第27話 再会
「あいたたた、腰が……」
バリスタが出発してほんの数分、どうやら俺たちは無事目的地に到着したらしい。
乗り心地は一言で言うと、最悪。発射した瞬間に背中側にGがかかり、固い座席に体が叩きつけられた。そのまま数分間座席に張り付けられたと思った瞬間、停車の勢いで今度は前方に吹っ飛び壁に叩きつけられた。
……この世界にはソフトランディングという概念が必要だと感じたのでした。
「大丈夫ですか、ミナト様?」
「ああ、骨は大丈夫だ」
よろけながらもなんとかバリスタから脱出する。今日はもう働く気にならない。
「まったく情けないわね。ほら、肩を貸してあげるわよ」
ルリカに肩を借りつつ降り立つ。そこには立派な街が広がっていた。
周りを城壁に囲まれたいわゆる城塞都市ではなく、美しい木造の家々が直接目に映る。そのことがこの街並みの豊かさを俺に教えてくれている。
「まあ無理もないわね。私も初めて乗ったときは頭をぶつけちゃったし」
「……! そのせいで粗暴な性格に……」
「この性格は元からよ!」
……それはそれで結構あれだが。
少し歩き続けていると、だいぶ楽になってきた。これなら明日まで痛みが長引くことはなさそうだな。
「今はまだお昼前か。毎度のことながらまずは宿を探すか」
ここでもまずは住むところの確保だな。お高くない宿が借りれると良いけど、大体都会の方が物価も高いからな。
「実は私、この街は初めてなのよね」
「ダリアは?」
「私は一度だけ、鑑定士の試験で。あまり情報が無く……申し訳ありません」
「いや、仕方ないな。じゃあまずは街の中心に向かうか」
今回は何も前情報が無いようだな。とはいっても普通は中心に大体の施設が密集しているはずだ。まずはそこに向かう事に決め、中心へと歩き始める。
「こうして歩いてみると、規模の割には結構のどかな街だな」
周りを見渡すと、床はしっかりとした石畳。家々には小さな花壇やプランターがあり色とりどりの花を咲かせている。平和そのものと言っていい。
「公益の中心で経済が安定していると聞きます。豊かなので余裕があるという事なのでしょうか」
「お金があると心にゆとりができるものよねー」
……なるほどな。俺も心にゆとりを持ちたいものだ。
*
大都市ともなると中心に行くのだけでも一苦労だ。
俺たちは目に入るオシャレな店に寄り道しつつ、1時間ほどかけて中心部へたどり着いた。
ここは住民たちの憩いの場なのだろうか。中央には立派な噴水があり、優しく水を噴き上げている。
そして噴水の周囲は円形の広場のようになっており、子供たちが近くで遊んでいる。
「よし、まずはコインを投げ込むか」
「何言ってんのよ、迷惑でしょ」
「え?」
馬鹿な、噴水と言えばコインを投げ込むと相場が決まっているはずだが。カルチャーショックだぜ。
……まあ冗談はさておいて、ここは別に目的地ではない。近くには宿泊施設があると思って中心街に来たのだから、少し休憩したら宿探しを再開するか。
「あ、あそこに立派な建物が見えるわ。村長の家かしら?」
「待て、ここは街だから……。市長? 県知事? いや、どうでもいいな。呼び方もその情報も」
お偉いさんの住む場所っぽいというのはわかったが、今は先に俺たちの住む場所だ。どうせ会う事も出来ない存在なんだし。
ちょうどその立派な建物の前に馬車が止まった。どこかに行ってきた帰りのようだが、馬車に見覚えがある気がするな。
その馬車から降りてきた人物はそのまま立派な屋敷に入ると思いきや、俺たちのいる噴水の近くへと歩いてくる。
……いや、どちらかというと俺の方目掛けて真っ直ぐに歩いてきているように見えるな。
「やっぱり、ミナト様だったのですね! お久しぶりです」
「あ……この前俺が助けた、えーと、フェルナ様?」
「覚えてくださっていたのですね!」
目の前に接近してきた少女、その子は以前攫われていたところを助けたお嬢様であった。
お偉いさんだという事は知っていたが、ここの御令嬢だったとは。
「お知り合いですか?」
「ああ、ダリアは知らなかったな。実はかくかくしかじかで……」
「なるほど。流石ミナト様です」
俺はさらりとダリアに経緯を説明する。まだこの異世界に来て1月も経っていないが、こんなとこで再開するなんて異世界は広いようで狭いようだ。
「わん!」
「シルバちゃんもお久しぶりです。元気でしたか?」
足元にシルバが寄ると、お嬢様に首元をわしゃわしゃされている。まったく、尻尾なんて振りやがって。
「あんた、ここに住んでたんだ?」
ルリカも近づきお嬢様に声をかける。なんたる態度だ、犬の方がまだマシなんだが。
「あ、あなたは、えーと……」
「なんで犬の名前を覚えてて私のことは覚えてないのよ!」
悲しきかな、ルリカは存在を忘れられていたようだ。まあ、お嬢様を助けた後は他の冒険者に囲まれながら自慢話ばかりしていたからしょうがない。
「ちなみにこいつはルリカな」
「ルリカ……?」
「何聞き覚えが無いみたいな顔してんのよ! せめてそこはしっくりきなさいよ!」
……頑張れルリカ。今度はちゃんと名前を憶えて貰うんだぞ。
俺は悲しい扱いに涙を浮かべながら、彼女を心の中で応援したのだった。




