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石打の山  作者: 禿頭の犬
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第四話 沙都の企み

色々あって2年ぶりの更新となりました

 石打丸が、あの沙都の求婚を断り、みにくいたえを嫁にするという噂は、たちまち村中に広まった。

 村の中では、石打丸と、たえの婚約が、物笑いの種となっていた。


「でえくの坊の、石打まある

 お多福たあえと、夫婦になるとさ

 なんともはあエ、お似合いじゃ

 なんともはあエ、お似合いじゃ

 天神さあまのすぅずぅめ

 おったまげえて

 ふんづけて

 ひっくり返って大笑い」


 村の人々は、そう口々にはやしたてては、腹を抱えて笑った。

 石打丸とたえが、並んで歩いているのを見掛けたりすると、


「やあ、茄子がへちまを連れて歩いてござる」


 などといいながら笑い転げるのだった。


 たえは、そのような村人の声に、とても傷ついていたが、石打丸が、一向に気にせぬ様子で、自分に向かってにこにこと笑いかけてくるので、なにか救われたような気持ちがして、自分も笑ってしまった。そうして笑ってしまうと、何ともいえず、石打丸のことが、いよいよ愛しく思えてきた。


 半月後、石打丸とたえとは、無事に祝言をあげた。


   *


 その頃、沙都は長者の屋敷で、病の床に伏せっていた。

 石打丸に振られたのが元で、熱の病に冒されていたのである。

 床の上で、沙都は考えていた。


 憎い。

 憎い。

 憎い。


 このままで済ませてなるものか。

 あの石打丸に、どうしても復讐してやらなければ。

 そして、わたしの石像を造らせなければならない。


 このままで済ませてなるものか。

 奴等に煮え湯をのませてやるのだ。


 沙都は、父の孫兵衛を床に呼んだ。

 沙都は、息も絶え絶えな様子を見せ、父の手を握って涙をこぼした。


「父上、父上、沙都は情けのうございます。父上のお言葉に耳を貸さず、あの、石打丸などという恥知らずのうつけ者に心を奪われてしまったばっかりに、このように起き上がることさえ出来ぬ身体になってしまいました」


 孫兵衛は、あわれな娘の姿を見せられて、心がちぎれてしまいそうだった。ぽろぽろと流れる涙をぬぐいもせず、沙都の手をしっかりと握りかえした。


「沙都や、沙都や、ああ、ワシの可愛い娘。可哀相に、可哀相に。ああ、ああ、もう、ワシはお前のためなら、お前のためならもうなんだってしてやる」


 沙都は、心のうちで、にんまりとほくそ笑みながら、ますますか細い声でいった。


「…ああ、大好きな父上。沙都のお願いを聞いてくださいますか」

「勿論だとも」孫兵衛はグイと身を乗り出した。「何でもいってごらん。何でも」


「では、お願いもうします。沙都は、沙都はやっぱり、あのひとのことが忘れられないのです。あのように酷い仕打ちを受け、おおきに恥を掻かされはしましたが、それでもやっぱり、石打丸様のことが好きなのです。どうか父上、あの、たえとかいう醜い女を、石打丸様からひきはがして、あのひとを沙都のもとへ。そうすればきっと、沙都の熱の病も癒えるに違いありません。お願いでございます、父上。あのひとを、石打丸様を、沙都のもとへ」


 沙都はそういうと、大袈裟に苦しみだした。

 孫兵衛は、そのような娘の様子を見て、急に立ち上がった。


「おのれ石打丸。娘の心をズタズタにしおって。どうするか見ろ」


 孫兵衛は、怒りで目を赤く染めていた。


「石打丸と、たえをここに連れてこい」


 孫兵衛が大声でそう命じると、下男たちが、二人を縄でしばって連れてきた。


「やい石打丸。おぬしはこともあろうに、ワシの可愛い沙都の求婚を断って、その醜い女と祝言をあげるというではないか。これは一体どういう了見なのか」


 孫兵衛は、語気も荒くそう問い詰めた。が、石打丸は、まるでなにも聞いていなかったかのように、にっこりと明るく笑った。


「おら、もうきめただ。たえとめおとになるだ」


 すると、それを聞いた沙都が、布団の中でしくしくと泣きはじめた。


「情けのうございます。情けのうございます」


「ワシの娘を見ろ」孫兵衛は二人を交互ににらみつけた。

「このように泣いておる。なぜだか分かるか」


「いいえ、分かりません」

 

 たえは、孫兵衛の吊り上がった目を見ながら、恐る恐る答えた。

 孫兵衛は、いきなり、たえの顔を、思い切り張り飛ばした。


 ばちん


 という音がして、たえは畳の上に転がった。


「なにするだ」


 石打丸は、血相を変えてたえに覆いかぶさった。


「この女を奥の間に連れていけ」


 孫兵衛が命じると、下男たちは、石打丸を無理やり引き剥がして、たえを奥の間に連れて行った。


「たえ、たえやあ」


 石打丸は泣きながら叫んだが、縛られている上に、屈強な男達に押さえ付けられているので、身動きが取れない。


「よいか、石打丸よ」


 孫兵衛は、石打丸の前に仁王立ちになり、石打丸の泣き顔を見下ろした。


「おまえは、石の像を造るのが、ことのほか巧みだという。そこで、ワシの望むものを、おまえの手で造ってもらおう。


『次の満月までに、ワシの娘の石像を千体、天神さまの山のてっぺんに飾ること』


 これができれば、あの醜い女をお前に返してやろう。もし出来なければ、あの醜い女は八つ裂きにして殺し、お前はワシの娘の婿となるのじゃ」


 次の満月までには、あと三日ほどしかなかった。これまで、孫兵衛の数々の無理難題を聞いてきた召使いたちも、これには呆れ返った。


「いかに彫るのが早いとて、石像一体彫り上げるのにでさえ一週間はかかろう。それをあと三日で石像を千体だと。そんなことができるものか」


 ところが、石打丸はたえの身が心配で心配で、そこのところまで考えが及ばない。


「せきぞうはつくるだ。だから、たえはかならずかえしてくれろ」


 といって、一も二もなく引き受けてしまった。

 喜んだのは沙都だった。

 沙都は、自分の望んでいることを、馬鹿な父親が先にかなえてくれたので、布団の中で笑いをかみころしていた。


 これで、どちらに転んでも石像はできる。

 あとは、あの石打丸を殺してしまいさえすれば、万事解決だ。

 ああ、わたしはなんて運がついているのだろう。


 これもきっと、わたしがあんまり美しいので、天神さまが、お情けをかけてくだすったのに違いない。

 そうだ、天神さまも、わたしの像が見たいというおぼしめしに違いない。

 ああ、わたしの美しさは、天神さまの心でさえ揺り動かしてしまったのだわ。


 天神さま、もう少しお待ちください、もうすぐで、わたくしの美しい石像が、あなたさまの周りを取り囲むことになりましょう。漆黒の黒耀石に刻まれたわたくしの美しい肢体が、月の光を浴びて艶やかな光を放つのです。その美しさを一目見ようと、遠い国からの旅人たちは引きも切らず、見たものは必ず賛嘆の言葉を口にするでしょう。その噂をききつけたお殿様は、石像を御覧になると、この石像の主を呼べと仰せになるでしょう。こうしてわたくしはお殿様にお仕えする身となり、お殿様の御寵愛を一身に受けて、やがてはお殿様の令室になるのです。ああ、ああ待ち遠しい。わたくしはその日が待ち遠しくてなりません。天神さま、どうか見守っていてくださいまし。もうすぐです。わたくしの美しい石像はもうすぐです。



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