第28話 ご挨拶
「まあ、ヴァレスタで魔法道具を……」
「ああ、運よく手に入れることができたんだ」
お嬢様と再会を果たした俺たちは、屋敷に招かれお茶を御馳走になっていた。
たった一度命を救っただけなのにこんな扱いをしてもらって、逆にありがたい話だ。
お嬢様にこれまでのことを聞かれたので素直に話をしてやる。……まあ、途中で一回別の街に寄っただけの事なので特に色々話すことがあるわけでもないのだが。
「御謙遜を。ミナト様の事ですから、きっと実力で得たものなのでしょう」
「爺やの言う通りでございます。流石、ミナト様ですね」
「いやそんな……」
爺やと呼ばれた白髭の執事がカップにお代わりを注ぎながら俺のことを持ち上げると、お嬢様がそれに同調して俺を褒めたたえる。
……ここまで褒められるのは何とも気恥ずかしいな。
「ミナトさーん? こんなところで時間を潰している場合じゃないんじゃないの?」
「……別にいいだろ。忙しい訳でもないし」
さっきからつまらなさそうに紅茶を啜っていたルリカがついに口を開く。
何というか、このお嬢様とは相性が悪そうだな。片やおしとやかで女の子らしい女の子。片やガサツなお調子者。当然と言えば当然か。
「申し訳ありません。私、お時間を取らせてしまいましたか?」
「いや、この街に来たばかりだからまだ宿を取ってなくて。すぐに見つかると思うから気にしなくても良い」
「お宿、ですか? もしよろしければ私が手配しましょうか?」
「え? い、いや、いいよ。そこまでしてもらうほどの活躍をしていないし……」
「そんなことはございません! 暗闇で震える私を救ってくれたミナト様には感謝してもしきれません!」
うーん、申し出はありがたいがどうしたものか……。
俺はルリカとダリアの方をチラリと盗み見る。
「良いんじゃない、ご厚意に甘えれば」
「そうですね。差し出がましいようですが、ミナト様は経済状況が思わしくないようですし」
「う……それはそうだけど」
どうやら2人とも乗り気のようだ。確かにお金はできるだけ節約したいところではあるけれど。
「お嬢様、旦那様にまずはご相談した方がよろしいかと」
「そうですね。ミナト様、この後ついてきていただけますか? お父様にも紹介したいので……」
「え? ああ、わかった」
どうやらお嬢様の勇み足で、まだ正式にOKという訳ではない様だ。
こうして俺はフェルナお嬢様の父親に直談判する羽目になってしまったのだった。
*
「こちらがお父様の執務室です」
ティータイムを終えた俺たちは、お嬢様の案内で更に屋敷の奥へと通されていた。
やはり相手は貴族なのだから第一印象が肝心だ。背筋を伸ばして、まるで体育祭の選手宣誓のように堂々とご挨拶をすべきか。……悲しいことにそんな経験は微塵もないわけだけど。
「お父様、フェルナです。失礼します」
「あ、まだ心の準備が……! し、失礼します!」
深呼吸をしている間に、既に扉は開かれてしまっていた。仕方ない、覚悟を決めよう。
挨拶しつつも中に入ると、そこには顔つきの鋭い初老の男性が俺たちを出迎えていた。
貴族というよりむしろ裁判官とか警察官僚のようなお堅い職業が似合いそうだな。
「フェルナか。何の用だ?」
「お父様、こちらが以前私を助けてくれた冒険者の方々です」
「み、ミナトと申します。初めまして」
とりあえずは精いっぱい真面目そうに挨拶する。父親は俺の一挙手一投足を瞬きせずにガン見している。恐ろしいったらありゃしないな。
「話は聞いている。カイゼル・クレイボーンだ」
低く芯のある声で一言そう言うと、また黙ってしまった。何ともやり辛いな。
「……それで、何の用だ? 私はこれでも忙しい、挨拶だけなら帰って貰おうか」
「くっ、何よその高圧的な態度。私たちは娘の命の恩人よ! ……って言ってやりなさい」
「……自分で言えよ」
どうやら俺たちは歓迎されていない様だ。まあ無理もないか、父親からすれば見た目の怪しい若者でしかないわけだし。
「お父様! この方々はまだ宿の手配も出来ていないようです。お部屋を都合して差し上げたいのですが……」
「ならん。偶然手柄を立てただけの者になぜそこまでしてやる必要がある? 救出した時の報酬は十分に払ったと聞いているが?」
「な、何よその態度! ミナト、反論よ!」
「……自分で言えよ」
ルリカは口調は変わらないが、伯爵の圧倒的オーラに圧され俺を盾にしている。
「そもそもこの街へ来たのも我が娘に近づくためではないのか? 素性の知れぬ者どもに貸す部屋などない!」
「お父様!」
まさに取り付く島もないって感じだな。カイゼルは話は終わったとでもいうように背を向け、窓から景色を眺める。
お嬢様が背中に声をかけるが、全く相手をする気配もない。どうやら交渉決裂のようだな。
「じゃ、じゃあそう言う事で……」
「あ……」
この気まずい雰囲気の中で棒立ちしておくのもあれなので、こっそりと退出することにしよう。
できるだけ音をたてないようにしながら入り口の扉を開ける。
だが、ふと思い出したようにカイゼルが声をかけてきた。
「待て。お前たち、腕が立つのであったな。お前たちに相応しい建物であれば手配してやろう」
カイゼルは俺たちに、どこか含みのある提案をしてきたのだった。




