第34話 ボロ屋敷と人形
俺たちはたまたま見つけた、森の中のボロ屋の調査を始めていた。
「……真っ暗で埃っぽいな」
「ふふん、こんな時こそこいつの出番ね。街のしょぼい魔法道具屋で買ったこのナイフ! 何と唯のナイフじゃなくて、先端が光るのよ!」
ルリカは冒険の準備でこっそり買ったであろうナイフを取り出す。まるでテレビショッピングのような語り口でシースから刃を取り出すと、マッチ程の明るさで先端が光を放ち始めた。
「お値段何と20万イェン! どう、羨ましい?」
「そんなゴミに20万ポンと出せるのは羨ましいよ。ナイフ自慢はいいから早く調査しようぜ」
「調査じゃなくて冒・険! っていうかゴミって何よ!」
むくれるルリカを無視しつつ、俺は小さな光を頼りに家の中にある家具を探り始めた。
適当に引き出しを開けてみるとボロボロの書物が見つかった。大分使われて無さそうだがやはり時間が経っているせいか色あせている。
「それは魔法道具に関する本ですね」
「分かるのか?」
「鑑定士になるためにお勉強していましたので」
適当にパラパラとめくってみるが、中身は俺にはさっぱりだ。他の引き出しにも同じようなものばかりだし、この辺はダリアに任せて他の所を調べるか。
「ちょっとミナト。あそこの本棚の上に箱があるわ、取ってくれる?」
部屋の逆側を調べようとしたところ、ルリカが声をかけてくる。指をさす方向を見ると、確かに本棚の上に何かが見える。
「……自分で取れよ」
「高い所にあるものを取るのは男の仕事でしょ!」
何だその理論。確かに俺はルリカよりかは背が高いが、本棚はなかなか背が高く、目測2.5メートル以上はある。何か踏み台が無いとちょっと厳しいな。
「ミナト様、宜しければ奴隷の私めが踏み台になりましょうか?」
「……いや、いい」
「ミナト、ジャンプよ! あんたならやればできるわ!」
やれやれ、仕方ない。ルリカにちゃんと受け止めるように言うと、飛び上がって無理やり叩き落す作戦で行くことにした。
「よっこら、しょっと!」
俺は気合を入れてジャンプすると、マリオのようなパンチを箱にぶちかます。帰宅部で鍛え上げられた俺の拳は、読み通り箱のバランスを崩すことに成功した。ぐらり揺れた箱は本棚の上から滑り落ちる。
「ミナト、ナイス!」
「おい、喜んでないでキャッチを!」
「え? きゃっ!」
ルリカはあろうことか俺の落とした箱を避けるように飛び退いた。
箱は地面に衝突し、ガシャン! と大きい音をたてる。どうやら中身は割れ物だったようだ。
「おい、何女の子みたいな声出して避けてるんだ!」
「女だからしょうがないでしょ!」
『誰だ!』
俺がルリカに文句を言おうとしたところ、どこからか声が聞こえてきた。女の子のような声だったが、当然ルリカやダリアの声ではなく、隣の部屋から聞こえてきたようだ。
「え……? ちょ、ちょっとまずいわよ……! 誰かいるわ」
なんてこった、誰もいない無人のボロ屋敷かと思ったら、まさか誰かが住んでいたのか?
という事はここはダンジョンではない、誰かのお家だったってことだ。つまり俺たちはただの泥棒です、本当にありがとうございました。
「ど、どうする……?」
「窃盗と不法侵入は最悪死罪です。ルリカ、今までありがとうございました」
「何言ってるのよ! ……ミナト、奴隷の不始末の責任は飼い主にあるはずでしょ!? 何とかしてよ!」
こんな時ばっかり奴隷の立場を利用するとは何て女だ。だが、住人が来る前にどうするか決めなくては。
俺のヒラメキによると選択肢は2つ。住人を口封じするか素直に謝って弁償するかだ。
……よし、住人の顔を見て決めよう。優しそうなら謝る、そうでなければ……。いやいけないな、思考が異世界に毒されている。悪い想像は止めて、まずは正しい行動をとることにしよう。
「出てこい、クソ野郎ども!」
中途半端に開いていた扉がバーンと勢いよく開ききり、俺たちに向けられたであろう鋭い言葉が小さな部屋にこだまする。……だが、肝心の声の主が見当たらない。
「……どこ?」
「ミナト様、もう少し視線を下に」
ダリアの言葉に応じ首の角度を下げると、目測60センチほどの少女がいた。
……いや、少女じゃなくて人形だ。暗い部屋でガラスのような目だけが光っており、銀色のロングヘア―にゴスロリ衣装をまとっている。
「何ガンくれてんだこら! 腐れ泥棒ども、妙な動きすんじゃねーぞ」
可愛らしい顔をしてとんでもない毒を吐く奴だ。珍しかったのでじろじろ見ていた俺は可愛らしい声で悪態をつかれてしまった。
それにしてもこいつは何者なのだろうか。見た目は人形だがこういう種族か? それとも操り人形で、他のやつが遠くで操作しているとか? 異世界初心者の俺は知識がないので判断がつかない。
仕方ない、俺よりかはこの世界の常識を持ってそうな奴に確認するか。
「なんですか、この人形? 動いているように見えますが」
「さあ? 初めて見たわ」
お前らも知らないのかよ。やれやれ、こういう時はどうすればいいんだろうか……。




