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第29話 ボロ屋敷

「ここが俺たちに相応しい建物……?」


「何よ、ボロ屋敷じゃない」


 俺たちは早速、領主カイゼルの言っていた屋敷へと来ていた。

 案内された建物は街のはずれ、近くにある森の入り口に面した建物であった。


 壁には蔦が這っており、窓ガラスにはヒビが見える。もう長いこと使われて無さそうだ。


「申し訳ございません、ミナト様。フェルナ様の命の恩人にこのような建物しか準備できず……」


 そう言って、ここまで道案内をしてくれた執事が申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、いいって。カイゼル様の言う通り、お嬢様を助けた報酬は貰ったわけだし。それに加えて今夜の宿を工面してくれただけでもありがたい話だ」


「本当に申し訳ございません……。何かありましたらなんでもお申し付けくださいませ。どうかお気をつけて」


「ああ、フェルナ様にもよろしく」


 執事は最後にもう一度頭を下げると、街の方へと帰っていった。

 ……建物を眺めていても雨風は凌げない。まずは入ってみるとするか。


「こんなに森が近いと虫とかが出そうですね」


「ええ? いやよ、そんなの! 気持ち悪い!」


「大丈夫だろ。せいぜいカナブンかクワガタぐらいだって」


 異世界の虫事情は知らないが、人に近づいてくるやつなんてたかが知れている。変なのは来ないだろう。


「その謎のセーフ理論、男にしか通用しないから」


 ルリカはぶつくさ言いながら建物の周囲を確認し始めた。俺も内部の安全確認ぐらいはしておくか。


「どうやらここは森の管理小屋のようですね。埃をかぶっていますが日記と双眼鏡を見つけました」


 入り口入ってすぐは待合室のように机といくつかの椅子が並んでいた。ダリアが部屋の隅で見つけた物を机の上に置くとわずかに埃が舞った。


「ふーん、管理小屋か。まあゆっくり寝れればなんでも良いんだけど」


 ダリアは椅子に座り日記の中身に目を通し始めた。ここは彼女に任せて俺は寝室の確認をするか。


「……あれ? なんでルリカがここにいるんだ? さっきまで外を確認してなかったか?」


「壁に穴が開いてたのよ。とんだボロ屋だわ」


 俺の問い掛けに対して既に寝室に入っていたダリアが壁を指差す。そこには確かに立派な穴が開いていた。まるでアクセルを踏み外した老人の車がコンビニに突っ込んだかのような大きさだ。


「……風通しが良すぎるな。虫が入ってこないようにひとまず埋めようか」


 残念ながら俺には大工の心得が無い。だけど、丁度いい感じに本棚が側にあったので、それをずらして穴を埋めることにした。


「もう、埃っぽいわね! 布団は自分の寝袋を使った方が良さそうよ」


「そうだな。ちょっと豪華なテントと思えば悪くない」


 いつ誰が使ったかもわからない放置された布団は、叩くと周囲にハウスダストをまき散らした。とりあえずベッドはそのまま使うとして……ブランケットとかはその辺に投げ捨てとくか。


 とにかく寝泊まりする場所の確保はできた。これからはあまり財布の心配は要らなくなったな。


「……でも、危険な場所かと思ったけど何もなかったわね」


「ああ、そうだな。口ぶりからするとてっきり何かあるのかと……」


 俺は領主カイゼルとのやり取りを思い出していた。

 あの時、確かにカイゼルは"俺たちに相応しい場所"と言っていた。フェルナお嬢様を救出した話の後だったので、てっきり腕っぷしが必要そうな場所かと思ったのだが……。


「はっ!? もしかして、『小汚いお前らにはこの程度のボロ屋が丁度良い』って意味だったのかも! く~、ムカつく!」


「……否定できないな。なんか嫌われてそうだったし」


 初対面なので嫌われる謂れはないのだが、娘にたかるハエと思われたのかもしれない。あんまり気にしても仕方ないな。


 寝床の確保も終わったところで、ダリアの元に戻ってみる。ダリアはちょうど日記を読み終わったようだった。


「ダリア、どうだ? 日記に何か書いてたか?」


「至って普通の日記でした。ただ、最後のページが……」


「なになに、お宝の情報でもあったの?」


「いえ、森に怪しげな影を見つけたところで止まっています」


「……なによ、つまらないわね」


 俺も日記を確認してみると、確かに中途半端なところで止まっているようだ。怪しげな大きい影が森の方に見えたので、翌朝調査してみよう……といったところで尻切れとんぼだ。


「この日付っていつのことだ?」


「約2週間前ですね」


「結構最近だな」


 何があったのか、問題は解決したのか……ちょっと気になるな。明日執事さんに聞いてみようか。


「もう他人の日記はいいじゃない。もう夕方よ、そろそろ夕食でも食べに行きましょうよ」


「そうだな。ここは街のはずれだし、早く行って帰ってこないと夜が更けてしまう」


 気が付けば日は完全に見えなくなっており、あたりは薄暗い。


「ミナト様、私は魚料理を希望します」


「はあ、何言ってんの? あんたは私の下でしょ! 奴隷一号の私に夕食決定権があるに決まってるでしょ!」


「……勝手に序列を決めるなよ」


 俺は2人に呆れつつも、街へ向かうことにした。


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