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承6

承6


「一緒にご飯食べない?」

初めて声をかけられた日、詩織からお昼を誘われる。少し戸惑いながらも美月が頷くと、前の席の生徒がいなかったため、詩織はその席に座り、美月の方を向いた。

「ほんとは私も黒の男爵が良かったんだけど、売り切れてさぁ」

お弁当のおかずを口に運ぶと、詩織はその箸を美月の猫男爵に向けた。

「黒が一番可愛いと思うんだけど、時間の経過とともに後頭部の色が落ちちゃって。マッキーで塗ってるんだけど、それもだんだん薄くなっちゃって」

美月は自分の猫男爵を裏返すと、ちょうど後頭部あたりの色がうっすらと落ちていた。

「え〜、ハゲ具合がうちのパパと一緒じゃん。苦労してんね〜」

「え〜やめて〜高倉さんのパパに会うことあったら目のやり場に困る」

二人は思わず笑い合った。美月にとって、入学して初めて“楽しい昼休み”だった。


放課後。

帰りの支度をしている美月に、詩織が声をかけるてきた。

「帰りにみんなでカラオケ行くんだけど、美月ちゃんもどう?」

突然の誘いに驚く美月。

「え?行っていいの?」

「ん?聞いてないけどいいんじゃない?変な雰囲気になったら二人でサーティワン行って、ポッピングシャワー食べよ」

「ポッピングシャワー限定なの?私、バニラがいい」

「バニラはどこでも食べれるじゃん!お姉さんが帰りにコンビニでスーパーカップ買ってあげるから!ポッピン食べれるのはサーティワンだけだよ!」

「えーでも、サーティワンのバニラって濃厚で美味しいのに。レディボーデンみたいに」

「レディボーデンもスーパーで売ってるから!」

その後もサーティワンのフレーバー論争は激化し、結果、他のクラスメイトもこの戦果に巻き込まれ、その日の放課後は、カラオケではなく、みんなでサーティワンへ行くことになる。


高校生活、そしてその後においても、美月と詩織はたくさんの時間を二人で過ごした。呼び方もいつの間にか、「高倉さん」と「美月ちゃん」から「詩織」と「美月」となり、親友というかけがえのない存在になった。

詩織が猫男爵を持っていてくれたから、ひとりぼっちではなくなった…美月はそう思っていた。そして、ペットショップで灰色の猫を見かけたとき、美月はどこか運命的なものを感じていた。

猫の写真を撮り、スマホから詩織に送る。

すぐに既読になり、30秒もしないうちに返信がきた。

「男爵の化身??」

その短いメッセージを見て、美月は小さく笑った。


美月の机にしまってある黒の猫男爵は、今も後頭部がうっすらハゲている。




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