第3話 こんごともよろしく
前回のあらすじ:俺の持っていた『封印のカード』はモン〇ターボールと見せかけた遊☆戯☆王カードだった。
「ふう、危機は去ったけどこれからどうするか……」
俺は独り言をつぶやき、手の中にあるカードを眺める。カードには先ほど捕らえた少女の姿が描かれてる。
「説明書には手下になるとか書いてあったな。試してみるか……」
結局カードに捕えた少女……ルリカとはまともに話できなかったので情報が無い。
気が付けば太陽も傾き始めた気がするし、日が暮れる前に安全な場所を教えてもらわないとな。
「出てこい、ルリカ!」
俺はカードを掲げ、名前を呼んでみる。するとカードから光が放たれ、その光の中からルリカが現れた。スライム状態も解除されたようで出会った時のような元の姿だ。
「あれ、私……。さっきまでドロドロに……」
「お、良かった。グロいままだとどうしようかと思ったよ」
「……! あ、あんた! さっきはよくも!」
「うわ、ストップストップ!」
ルリカは俺の姿を見るや否や素手で殴りかかってこようとする。だが、俺の言葉に反応し拳を振り上げたままの姿でピタッと静止した。
「くっ、体が動かない……! あんた、一体何したのよ!」
「なるほど、ちゃんと俺の言葉には従うみたいだな」
……念のためもう少し試しておくか。
「右手上げて」
「み、右手が勝手に……!」
「左手も上げて」
「くぅぅ~、左手も」
「右下げないで、左上げない」
「ちょっと、変な命令しないで!」
言葉では反抗しながらも、俺の無茶ぶり旗揚げゲームに従順に従っている。これはもう魔法が本物だと考えていいな。
「これでわかっただろ? お前はもう俺の命令に従うしかないってことだ。あ、もう楽にしていいぞ、ただし俺への攻撃は一切禁止だ」
「そ、そんな……!」
彼女はかなりショックを受けた様子でがっくりと項垂れる。まあ、正直自業自得って奴だな。
「よし、じゃあ早速次の命令と行くか」
俺はルリカを見てニヤリと笑い、舌なめずりをする。
「え……? ま、まさか! いや、やめて、変態!」
「次の命令だが……一番近い村の場所を教えてくれ」
「いやー! やめてー! 私はまだ大人の階段を上るには早すぎ……へ?」
*
「いい? これがこの周辺の地図よ。今私たちがいるのがこの辺で、一番近い村はここよ」
俺は再び岩陰に隠れ、ルリカの話を聞いていた。彼女は地図を持っていたようで、地べたにそれを広げ場所を確認する。
大分簡素な地図だが、山や村の場所はしっかり描かれており移動に問題はなさそうだ。
「歩いてどのぐらいだ?」
「そうね、1時間もあればつくと思うわ」
「そうか、じゃあ暗くなる前に早速移動しよう。先導を頼む」
「ま、まだ命令しようって言うの?」
「当然だろ。俺の命を取ろうとしたんだから自業自得だ」
まだまだ俺には情報が足りてない。こき使えるだけこき使うべきだろう、せめて生活が安定するまでは。
「くうーっ! あんた、絶対碌な死に方しないわよ!」
「知ってる、既に一度死んだ後だからな」
彼女を適当にあしらいつつ、バッグを抱える。目的地も確認できたし早速移動だな。
周囲を警戒しながら2人で村の方角へと歩いていく。
「……ねえ、ちょっと聞いていい? あんたどうしてあんな所にいたの? 突然降って湧いた訳でもあるまいし、村の場所もわからないなんて異常よ」
……まあ実際に降って湧いたわけだが。そこは説明が難しいな。
「質問に答えるのはいいが、あんたってのは止めてくれないか? 俺の名前はミナト。弓永ミナトだ」
「ミナト? 変な名前ね」
自己紹介をしたところ、唐突に名前をディスられてしまった。俺への攻撃は禁止したはずだが、彼女の中では暴言は含まれないらしい。これは暴言も攻撃に含まれると閣議決定が必要だな。
「……それで、ミナト? 考え込んでないで私の質問に答えてよ」
「おっと、そうだな。……うーん、説明が難しいけど、魔法道具を持たされて突然あそこにワープさせられたって感じだな」
「???」
彼女は頭にクエスチョンマークを浮かべている。まあ、出来るだけわかりやすく伝えたつもりなのでこれ以上説明を求められても困るな。
「とにかく俺は安全で平和的に生活したいんだ。悪いがしばらく助けてもらう」
「くっ、まあいいわ。命令に従ってあげるけど、ちゃんと私の身の安全も保障してくれるんでしょうね?」
「それはたぶん大丈夫だ。怪我してもカードの中に戻せば死にはしないらしい」
さっきは途中までしか説明書を読んでいなかったが、続きにはカードに封印した後のことも書いてあった。死亡しても魂がカードの中に戻ってくるので、時間が経てば復活するらしい。ある意味不死みたいな魔法だな。
「ちょ、もっと優しくしなさいよ!」
「善処することを近日中に検討しておこう」
……なんて適当な会話をしながら、俺たちは村へと歩き続けたのだった。
*
「よし、やっと村に到着したな!」
歩くこと1時間ちょっと、ついに村に到着することが出来た。
のどかで人も少なく、村の周囲には畑も見える。石造りの家がまばらに乱立し、まさにヨーロッパ風田舎村って感じだな。
「次は宿の確保だな。場所は知っているか?」
「こっちよ。……一応聞いておくけど、お金は持ってるんでしょうね?」
「……あ」
しまった、なんてことだ。財布は一応ポケットにあるが、流石に日本円は使えないだろう、この雰囲気は間違いなく金貨とかで取引してそうだが、当然そんなものは持っていない。
「ちなみにルリカはお金持ってないのか?」
「え? 4万ぐらいなら手持ちはあるけど……まさか、私のお金まで取るつもりじゃないでしょうね!?」
「……ちゃんと働いて返すから」
「くっ、利子はしっかりとるわよ!」
ルリカはそう言って財布を取り出した。この世界の物価はわからないけど、4万でどのぐらい過ごせるのだろうか?
「ほら、見えてきたわ。あそこがこの村唯一の宿よ」
「へえ、そこそこ大きいな。いくらぐらいなんだろうな?」
「1人1泊8000イェンぐらいよ」
なるほど、この世界の通貨の単位はイェンなのか。円と紛らわしいな。価値が同等ならいいけど、1円=120イェンとかだったらわかり辛すぎるな。
宿は値段がピンキリなイメージなので、まだ金銭感覚がつかめていない。
「1人8000だとしたら、2人じゃ2日しか泊まれないわよ」
「うーん、そうだな……」
俺は頭を悩ませる。確かに彼女の言う通り、2日だと余裕が無さ過ぎるな。野宿しようにもテントやたき火の道具さえないのだ。
当然それらを揃えるのにも金が必要だろうし、何をするにしても次のミッションはお金稼ぎになりそうだ。
「ちょっとー、いつまで悩んでるのよ?」
「……! よし、いいことを思いついた」
「何を思いついたのよ?」
「それは後で説明するけど、安く宿に泊まる方法だ」
「ふうん?」
俺は自分の思いついたアイデアについニヤリとしてしまう。ルリカはオレの表情を見て怪訝そうな表情を浮かべるのであった。
*
「あ、いらっしゃいませー」
俺が宿の扉を開け中に入ると、すぐに宿屋の店員から挨拶が飛んできた。入ってすぐの場所がフロントになっているようで見通しもよく、不審人物が入ってこないかの監視も兼ねていそうだ。
「部屋を借りたいんだけど、空いてますか? 一番安い個室で良いんですが……」
「はい、空いていますよー! 何泊のご予定ですか?」
「そうだな……とりあえず2泊で」
「かしこまりましたー! お連れ様はいらっしゃいますか?」
「……いや、1人です」
「かしこまりました、ではこちらにサインをお願いしまーす! ……はい、では部屋の鍵をお渡しします!」
俺は元気のいい店員の言葉に従ってサクサクと話を進めていく。
……よし、何とかバレずに鍵を借りることに成功したな。
※異世界の金額レートは1円=1イェンです。覚えやすいね