第35話 首と体がさようなら
俺たちは森のボロ屋敷に不法侵入したせいでお人形さんに怒られていた。
さて、俺はどう行動するべきか。住人が優しそうなら謝る、ヤバそうなら逆切れしようと考えていたのだが、人形が出てくるとは想定してなかった。
「てめーら何の目的でオレの家に潜入した? 返答によっちゃ殺すぞ。妙な動きをしても殺す」
怖えーよ発言が。見た目に反して言動は荒くれ者のそれなんだが。だが今の発言で俺はこいつをヤバい奴だと判断したぞ。『スライム銃』で逃げだそう。
幸いこいつは武器らしいものを持っていない。チャンスを待ち、隙を見つけて脱出だ。
「それにしても凄いわねー、人形が動くなんて。どういう仕組みかしら?」
お前が隙を見せるのかよ!
俺の心のツッコミも空しくルリカは無防備にひょこひょこと人形へと近づいていく。だが……。
「――え?」
手が届くほどの距離までルリカが近付いた瞬間、ルリカの首がボトリと地面に落下した。
「うわあぁぁーっ! ル、ルリカ!?」
「てめーらは耳が悪いのか? それとも頭か? 妙な動きすんじゃねーってのが理解できなかったか?」
どこから武器を取り出したのか、いつの間にか人形は手にマチェットのような刃物を持っている。人間にとっては片手のナイフほどの大きさでも人形が手にすると両手剣のようだ。
だが、それよりもルリカだ。カードに戻せば元に戻るのか?
こんなにがっつり殺されたことは初めてなので保証がない、冷静を装っても冷や汗が滲む感覚が分かる。
「くそ、ふざけやがって! この人形……!」
「あん? なんだ、銃か?」
俺は銃を人形に向けて牽制すると、ダリアに視線で合図をする。カードは使う気が無かったのでルリカが持っているカバンの中だ、まずはそれを何としても回収しなければ!
「動くな、すぐにでも引き金を引けるぞ! ダリア、すぐに回収しろ!」
「はっ、形勢逆転のつもりか? 引き金を引くのと腕が無くなるの、どっちが早いか教えてやろうか?」
お互い身動きができないなかでダリアの足音だけが聞こえる。くそ、汗で銃を掴む手が滑る。できるだけ早く頼むぞ、ダリア。
「ミナト様、ルリカの首を回収しました!」
「うわあぁぁーっ、そっちじゃない! カバンだカバン、グロいのを見せるな!」
あろうことかダリアは生首の方を持ってきた。グロ耐性の無い俺にとってはもはや後ろから伏兵に襲われたかのような精神的ダメージだ。
「グロいって何よ!」
「ぎゃああーっ、死体が喋った!」
俺の言葉が地獄まで届いたのか、なんとダリアが鷲掴みにしている生首の目がこちらを睨みつけ、まるで生前のように不貞腐れた言葉を投げかけてくる。
何という恐怖。さっきからドッキリの連続攻撃だ。多分俺の寿命は年単位で縮んだと思う。
「誰が死体よ! 死んでないわよ!」
「いや、どう見ても死んでるだろ! 自分の体見てみろよ!」
「体……?」
ダリアがルリカの顔の向きをグイっと変える。目に映るのは首のない死体が横たわった状態のはずだ。
「いやああーっ! わ、私の体が! あ、なんだか気が遠く……」
「し、しまった! 現実を見せたせいで死を自覚してしまったというのか……!」
「大騒ぎするんじゃねえ、クソガキども! オレの魔法道具で"解体"しただけだ、死んじゃいねぇよ」
わたわたと大騒ぎをする俺たちに、ゴスロリ人形の一喝が響いた。
「え、死んでないのか……? はは、良かった、死んでないのか……」
短時間とは言え驚きの連続で緊張していたせいか、その言葉を聞いて俺はガクッと体の力が抜け、その場に座り込んでしまう。
「ちょっとミナト、早く私の仇を取りなさいよ!」
「いや、いい。死んでないなら。もとはと言えば悪いのは俺たちなんだから。はあ、ホントに良かった」
「……ふん」
俺が銃を下ろしたのを見て、何故か人形もマチェットを下げ俺たちの様子をじろじろと眺める。理由はわからないが今が謝罪のチャンスか。ここぞとばかりに日本人固有のスキル、『とりあえず頭を下げる』を発動するしかない様だ。
「てめーら、泥棒じゃなさそうだな。身なりが小奇麗すぎる」
「え? あ、ああ、俺たちはその、冒険者だ。本当に悪い、誰も住んでないと思ってちょっと休憩しようと……」
人形の方から口を開いたので、返答しつつ流れるように謝罪の言葉を口にする。
ついでにさりげなく泥棒じゃないこともアピール。詫び寂びの効いた日本人らしい謝罪ですな。
「冒険者ぁ? 何だそのふざけた職業は。今はそんなのがあんのか?」
人形は怪訝そうな顔をしている。どうやら冒険者という言葉が気に障ったらしい。まあ実質フリーターだからな。
「……まあいい。ちょっと話がしたい、隣の部屋に顔を貸しな。その小うるさいメスガキも元に戻してやるよ」
顔を貸す、というのは比喩じゃなくて直接的な意味じゃないだろうな。
俺たちの返答も待たずに人形は部屋を出て廊下を歩き始めた。
「……行くしかないか」
「ちょっと、変なところ触らないでよね」
流石に生首の状態で村に帰るわけにはいかない。俺はルリカの首なし死体を抱えると、人形に従い後について行くことにした。




