冒険者登録試験、開始
登録試験です。
「さ、試験のほうに案内してくれるか?」
「え、イートさんはスルーですか!?」
「いーと……?」
「そんな初めて聞きましたみたいな反応しないでください!そこに倒れてる、ほらっ!」
「……何をしているんだ、こいつ。冒険者ギルドの床で堂々と昼寝とは……」
「あなたが何かしたんじゃないんですか!?」
「…………いーと?」
「ああ、もうっ!」
はい、僕の全力のスルーに折れてくれたアイラさん。ごめんね、無理させて。
まぁ、ナルアを汚らわしい目で見た時点でこのイーなんたらさんの運命は血祭以外ありえないんだけど、冒険者ギルド内でそれをするってのも後味が悪いし、印象的にもよくないだろう。
後で、闇討ちしよう。
「さ、ナルア。もう大丈夫だぞ?」
「ほんとぉ…?」
そうやって甘えた声を出さないでください死んでしまいます。人目を気にせずに抱きしめたくなるが、自重自重。そろそろアイラさんの視線が痛い。
ナルアには一回離れてもらい、アイラさんのほうに向きなおる。
「さ、試験の案内を頼む」
「……こちらになります。私についてきてください」
納得いかないって顔しているが、こちらとしてはイーなんたらさんが一方的に悪いのだから、文句ならそっち言ってもらいたいものである。
アイラさんの後ろについて、ギルドの奥に案内される。そこには、闘技場とでもいうべきものがあり、その中央に、大柄な男が立っていた。
「ギルドマスター、連れてまいりました」
「おう、ご苦労。通常業務に戻っていいぞ」
大柄な男にそういわれ、アイラさんは元来た道を戻っていった。後に残ったのは、ギルドマスターと呼ばれた男だけ。
「さてと、お前さんがネクロか?」
「そうだ。そういうあんたは?たしかギルドマスターっと呼ばれていたが……」
「おう、俺がこのオルド支部のギルドマスターのグランドだ。お前さんの冒険者登録試験の試験官を務めさせてもらう。よろしくな」
「ああ、改めて。魔術師のネクロだ。そしてこちらが私の婚約者のナルア」
「ナルアです。よろしくお願いします」
それにしても、ギルドマスターじきじきに試験をしてくれるのか。こういうときのための専門の冒険者がいるってリンネは言っていたけど………。
「不思議そうな顔をしているな。俺としては、試験になんで婚約者を連れてきたとか、そもそもなんでその年で婚約者がいるのかとかいろいろ聞きてぇことがあるんだが?」
「いや、それはまたの機会にしてくれ。私が気になったのは、あんたが試験官をするってことだ。こういう時のための専門の冒険者がいると知人に聞いていたのでな。ここのギルドでは新人の試験はギルドマスターが試験をすることになっているのか?」
「いや、今回は特例だ。なんせランク9の魔物を狩れる新人なんて聞いたことも見たこともねぇ。それが真実なら、普段試験をやってるようなやつらじゃ、簡単にくたばっちまうんだよ」
「つまり、私のせいということか、それはすまなかった」
「いや、いい。お前さんは期待の新人ってことになってるからな。その実力、楽しみにしてるぜ」
そ、そんな扱いに……?ハードル上げるのやめてくれませんかね。緊張してしまうじゃありませんか。
「ネクロは本当に強いんだから!あなたなんて簡単に倒しちゃうよ!」
「はっはっはっ、そいつぁ楽しみだ!どれ、俺も全力で行くかな」
まさかナルアからもハードルを上昇させられるとは。ここでこのギルドマスターさんに勝たないと、僕、かなりかっこ悪いぞ……?
ま、まずはナルアをいったん落ち着かせて……。
「ね?ネクロ。ネクロは最強だもんね!」
「……ああ、その通りだ。それに、今はナルアが見ている。無様な姿はさらせないさ。ちゃんと勝ってくるよ」
「うん!」
……そんなキラキラした笑顔を見せられたら、断るなんて不可能ですのん。そしてナルアの笑顔で僕のやる気はマックスまでチャージされました。ここはひとつ、全力でやりますか。
少し、ギルドマスターのことも観察してみよう。
身長は二メートルほど。筋骨隆々という言葉がよく似合う鍛え上げられた鋼の肉体。来ているのは動きやすそうな革鎧。素材は間違いなくランクの高い魔物だろう。
そして、背中に背負った戦斧。重く、堅そうなそれを、ギルドマスターはあろうことか片手で振り回している。刃渡り1.5メートルくらいあるぞあれ。ノルンで見なれてなかったら、腰を抜かしていそうな光景だ。
そして何より、ギルドマスターの動きには、洗練されつくした技が見える。たぶん技術的な面ではノルンよりも上かもしれない。歴戦の強者といった印象だ。
どうやって攻略したものかな……。戦斧を使ってるからと言って、機動力にかけるということもないだろう。どうにかして動きを封じて……。と思ったが、僕って拘束系の魔法あんまり教えてもらってなんだよね。
なにか、意表を突ければ、そこに最大威力の魔法を叩き込むことができれば倒せるかもしれない。……よし、これで行こう。
僕が戦い方を考えているうちに、ギルドマスターの準備も終わったようだ。ナルアもすでに闘技場の隅っこにいる。
「ネクロ、頑張って!」
そんな風に応援してくれるナルア。それに感動を覚えたが、戦闘前ということで顔に出さずにギルドマスターと対峙する。
「お前さん、杖は使わないのか?そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題な………いや、杖は出させてもらうか」
いけないいけない。死亡フラグを立てるところだった。気を取り直してっと。
僕の腕についている腕輪を軽く触れる。これはリンネからもらったアイテムボックスで、無限の蔵に比べるとグレードは堕ちるが、十分なものらしい。全部で50トンくらい入るって言ってたっけ?
アイテムボックスから取り出したのは、2頭の蛇が絡みつくような飾りが施された長杖。『冥界回廊』の最深部の宝箱から手に入れたものだ。
「【無限円環 ウロボロス】。これが私の杖だ。さぁ、始めようか」
「上等だ、行くぞ!」
新キャラ、ギルドマスター、グランド!おっさんです。誰得だよ。
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