックは長い銀髪を掻き上げながら不敵に笑うのだった。




